第15話:王様からの呼び出し(※勇者はお断りしております)
魔王軍の要塞を「ため息」で消し飛ばした噂は、ついにこの国の頂点、国王様の耳にまで届いてしまった。
宿の前に並んだのは、前回の副団長たちの比ではない、王家直属の近衛騎士団。
「カノン殿! 国王陛下がお呼びです! あなたを『伝説の救世主』として公式に認定したいとのこと!」
「……はぁ。嫌な予感しかしない。絶対、面倒な仕事を押し付けられるよ……」
僕は頭を抱えて深くため息をついた。だが、僕の隣で豪華な馬車を品定めしていたアビィは、すっかりその気だ。
「いいじゃない、カンちゃん! 王宮の宝物庫には、世界中の可愛いドレスやキラキラした宝石が眠ってるんでしょ? アタシ、ちょっと見てみたいわ!」
「お嬢様の仰る通り。主殿、たまには豪華な絨毯を踏むのも悪くありません。……おや、あちらに見えるのは、かつて主殿を追い出した魔導師団の面々ではありませんか?」
王宮の正門をくぐると、そこには青ざめた顔で整列する魔導師団の姿があった。
先頭にいるのは、かつて僕を「無能」と罵った団長だ。
「カ、カノン君……。いや、カノン閣下! まさか、あの時の『ゴミ捨て』……いや、『戦力外通告』が、君をこれほどまでに成長させるとは……! 我々は君を誇りに――」
「ちょっと、そこのヒゲおじさん」
アビィがカスタネットをカチッと鳴らして、団長の言葉を遮った。
「カンちゃんを『ゴミ』って言った口で、よくそんなこと言えるわね。……パパ、このおじさんの口、一生イチゴジャムしか喋れないようにしていい?」
「お嬢様、それは少々酷ですな。……では、彼らが歩くたびに『プーッ』と音が鳴る呪いくらいにしておきましょうか」
「ちょ、二人ともやめてよ! 陛下が待ってるんだから!」
僕は冷や汗をかきながら、謁見の間へと進んだ。
玉座に座る国王様は、僕を見るなり立ち上がり、大声で宣言した。
「よく来た、カノンよ! そなたを我が国の『終身名誉勇者』に任命する! さあ、今すぐ北の魔界へ攻め込み、魔王の首を取ってくるのだ!」
……。
ほらね。やっぱりこうなった。
「名誉」なんて言葉で、タダ働きさせようっていう魂胆だ。
「……陛下、申し訳ありませんが、お断りします。僕はただ、静かに暮らしたいだけなんです」
「な、なんだと!? 王の命令が聞けぬというのか! 衛兵、この無礼者を――」
周囲の騎士たちが剣を抜こうとした瞬間、パパが僕の前に一歩出た。
ただそれだけで、王宮全体がガタガタと震え、豪華なシャンデリアが悲鳴を上げる。
「……陛下。私の主殿は『静かにしたい』と仰っているのです。……これ以上、彼の眠りを妨げるのであれば、この国ごと『ため息』で吹き飛ばすことになりますが……よろしいですか?」
「ひ、ひぃっ……!」
パパの放つ圧倒的な魔王の威圧感に、国王は玉座から転げ落ちた。
「……ふぅぅぅぅぅぅ…………っ!!」
僕は本日最大級のため息を吐き出した。
ただし、今回は攻撃じゃない。王宮全体に漂う重苦しい緊張感を、ふわりと霧散させる「緩和」のため息だ。
「『どん底ため息砲・不干渉』!!」
僕の吐息が広がると、抜かれかけた剣はスッと鞘に収まり、国王の恐怖心も「あ、もうどうでもいいや」という脱力感に変わっていった。
「……あ、ああ。わかった。勇者の件は、白紙にしよう……。好きにするが良い……」
「ありがとうございます。……さあ、アビィ、パパ。帰ろう」
「えぇー! ドレスは!? 宝石は!?」
「お嬢様、ご安心を。帰り際に、団長の財布をこっそり『チョコ』に変えておきましたから。それで美味しいものでも買いましょう」
「……はぁ。もう、泥棒みたいなことしないでよ……」
僕は再び頭を抱え、金ピカの王宮を背にして、住み慣れた(?)安宿へと向かって歩き出すのだった。




