殺されかけた公爵令嬢が、第三王子カイデルと共に逆襲してクズどもを断罪しました。
フェアリーネ・アシェント公爵令嬢は珍しい事もあるものだわと、青い石の首飾りを見ていた。
エレント第二王子が贈って来た首飾り。
青く輝くそれはもう美しい石が着いている首飾りなのだが、なんとも嫌な感じがする。
フェアリーネはアシェント公爵家の長女だ。いずれエレント第二王子を婿に迎えて、公爵家を継ぐ予定である。
エレント第二王子とは二年前に婚約を結んだ。
初めて会った時に、言われた一言が。
「こんな地味な女が私の婚約者か。まぁ仕方ない。アシェント公爵家に婿に行く立場だ。我慢してやろう」
そう言われて、ショックを受けた。
確かにエレント第二王子は美しい。金の髪に青い瞳の出会った当時は15歳。フェアリーネと同い年だ。
現在、二人とも17歳。しかし婚約を結んだとは言え、仲が良い訳ではなかった。
フェアリーネは黒髪碧眼の地味な容姿をしている。
だから、エレント第二王子に馬鹿にされた。
「もっと美しい女が私の婚約者だったらよかったのに」
「申し訳ございません」
と謝るしかなかったのだ。
そして、エレント第二王子が気に入っているのが、フェアリーネの義妹のアリアンテである。
一つ下のアリアンテは一年前にアシェント公爵家に来た、母違いの妹だ。
母が一年前に亡くなった。病死である。
それを待っていたかのように、愛人であった女とその娘が家に入り込んできたのだ。
愛人は後妻になり、その娘は妹になった。
確かに父と母は仲が良くなかったかもしれない。
でも、すぐに愛人を家に入れる事はないでしょう?
愛人は平民だったから、マナーも何もあったものではなく、義妹のアリアンテも酷いものだった。
来た当初から、フェアリーネの物を欲しがった。
「お義姉様。素敵なドレスね。首飾りね。これも素敵。私に頂戴っ」
フェアリーネは頑として断った。
「わたくしの物を欲しがるだなんて、育ちが知れているわ。誰があげるものですか」
父に嫌味を言われた。
「お前は姉なのだから、可哀そうな妹に強請られたらあげたらどうだ?」
「わたくしの物を強請られたらあげろですって?お父様が買ってあげればいいのではなくて?」
「可愛げがない。あの女そっくりだな」
亡くなった母の事を悪く言う父。
許せないと思った。
義母になった元愛人だった女は、
「本当に、フェアリーネ様は育ちがよろしいでしょうから、わたくし達なんて虫けらだと思っているのですね」
と言って、わざとらしく泣く。
アリアンテも一緒になって、
「本当にケチで酷いお義姉様」
言わせておけばいい。わたくしはいずれ、この母が残したアシェント公爵家を継がなくてはならない。
父は元々婿に来た男だ。
今はアシェント公爵を名乗っているけれども、正式な後継は自分である。
だから、しっかりと正式な後継として自己主張した。
でも、母が亡くなって、味方が誰一人いない。
幸い、使用人達はフェアリーネの立場を解っているので、言う事は聞くけれども、
サビシイ、サビシイ、サビシイ。
アリアンテは遠慮がなくて頭に来る。
「お義姉様の婚約者であるエレント様、素敵よね。輝く程の美男だわ」
と、ある日言って来た。
アリアンテは金髪碧眼で容姿だけはとても美しくて可愛い。
貴族が通う王立学園に編入した途端、エレント第二王子に近づいたのだ。
エレント第二王子もアリアンテが気に入ったらしく、
「私の婚約者がアリアンテだったらよいのに。あんな地味な女より、アリアンテが好みだ」
と、堂々と、言い放つ始末。
悲しい。凄く悲しい。
貴方はわたくしと結婚するのよ。
それなのに、アリアンテとイチャイチャして。
とある日、高価な首飾りが贈られてきた。エレント第二王子殿下の名で。
とても美しい首飾り。
でも、嫌な感じがする首飾り。
― 君に似合うと思って贈った。いつも着けてくれると嬉しい ―
仕方ないので、着けてみた。
青い石がキラキラしていて、とても綺麗な首飾り。
でも、なんだか嫌な感じの首飾り。
着けたら気分が悪くなってきた。
でも、学園に行くときに着けていかないと、何か言われるかもしれない。
仕方ないので、翌日、王立学園に行くときに首飾りを着けていった。
エレント第二王子が珍しく声をかけてきた。
「首飾り、着けてくれたんだな。似合っている」
「そうですか。プレゼント頂いてとても嬉しかったです。有難うございます」
胸がどきりとした。
ああ、この人はやっとわたくしを見てくれるようになったんだわ。
首飾りをプレゼントして下さるなんて。
しかし、アリアンテがやって来て、
「お義姉様に首飾りをプレゼントだなんて。私にも何か欲しいわ」
エレント第二王子は、アリアンテの腰を抱き寄せて、
「ああ、可愛いアリアンテにも首飾りを贈ろう。一緒に、選びに行こう」
そう言って二人は行ってしまった。
アリアンテはこちらをちらりと見て、口元を歪めていた。
悔しい。
ああ、何で?やっとわたくしを見てくれると思ったのに。
エレント様に恋をしているのかしら?
