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聖魔の勇者〜やがて伝説となる聖女~  作者: 朝霧直刃


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第2話「勇者の生まれ変わり(後編)」

「おばあさま……どこ……ここは……暗くて狭い……寒い……」


 冬のように寒気が容赦なく吹き抜ける場所に少女はいた。

 幸いにもベッドがあったため掛け布団を頭まで被り、寒さを凌いでいたが寒さだけではなく暗く、外から聞こえる爆発音が少女の不安を掻き立てる。


「どうして……私だけ……おばあさま……早く戻ってきて……」


 少女は嘆く。

 その場所は教会の地下室。

 防空壕のように外敵から身を守るために作られた場所だ。

 だからこそ少女が震えて布団を被ってる場所だけではなく広く地下は作られていた。

 地下が見つかってもすぐには見つからないように。


「信じてるから……」


 少女は寒さからか何度目かの眠りに落ちてしまう。

 彼女が心待ちにするおばあさまという人を想いながら。



「う……ん……あれ? 私、眠っちゃった……? さ、寒い……もう、出てもいいかな?」


 少女は目を覚ます。

 少女の姿が、背中ほどまである雪のように白い白銀の髪、鮮やかな黄金色の瞳。そして華奢な体がベッドを降りると露わになった。


「っ! な、なに? 誰かいるの?」


 少女のいる地下室の扉の奥から物音が聞こえてくる。

 その音はゆっくりと近付いてくると音は大きさは増し、その扉は開かれた。


「が、ガルナ……」


「おばあさま!? どうしてそんなボロボロで血だらけで……すぐ治してあげるね!」


 その扉の奥から現れたのは先ほどまで村の中でオーガに対峙していた老齢のシスターだった。

 老齢のシスターは全身を傷を負い、出血は酷く。今にも事切れそうなほどに疲弊している様子だ。

 そんな老齢のシスターにガルナと呼ばれた少女はおばあさまと呼んで心配そうに駆け寄った。ガルナの体は光り輝き、両手で老齢のシスターに触れると彼女も体も光り輝き、傷を癒やしていくがその表情は晴れなかった。


「もう……いいんだよ……ガルナ……私はもう長くはないから……」


「な、なんでそんなこと言うの!? これは天使さまから授かった奇跡なんだよ!? おばあさまの傷だって今まで何度もーー」


 それでもガルナは癒やしの力で老齢のシスターの体を癒やした。癒やし切った。しかし老齢のシスターの顔色は悪くなる一方だった。


「ああ……そうさ……あんたは何度も私をーー体だけじゃなく心すらも癒やしてくれた……本当に幾度となく救われた……」


「おばあさま……そんなお別れみたいなこと言わないで! きっと疲れてるんだよ。ベッドで少し休もう?」


「ああ……そうかもしれないね……」


 ガルナは今にも泣き出しそうだったが堪える。堪えて、老齢のシスターを先ほどまで眠っていたベッドに寝かせ、掛け布団をかけてあげた。



「ああ……温かいね……」


「うん……私がさっきまで寝てたから……」


「幸せだね……娘のぬくもりを感じられるのは……」


 老齢のシスターはその布団の温かさに表情を緩ませた。

 その布団よりも寒気の強さの方が勝るだろうがなぜか今の老齢のシスターにはその布団の温かさの勝るように感じた。


「ガルナや……手を握ってくれるかい?」 


「え? う、うん! たくさん握るよ! ぎゅって!」


「ああ……そうだったそうだった。これが私の娘の手だったね。忘れてしまうところだったよ……」


「おばあさま……? 今……私のこと、娘って」


 老齢のシスターの自分に向けた娘という言葉に自然と涙を流す。

 ガルナ自身は老齢のシスターを時に母のように時に祖母のように想い、慕ってきた。

 しかし、老齢のシスターからそんな言葉をかけられるのは初めてで嬉しさと悲しさが混じった涙が止めどなく落ちていく。


「ああ……私はガルナを娘のように思っているよ。嫌かい?」


「嫌じゃない……嫌じゃないよ! おかあさま……っ!」


「そうかい……私を母と呼んでくれるのかい……嬉しいねぇ……良かったよ……その言葉が聞けて……今日はぐっすり眠れそうだ……」


「おかあさま……?」


 いつもなら何のことはない日常生活の穏やかな会話劇だろう。

 しかし今日は違った。

 ガルナはそれを我が身で感じ取った。

 目を閉じる老齢のシスターからはほんのわずかにあった手に込められた力も寝息すらも聞こえてこなかったのだ。


「え? おかあさま……? 嘘でしょ……やっと母と自信を持って呼べたのに! おかあさま! 返事してよ!」


「…………」


「う……ひっく……おかあさまあああああぁぁあああ!!」


 それから老齢のシスターは静かに眠るように息を引き取った。その顔は真っ白だったが穏やかな笑みを浮かべていた。

 残されたガルナはというと、夜通し泣いた。

 朝が訪れるまで、涙が枯れるまで泣き続けた。

 彼女の愛した母は帰ってこないことを知りながら。



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