第5話:魔神のオーブと、僕の初魔法(※名前はアビィが決めました)
チョコドラゴンの死闘(?)を終えた僕たちは、最深部の祭壇に辿り着いた。
そこには、ドクンドクンと脈打つ、禍々しくも美しい「深紅のオーブ」が浮遊していた。
「主殿、あれが私の魔力の一部……『憤怒の欠片』です。さあ、手をかざして。あなたの器に、私の本質を迎え入れるのです」
パパに促され、僕は震える手を伸ばした。
触れた瞬間、頭の中に激流のようなイメージが流れ込む。燃え盛る業火、咆哮、そして――深い、深い「虚脱感」。
「ぐ……あああああぁぁぁ!」
あまりの熱量に膝をつきそうになった時、アビィが僕の背中をバチンと叩いた。
「シャキッとしなさい、カンちゃん! ため息つく準備、できてるんでしょ!?」
「……っ、ふぅぅぅ…………!!」
僕は叫びを飲み込み、パパの魔力を全身の力を抜いて受け流した。
太極拳のように、円を描くような滑らかな動きで、荒ぶる魔力の奔流を一点――自分の掌へと集約していく。
その時、僕の中に確かな「理」が生まれた。
これは、僕にしかできない魔法だ。
「よし、いい感じね! その魔法、アタシが命名してあげる!」
アビィがカスタネットを鳴らして宣言する。
「その名も――**『どん底ため息砲』**よ!!」
「ダサいっ……!! 名前が致命的にダサいよアビィ!」
思わずツッコミを入れた拍子に、溜まっていた魔力が一気に解放された。
僕がゆったりと突き出した掌から、目に見えるほどの透明な衝撃波が放たれる。
ズドォォォォォォン!!
洞窟の壁が紙細工のように粉砕され、遥か先まで風穴が開いた。
パパの「怒り」の魔力を、僕の「ため息」という脱力で変換した、究極のカウンター魔法。
「……すご。今ので、魔力の残滓が完全に僕のものになった気がする」
「お見事です、主殿。名前はともかく、威力は一級品。これでようやく、冒険者としてのスタートラインに立ちましたな」
「ちょっとカンちゃん、『ハピネス・バスター』が不満そうな顔ね!? アタシが一生懸命考えたんだから、使う時はちゃんと技名を叫びなさいよね!」
「……それだけは勘弁してくれ……」
僕は再び頭を抱えて、本日一番のため息をついた。
けれど、その衝撃波で洞窟がさらに崩れそうになり、僕たちは大慌てで出口へと走り出したのだった。