いいえ、わたくしは寂しいのだわ。
こちらを見て貰えなくてとてもサビシイ。
背後から声をかけられた。
「素敵な首飾りをしているな。フェアリーネ」
「まぁ。カイデル第三王子殿下」
一つ年下のカイデル第三王子は、現在16歳。
エレント第二王子が王妃の息子なのに比べて、カイデル第三王子は側妃の子だ。
立場が弱いカイデル第三王子、いまだに婚約者も決まらないと聞いていた。
金髪碧眼のカイデル第三王子も、それはもう美男だ。
ただ、側妃の出が落ち目の伯爵家だから、どこの家も関係を結びたがらないのだ。
カイデル第三王子は、首飾りを見て一言。
「この首飾り、兄上が?」
「ええ、エレント様から贈られたのですわ」
「なんだろう。嫌な感じの首飾りだな。調べた方がいい。もしかしたら毒が仕込まれているかもしれない」
「毒が?そういえば、この首飾りをしてから頭が痛くて」
驚いた。嫌な感じの首飾りだと思っていた。
今朝から頭が痛くて仕方ないと‥‥‥
もし、毒だったら?わたくしは殺されようとした?
カイデル第三王子は、
「一緒に首飾りを持って、毒の有無を調べに行こう」
そう言ってくれた。
カイデル第三王子が毒を調べてくれる専門の所を知っているという。
「王立薬毒研究所、国が管理している薬や毒を専門に研究している機関だ。そこで調べて貰おう」
と言ってくれた。
二人で王都の街の外れにある王立薬毒研究所へ首飾りを持ち込んだ。
カイデル第三王子が自分の身分を言って、首飾りを職員に渡せば、
「この首飾りですね。すぐに調べましょう」
と言って調べてくれた。
そして、袋に封印された首飾りを職員は持ってきて、
「揮発性の毒ですね。人の体温で毒を発生させるもので、一週間もすれば死に至るかと」
と言われた。
フェアリーネはショックを受けた。
エレント第二王子は自分を殺そうとした。
きっとアリアンテと結婚したかったのね。
アリアンテに公爵家の後を継がせて、婿に入る為に、わたくしの事が邪魔だったんだわ。
なんて愚かな。わたくしが正式な後継者だというのに。
カイデル第三王子が、ふらりとしたフェアリーネを支えてくれて。
「兄上を訴えよう。君を毒殺しようとしたんだ」
「有難うございます。わたくしからはっきりとエレント第二王子に引導を渡しますわ」
フェアリーネは戦う事にした。
国王陛下と王妃、父であるアシェント公爵と公爵夫人。
エレント第二王子と、カイデル第三王子、フェアリーネとアリアンテの8人が王宮の客間に集まった。
フェアリーネはにこやかに、アリアンテに向かって、
「この首飾りはわたくしにはもったいないと思いますので、義妹であるアリアンテにあげたいと思いますわ。アリアンテはわたくし物を奪おうとそれはもう煩くて困っておりますの。でも、今回はわたくしからアリアンテに差し上げることに致します」
首飾りをアリアンテに差し出すと、アリアンテは目に見えて真っ青になった。
「お、お義姉様っ…遠慮しますっ」
「遠慮しなくていいのよ」
エレント第二王子は青い顔で、
「お前にあげたのだ。フェアリーネ。私のプレゼントを気に入らないと言うのか」
カイデル第三王子が、国王陛下と王妃に向かって、
「この首飾りには毒が仕込まれておりました。揮発性の毒です。兄上はフェアリーネ嬢を殺害しようとしていた事は明らか。おそらくそちらのアリアンテという女も共犯でしょう」
エレント第二王子は叫んだ。
「私は知らない。私は普通の首飾りをっ」
アリアンテが喚く。
「酷いわ。私のせいにするのっ?エレント様っ」
「いや、していない」
