第16話:魔界のクーデターと、僕の休日(※お菓子の定期便は命より重いです)
その日の朝、僕が楽しみにしていた「魔王軍直送・地獄のショートケーキ」が届かなかった。
代わりに宿の前に現れたのは、ボロボロになった魔王の使い魔(小さなコウモリ)だ。
「カ、カノン様……! 大変です! 魔王様が『人間に媚びすぎだ』と反乱軍に監禁されました! お菓子の工場も占拠され……もう、定期便は送れません……!」
「……えっ、お菓子が……届かない?」
僕が絶望するより早く、背後でパリンッとガラスが割れる音がした。
アビィが持っていたティーカップを握りつぶし、その瞳には漆黒の炎が宿っている。
「……信じられない。アタシの楽しみを、そんな下らない理由で邪魔するなんて。……パパ、今すぐ『魔界への門』を開けなさい。あいつら全員、綿菓子にしてバラバラに引きちぎってやるわ!」
「お嬢様、落ち着いて。……おや、反乱軍の首謀者は私の元部下、激昂のバルガスですか。……主殿、これは『掃除』が必要なようですな」
パパが優雅に指を鳴らすと、宿のロビーに禍々しい異界の門が開いた。
「えぇ……。僕、今日はパズルを完成させる予定だったのに……」
「カンちゃん、パズルよりケーキでしょ! 行くわよ!」
僕は頭を抱えて最大級のため息をつきながら、無理やり門の中へと引きずり込まれた。
――魔界・反乱軍の本拠地。
そこには、数万の魔族兵士と、巨大な斧を構えたバルガスが待ち構えていた。
「ヒャーッハッハ! 魔王を倒し、今こそ人間界を……。ぬおっ!? 貴様ら、何者だ!」
「アンタがバルガスね。……アタシのショートケーキを止めた罪、万死に値するわよ。カンちゃん、やっちゃって!」
アビィの怒りの魔力が、僕の「ため息」の回路に強制注入される。
僕はバルガスの前に立ち、ゆったりと構えた。太極拳の「静」の動きで、数万の兵士が放つ殺気を一手に引き受ける。
「……はぁぁぁぁぁぁ…………っ!!」
僕は腹の底から、深く、重く、そして**「今日休みたかった」という怨念**を込めたため息を吐き出した。
「『どん底ため息砲・魔界震撼』!!」
ズドォォォォォォォォン!!
放たれた衝撃波は、魔界のどす黒い空を真っ二つに割り、数万の反乱軍を一瞬で無力化(あまりの絶望感に全員がその場で体育座り)させた。
バルガスに至っては、衝撃で斧がひしゃげ、腰が抜けてガタガタと震えている。
「な、なんだこの『人生終わった感』は……。戦う気が……失せた……。実家に帰りてぇ……」
「ふん、当然の結果ね。パパ、魔王を助け出して。お菓子の製造ラインを倍にするって約束させるのよ!」
「承知いたしました。……主殿、お見事。魔界の理すら書き換えるため息、恐れ入りました」
こうして、魔界のクーデターは「お菓子の定期便を再開させるためだけ」に、わずか数分で鎮圧された。
僕は、体育座りで泣いている魔族たちを横目に、再び深い、深いため息をつき、早く帰ってパズルの続きがしたいと心から願うのだった。




