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ため息ついたらゴスロリ魔神が降臨した 〜追放された僕ですが、パパの魔力を戻すついでに世界最強を目指します〜  作者: はまゆう


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2/5

第2話:魔神の宿探しは、甘い香りと共に(物理)

雨は上がった。けれど、僕の人生の土砂降りは続いている。

 一文無し、着替えなし、おまけに帰る場所もなし。

「はぁ……。ひとまず、どこか雨風をしのげる場所を探さないと。このままだと風邪を引く……」

 僕が頭を抱えて深くため息をつくと、隣を歩くゴスロリ少女――アビィが、フリルのスカートを揺らして僕の顔を覗き込んできた。

「ちょっとカンちゃん、さっきから景気悪いわね! アタシという最強の魔神がいながら、宿ごときで悩むなんて100年早いわよ!」

「そうですよ主殿。我ら親子にお任せいただければ、王宮とて一瞬で用意してみせましょう」

 背後で、シルクハットを被った巨大な執事――パパが、大真面目な顔で頷く。

「いや、王宮なんて出したら騎士団に包囲されるだろ! もっと目立たない、ボロい空き家とかでいいんだよ……」

 僕は裏路地の隅にある、今にも崩れそうな廃屋を指差した。

 ここなら誰にも文句は言われないだろう。

「……ふーん、あんなボロ小屋がいいのね。アンタって本当に物好き。でも、アタシのご主人様があんな所に寝るなんて、アタシのプライドが許さないわ!」

 アビィが不敵に笑い、腰の銀色に輝くカスタネットを手に取った。

「見てなさい! アタシが世界一『居心地がいい』場所に作り変えてあげるから!」

 カチッ!

 小気味よい音が響き、アビィの手から紫色の魔力がほとばしる。

 すると、パパが「おっと、少しばかりトッピングを……」と言って、巨大な手をかざして真っ赤な魔力を付け足した。

「ちょっ、二人とも待っ――」

 僕の制止は間に合わなかった。

 廃屋が光に包まれ、ボコボコと膨らんでいく。

 やがて光が収まったとき、そこに立っていたのは――。

「……は?」

 絶句した。

 そこには、ピンク色の壁、キャンディの窓枠、そして屋根からはたっぷりの生クリームが滴り落ちる、巨大な『お菓子の家』がそびえ立っていた。

 しかも、辺りには暴力的なまでに甘い香りが漂っている。

「じゃーん! 最高に居心地がよくて、お腹が空いたら壁も食べられる『アビィちゃん特製・スイーツパレス』よ!」

「主殿、娘の力作ですぞ。さらに私の魔力で、どこを食べても最高級のショートケーキの味に仕上げておきました」

「……バカなの!? これ、どう見ても目立つだろ! っていうか、ほら見ろよ!」

 案の定だった。

 甘い香りに誘われて、どこからともなく街中の子供たちが集まってくる。それだけじゃない。

 ガサガサと地面を揺らし、路地の向こうから巨大なハサミを持った魔物――アントラー(大アリ)の群れが、目を血走らせて押し寄せてきた。

「ギチギチギチッ!」

「うわあああ! アリが来た! 超巨大なアリが来たぞ!」

 僕は頭を抱えて絶叫した。

 宿を探していたはずなのに、なぜか巨大アリ軍団との防衛戦が始まろうとしている。

「あら、失礼な連中ね。アタシたちの夕飯を狙うなんて! パパ、やっちゃって!」

御意ぎょい

 パパが巨大な手をひょいと伸ばし、突撃してきた巨大アリを一匹、まるでイチゴのヘタを取るような手つきでつまみ上げた。

 そのまま、ポイッと空の彼方へ放り投げる。

「キィィィィィィ……(キラリッ)」

「一丁上がり、ですな」

「一丁上がりじゃないよ! こんなのすぐ騎士団が飛んでくるよ! もう、はぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 僕は本日、何度目かも分からない深いため息をついた。

 すると、その吐息を吸い込んだアビィが、なんだかさっきよりツヤツヤした顔で笑う。

「ふふん、いいわね、そのため息! おかわり、いっちゃう?」

「いらないよ! ……もういい、とりあえず中に入らせてくれ……」

 僕は諦めて、クッキーでできたドアを押し開けた。

 中に入ると、そこは魔法の力で驚くほど暖かく、優しいバニラの香りに包まれていた。

 冷え切っていた体が、じんわりと解けていく。

「……あ。……ちょっとだけ、暖かいな」

 ボソッと呟いた僕の言葉を、アビィは見逃さなかった。

「でしょ!? アタシに感謝しなさいよね、カンちゃん!」

 彼女は得意げに胸を張るが、その頬が少しだけ赤いのを僕は見逃さなかった。

 最強の魔神と大魔王の親子。

 とんでもない連中を拾ってしまった。……でも、これからの旅は、案外悪くないのかもしれない。

 ――その後、お菓子の家の甘い匂いが王都中に広まり、翌朝「巨大なケーキが裏路地に現れた」という怪事件として新聞に載ることを、今の僕はまだ知らない。

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