「お義姉様が死んだら、結婚してくれるって言ったじゃない」
「おいっ」
フェアリーネは呆れた。
馬鹿な義妹があっけなく全て暴露したのだ。
だから言ってやった。
「エレント様とアリアンテはわたくしを殺そうとしましたわ。共謀して。牢に入れるべきだと思いますわ」
国王陛下はため息をついて。
「愚かな息子よの。甘やかしすぎたか」
王妃も眉を寄せて、近衛兵に命じた。
「エレントとそこの娘を騎士団へ。取り調べるように」
近衛兵が二人を連れて行く。
「私は悪くないっ。最初からアリアンテが婚約者だったらよかったんだ」
「お義姉様が悪いのよ。私がエレント様と結婚出来たのにっ」
フェアリーネは二人に向かって、
「わたくしは悪くないわ。アシェント公爵家の血を引いているのは父ではなく亡き母です。わたくしが正式な後継者よ。だからアリアンテなんて資格もないわ。貴方達が身勝手なだけじゃない?地獄に落ちればいいわ。二度とわたくしの前に現れないで」
父であるアシェント公爵は唖然として、
「まさかアリアンテが‥‥‥」
義母はぎりぎりと悔しそうに、
「私の大事な娘がっーーー」
フェアリーネは二人に向かって、
「わたくしがアシェント公爵家を継ぎます。そのわたくしを殺そうとしたアリアンテは当然、罰を受けるべきですわ。いいですわね?お父様、お義母様」
しっかりと宣言した。
一月後、カイデル第三王子が、新たな婚約者になった。
「君の父上も婿で正式な血筋は君にあるのに。兄上は何を考えていたんだ?アリアンテなんて女と結婚したってアシェント公爵家は継げないのに」
「あの二人が愚かだっただけでしょう」
「君にプレゼントがあるんだ。首飾りは嫌な思い出があるだろうから、髪飾り。君の黒髪に映えるように金と銀で作ってみた」
本当に綺麗な髪飾り。
嬉しくなった。
「とても嬉しいですわ。カイデル様」
「私は君を裏切らない。愛しているよ。フェアリーネ」
胸がどきりとする。
貴方の事が好きになっていいですか?
カイデル第三王子の顔が近づいて来る。
キスをした。
フェアリーネは生まれて初めて、幸せを感じた。
18歳になって、フェアリーネはカイデル第三王子と結婚した。
カイデルはアシェント公爵になり、フェアリーネは公爵夫人となった。
しっかりと父と義母は、小さな屋敷を領地の片隅に立てて強引にそこへ追いやった。
エレント第二王子は、王族と名乗る事を許されなくなり、ただのエレントとなって牢に入れられた。
しかし、忽然と姿を消した。
人々は屑の美男を教育する変…辺境騎士団がさらっていったのか?
それとも王家の恥だと、極秘に始末されたのか?
と噂をした。真実は定かではない。
アリアンテは現在、王立薬学研究所で、毒の実験体として生かされている。
職員は首飾りをアリアンテにかけながら、
「安心して下さいね。死にそうになったら解毒しますから、なぁに。どれだけ耐えられるか実験するだけですよー」
だなんてにこやかに言って、アリアンテは悲鳴をあげて気絶した。
地獄はまだ始まったばかり。
そんな事は関係なく、フェアリーネは今は幸せだ。
カイデル第三王子の実家である伯爵家に支援をし、今、現在、伯爵家も持ち直して、側妃様に感謝されている。
可愛い子も産まれた。
愛しい夫カイデルと共に幸せを満喫するフェアリーネであった。
変…辺境騎士団では、
「王立薬学研究所、あそこはイっちゃっている連中の集まりだからな」
「お前は良かったな。俺達の教育は優しいぞ」
「そうそう、ちょっと触手で絡められるだけだけど」
「三日三晩、じっくりとな♡」




