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第9章 灰の涙、蒼の声、金の光

 1 灰狼の少女の言葉


 夕暮れの路地。

 綺羅と煌の前に、ルーヴァが立っていた。


 灰色の瞳は揺れ、

 胸の灰核は淡く脈動している。


「……綺羅」


 呼ばれただけで、綺羅の心臓が跳ねた。


「どうして……ここに?」


 綺羅の問いに、ルーヴァは唇を震わせる。


「……会いたかったから」


「え……?」


「会いたくて……

 でも、会っちゃいけないって……

 言われて……」


 少女の声。

 狼でも敵でもない、年相応の震え。


 煌が一歩綺羅の前に出る。


「綺羅に……何をするつもりなの?」


 その言葉に、ルーヴァは胸を押さえた。


「わたし……綺羅に、何もしたくない……

 ほんとは……触れたいくらい……あたたかいのに……」


 灰狼が、涙をためている。


(どうして……

 こんなに苦しそうに……)


 綺羅は思わず手を伸ばしかけた。


「ルーヴァ……」


 その瞬間――


 2 “命令”が流れ込む


 ルーヴァの胸の灰核が、突然、黒く濁った。


「……っ、あ……!」


 ルーヴァの身体がふらつき、目が苦痛にゆがむ。


「ルーヴァ!?」


「や……だ……やめて……!」


 涙を流しながら頭を押さえる。


(これは……クロウが……!)


「命令……しないで……

 綺羅を、奪いたく……ない……!」


 灰核が、黒い光を散らしながら脈打つ。


 綺羅の胸がざわつく。


(わたしに近づいたことで……灰核が、クロウの命令で無理やり……!)


「ルーヴァ、大丈夫……?」


 綺羅が手を伸ばす――


「来ないでっ!!!」


 ルーヴァは叫び、地面を蹴った。


 灰色の残像。

 少女の爪が綺羅の胸へと伸びる。


「危ないっ!!」


 煌が綺羅を突き飛ばし、

 胸の光紋が金色の防壁を作る。


 爪は光に跳ね返った。


「は……っ……!

 ごめ……ごめんなさい……!」


 ルーヴァは自分の腕を抱きしめるように震えた。


「わたし……ほんとは……

 綺羅を傷つけたくないのに……!」


 3 三つの核が触れ合う


「ルーヴァ!!」


 綺羅は立ち上がり、灰狼へ駆け寄った。


「綺羅、危ないっ!」


「大丈夫! ルーヴァは……敵じゃない!」


 煌の声を振り切り、綺羅はルーヴァの腕をつかんだ。


 触れた瞬間――

 三つの核が同時に反応した。


 蒼核が蒼い光をあげ、

 灰核が震え、

 光核が金色の紋を輝かせる。


「や……だめっ……!

 わたし……綺羅に触れたら……!」


「大丈夫。

 ルーヴァは、わたしを傷つけない」


「でも……命令が……!」


「命令なんて関係ないよ。

 君は君の心で選べる」


 灰核が痛みにきしむ。

 それでも、綺羅の手を振りほどけない。


 煌も震える声で叫ぶ。


「ルーヴァ……お願い、綺羅を……取らないで……!」


「煌……?」


「綺羅は……わたしの……大切な……!」


 胸の光紋が強く光を放つ。


 蒼、灰、金――

 三つの光が交じり合い、空気が震えた。


(……共鳴……?)


 綺羅は胸の奥の痛みが、不思議と和らぐのを感じた。


「三人で触れ合うと、核が……」


 煌が息を呑む。


「響き合ってる……」


 ルーヴァの瞳が揺れた。


「綺羅……煌……

 これが……あたたかい……?」


 初めて触れたぬくもりのように、

 灰狼は涙をこぼした。


 その涙が地に落ちた瞬間――


 4 黒衣の導師、降り立つ


 風が止んだ。


 路地が急に静まり返る。


 綺羅は背筋を冷やす悪寒を感じて振り向いた。


 夕日を背に、

 黒い布のような影がゆらりと揺れる。


 その中心に――

 ひとりの男が立っていた。


「クロウ……!」


 ルーヴァが凍りつく。


「楽しそうだな、灰狼」


 クロウの声は低く、

 風も震えるような冷たさを帯びていた。


「綺羅、煌。

 そしてルーヴァ。

 三つの核が共鳴するとは……予想外だ」


 綺羅は煌を守るように一歩前に出る。


「あなたが……ルーヴァを苦しめてるの?」


「苦しみ?

 灰狼には心など不要。

 感情は毒にしかならぬよ」


 クロウは穏やかに微笑みながら、

 ルーヴァの胸に指を向ける。


「戻れ。

 ルーヴァ」


「……や、やめて……」


「命令だ」


 灰核が苦しげに震える。

 ルーヴァの足が勝手に綺羅から離れようと動く。


「ルーヴァ!!」


 綺羅はルーヴァの腕をつかむ。


「ルーヴァは……行かせない!!」


「綺羅……っ……!!」


 その瞬間、三人の核が激しく脈動した。


 蒼。

 金。

 灰。


 三つの光が衝突し、

 夕暮れの路地を満たす。


 クロウの表情に、初めてわずかな驚きが走った。


「ほう……」


 蒼狼の力でも、光核の加護でもなく――

 灰狼の感情が混じった光。


 クロウが低く呟く。


「核が……同調を始めたか」


 そして、ゆっくりと手を伸ばした。


「ならば……まずは蒼核から奪う」


 黒い波が、綺羅へと迫る。


 《第9章 完》

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