第4話「悪夢(後編)」
「え……? ここはーーなに? 私はいつの間にこんなところにーー」
そこは教会の外だった。燃え盛る村の惨状。
ガルナの背後には教会の建物だけが不気味にそびえている。
周囲には村人や動物、家畜の死体や死骸が転がっている。見るも無惨な姿だ。どれもガルナには見覚えがあった。老若男女、知らぬ顔がいないほどの小さな村。
身に覚えがない顔を探す方が難しい。
「ど、どどどどどうしてこんなっ……! どうして村が燃えてるの! どうしてみんな死んでるの!?」
「嫌だ! そんなの! 夢なら覚めてよぉ!」
もはや涙も枯れ果てたと思っていたが涙が溢れる。それは悲しみか怒りか。ガルナは気が狂いそうだった。
だから一心不乱に走り出した。
それでも光景は変わらない燃え盛る家々と殺された人々。
ガルナは心の底から願う。これが夢であってほしいと。夢なら一秒でも早く眠りから目覚めたいと。
「なんだあ? まだ生き残りがいたのか!」
「ひっ! もしかして魔物っ!?」
しかし眠りから覚めることはない。それどころかガルナは魔物に見つかってしまった。
「そうだぜぇ? ニンゲン。しかしまさか貴様が勇者の生まれ変わりかあ?」
「なに……言ってるの……? 勇者の生まれ変わりなんて、そんなのいるわけないじゃない……」
ガルナは思わず後退る。手足が震える。殺されるかもしれないという恐怖が現実味を帯びてくる。
その魔物はゴブリンだった。
緑色の肌をした怪物。耳は尖り、牙を剥き出しにし、その手には小斧を握っている。大人のほどの身長はなく、小鬼と呼ぶに相応しい見た目をしていた。数は四体。とてもただの村人の少女が敵う相手ではない。
「ケケケッ! どっちでもいいぜぇ! オーガレさまにはこの村のニンゲンは皆殺ししろと命令されたからなァ!」
「こ、殺されるっ!?」
まるで怯えたガルナの反応を愉しむようにじりじりとゆっくりと近付いてくるゴブリンたち。
ガルナは怯えながらも後退る。このままじゃ殺される。でも自分にはゴブリンと戦う力はない。どうしたらいいのか考えてるうちにある言葉が頭を駆け巡る。
『魔族を殺せ』
「っ!? そんなの……できるわけ……」
魔族を殺せ。その言葉が何度も頭を巡る。
「そうだぜぇ! 殺すぞ! ガキイイイッ!!」
「い、嫌だ! 死にたくないッ!!」
「なっ! グギャアアア!?」
「が、ガキ! なにしやがった!」
ガルナに一斉に襲い掛かったゴブリンたちだったが不思議な力に吹き飛ばされた。
そして一振りの禍々しい黒剣がガルナの目の前に現れた。
「な、なに……? こんな剣、今までなかったのに!」
黒剣はガルナの目の前の地面に突き刺さり目視できるほどの強大で異質な魔力を放っている。
まるでガルナに抜けと言っているように。
「まあいい! もう一度だ死ねえ!」
「い、いや! 来ないでえええ!」
「ガガッ!? オレさまがこんな小娘にやられる……とは……」
ガルナは気づいたら黒剣を引き抜き、ゴブリンをその黒剣で真っ二つに斬り伏せていた。
「え? 私がやったの……? 剣なんて触ったこともないのに」
ガルナは自らが握っている黒剣を見る。
触ったことすらないはずなのにヤケに手に馴染む。まるで何年も前から傍にあったかのように。
「やりやがったな! ニンゲンがああああ!」
「ま、待て! 何かおかしい!」
ゴブリンが一体やられたことでとあるゴブリン二体は逆上しガルナに襲い掛かろうとする。また別のゴブリンは異変を感じると止めようとするが逆上したゴブリンは止まらない。
『ーーーーガルナよ魔族を殺せ』
「私は魔族をーーみんなを殺した魔族を殺すッッ!!」
「グギャアアアッ!?」
「魔族は死ななきゃ……だめなんだ……絶対に………」
再びガルナに語り掛ける声が頭に響くと同時か瞳が黄金色だったそれは真っ赤に染まり、その声の言葉に支配され導かれるように黒剣に突き動かされるままに襲い来るゴブリンの攻撃を回避し斬り伏せた。
もはやガルナに迷いはなかった。
「ま、まさか……勇者アルケイドの生まれ変わりなのか……?」
「はあはあ……あとはあなただけだね。ゴブリンさん」
残されたゴブリンは悟る。この少女こそが五百年前、魔族を苦しめた伝説の勇者アルケイドの生まれ変わりだということに。
初めての戦闘だからか元々の体力のなさかガルナは息を切らし、汗を掻いている。
動きもそこまで早いわけでもない。むしろ遅いくらいのはずだ。冷静に対処すれば問題ない。だがそれでもゴブリンには恐怖が勝った。
伝説は本当だったのだ。
「くっ! 殺されてたまるかああああ!」
「え? あっ、待って!」
「ガルナ!? 生きてたのか!」
ゴブリンは唇を噛み締めながら睨むがその瞬間、叫び声を上げてガルナから背を向けてまさかの逃走。撤退を選んだ。そのことにガルナは驚くが声を掛けられて追いかけられず声が振り返る。
「え? ダリアス……?!」
「ああ、良かった……ガルナだけでも生きててくれて」
そこに現れたのはガルナの年上の幼馴染の少女、ダリアスの姿だった。




