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第8章 ひかりの紋、蒼の痛み、灰の揺らぎ

 1 胸に刻まれたもの


 その朝、煌は鏡の前で長く息を止めていた。


 胸の中央――

 昨日、金の粒が溢れた場所。


 そこに、**細い光のもん**が浮かんでいた。


 円形の光。その中心に、雫のような模様。

 触れると、脈を打っている。


「これ……わたしの……光核……」


 煌は指先を震わせた。

 ひんやりした光が、指をすり抜けていく。


(昨日、綺羅を助けたとき……

 この紋、あった……?)


 記憶をたどりながら、

 胸の奥の温かさに手を当てた。


「綺羅……今日、言わなきゃ……」


 ぽつりと呟き、息を吸った。


 2 ふたりの温度差


 登校の道で綺羅と合流すると、

 綺羅は無理に笑顔を作っていた。


「おはよう、煌!」


「……綺羅、顔色悪いよ」


「へ、平気だよ! 寝不足なだけ!」


 綺羅は胸に手を当てる仕草を隠すようにした。


(蒼核が……昨日からずっと熱い……

 でも煌に心配させたくない……)


「綺羅。

 あのね、ちょっと見てほしいものが……」


 煌が制服のボタンに手をかけた。

 そのとき――


 校舎の近くで、

 影が揺らぎ、低い唸り声が響いた。


「……また?」


「綺羅、いこう!」


 会話は一瞬で消えた。


 二人は走り出し、校舎裏の影へ飛び込んだ。


 3 白昼の影


 校舎裏。

 生徒の姿はなく、ただ影狼だけがいた。


 昼間なのに、濃い影をまとっている。

 昨日よりも、さらに黒く。


「また強くなってる……!」


「綺羅、気をつけて!」


 綺羅は息を吸い、胸に手を当てる。


「《変身ルミナ・フォルム》!」


 蒼光が弾け、蒼狼が影へと飛び込む。


 拳を叩き込むたび、

 蒼核の脈が乱れ――痛みが走る。


(だめ……こんな、昼なのに……暴走の気配が……!)


「綺羅ぁっ!」


 煌の叫びが届く。


 蒼狼は歯を食いしばり、拳を影に叩き込んだ。


 4 光核が目を覚ます


 影狼が蒼狼の首元へ爪を伸ばした。


(まずいっ――!)


「綺羅!!」


 煌が飛び出す。

 その胸の光紋が熱を帯び、光を散らした。


 ――金の防壁のような光が

 蒼狼の前に広がる。


 影狼は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「これ……わたし……?」


 煌は両手を見つめる。

 光紋が脈打ち、まるで意志を持つように輝いていた。


「煌、危ないから下がって!」


「でも……!」


「大丈夫。

 君がいてくれれば、暴走しない!」


 蒼狼はその言葉のまま、

 胸の光に力を合わせた。


「やああああああっ!!」


 蒼光の拳が影狼を貫き、

 黒い霧が空へと消えた。


 変身が解け、綺羅はへたり込む。


「はぁ……はぁ……」


「綺羅!!」


 煌が抱きつき、綺羅の胸に耳を当てる。


「鼓動が……乱れてる……!」


「だいじょうぶ……煌の光が……抑えてくれたから……」


 綺羅は笑った。

 弱く、だけど温かい笑み。


 煌はその笑顔を見て、胸が締め付けられた。


(綺羅……わたし……

 もっと力があったら……守れるのに……)


 5 灰狼の決意


 ビルの陰。

 ルーヴァは、二人の戦いを見ていた。


 昨日よりも、近い距離で。


(また助け合ってる……

 どうして……私は……誰にも守られなかったのに……)


 灰核が震える。

 これも“不純な感情”。


「ルーヴァ」


 背後からクロウの声。


「綺羅と煌……

 あの二人は、核が呼び合っている。

 ゆえに、蒼核が暴走しやすくなっている」


「……暴走?」


「蒼核は、もともと“災いの核”。

 心を救う光などではない」


 ルーヴァは目を見開く。


(綺羅の……あの優しい光が……?)


「蒼核は心を破壊し、

 持つ者を獣へと堕とす。

 その暴走を止めてやれるのは――」


 クロウは灰核に触れた。


「灰狼、お前だけだ」


 指先から冷たい波動が流れ込む。


「行け。

 蒼狼を倒せ。

 それがお前の存在理由だ」


 だが――


「…………いや」


 かすれた声だった。


 クロウの指が止まる。


「……なんだ?」


「……綺羅は……

 倒す相手じゃ、ない……」


 灰核が震え、

 ルーヴァの目に涙のような光がにじんだ。


「綺羅を見てると……胸が……痛い……

 この痛み、知らない……

 でも……嫌じゃない……」


 クロウの影が濃くなる。


「ルーヴァ。

 その感情は灰核には不要だ。

 不要どころか――邪魔だ」


「でも……わたし……綺羅と……」


「黙れ」


 闇がルーヴァの足元から伸び、

 体に絡みつく。


「……ああっ……!」


「感情は灰狼を壊す。

 これ以上の揺らぎは許さない」


 クロウは冷酷に告げる。


「次に綺羅に会ったら――

 心臓を奪ってこい」


 ルーヴァは震えながら、

 それでも、かすかに首を振った。


(綺羅……

 会いたい……

 でも……奪いたくない……)


 6 三つの核が向かい合う日


 放課後。

 夕日の中で綺羅と煌は歩いていた。


「綺羅……今日こそ言うね。

 わたしの胸に……光紋ができたの」


「……やっぱり」


「見て……怖い?」


「全然。

 むしろ……嬉しいよ」


 綺羅はふわりと笑った。


「煌の光がなかったら、

 わたし……今日、暴走してた」


「綺羅……」


 煌は涙をこらえた。


 そのとき。


 ひゅう、と夕方の風が巻き上がり――

 背後に影が落ちた。


 二人が振り向く。


 そこに立っていたのは――


 ルーヴァ。


 灰核が、夕日に照らされ淡く光る。


 その瞳には、

 昨日にも今日にもない揺らぎが宿っていた。


「……綺羅」


 ルーヴァは、一歩踏み出した。


 綺羅も、煌も、息を呑む。


「会いたかった……」


 その声は、

 涙を堪えている少女の声だった。


 《第8章 完》

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