第12話:聖女様の祈りと、僕の不運(※魔神の娘は嫉妬深いです)
領主を噴水に叩き込んだ翌日、僕たちは街の大きな教会に呼び出されていた。
なんでも、ここの「聖女」様が、小さくなったパパの姿を元に戻す手伝いをしてくれるらしい。
「あなたがカノン様ですね。噂はかねがね……。……あら、近くで見ると、とても優しそうなお顔立ち」
現れた聖女エルナ様は、透き通るような金髪と、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた美少女だった。
彼女は僕の手をそっと握り、顔を近づけてくる。
「……えっ、あ、はい。どうも……」
「これほど強大な魔力を秘めながら、その謙虚な佇まい……素敵です。私、あなたの力になりたいわ」
至近距離で見つめられ、僕は思わず頬が熱くなる。……が。
僕の背後から、**ゴゴゴゴゴ……**という地響きのような音が聞こえてきた。
「ちょっと、そこの光る女。さっきから馴れ馴れしいのよ」
アビィが、見たこともないほど低い声で呟いた。
彼女の周りでは、パチパチと紫色の火花が散っている。
「カンちゃんはアタシが拾った、アタシのご主人様なの! その手を今すぐ離さないと、アンタを巨大なマシュマロに変えてギルドの掲示板に貼り付けるわよ!」
「おやおや、小さな魔神様。嫉妬は見苦しいですよ? 私はただ、聖なる祈りでこの方の『呪い』を解こうとしているだけですわ」
聖女様も負けていない。微笑んでいるが、目が全く笑っていない。
バチバチと火花を散らす二人を前に、僕は頭を抱えてため息をついた。
「……はぁ。二人ともやめてよ。パパ、なんとかしてよ」
アビィのポケットから、パパがひょっこり顔を出す。
「主殿。お嬢様の怒りは、私の魔力の源。……おや、お嬢様の嫉妬心に反応して、私の回路が再起動し始めましたぞ」
「は? そんなのあり!?」
「いいわ、見てなさい! 聖女の祈りなんて必要ないって証明してあげる! カンちゃんはアタシだけを見てればいいのよ!」
アビィがカスタネットを**カチカチカチッ!**と高速連打した。
「パパ、元に戻りなさい! アタシの怒り(魔力)を全部あげるわ!」
ドガァァァァァァン!!
教会を揺るがすほどの魔力がパパに集中し、光が爆発した。
光の中から現れたのは……身長2メートルを超える、燕尾服を完璧に着こなした「元の姿」のパパだった。
「ふむ、お嬢様の愛(という名の独占欲)のおかげで、完全復活ですな」
「やったわ! 見た!? これぞ魔神の力よ!」
ドヤ顔で胸を張るアビィ。一方で、聖女様は「あら、残念。もう少しカノン様と親密になれると思ったのに……」と不敵に微笑んでいる。
「……はぁぁぁぁぁぁ…………っ!!」
僕は本日、最大級のため息を吐き出した。
すると、その衝撃波で教会の美しいステンドグラスが**ガシャーン!**と粉々に砕け散る。
「……あ。……やってしまった」
「あはは! カンちゃん、教会の破壊なんて大胆ね! さすがアタシの男だわ!」
「……違……う……っ。……はぁぁ……」
僕は崩れ落ちるステンドグラスの破片を見つめながら、これから届くであろう「修理費の請求書」の額を想像して、再び意識が遠のくのだった。




