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第5章 揺らぐ光、彷徨う灰

 1 微かな光


 胸の痛みは、昨日よりもずっと静かだった。

 けれど、綺羅はそれが“嵐の前の静けさ”であることに気づいていた。


 ――蒼核は、何かを待っている。


「綺羅、今日、病院いかない?」

 隣から心配そうな声。煌だ。


「え……なんで?」


「なんでって……顔、青いよ。昨日の戦いで倒れたし……」


 煌の瞳は純粋だった。

 綺羅は笑ってごまかそうとした――その時。


 煌の胸元が、また“ぴくり”と光った。


(……やっぱり。

 光核の……前兆。)


 煌は気づいていない。

 だが、綺羅の眼にははっきりと見えていた。


 黄金――

 蒼とは違う、あたたかな光。


(私と同じ……狼核の宿主?

 どうして煌が……?)


「綺羅、ほんとに大丈夫だよね?」


 煌は近づく。

 その距離だけで、綺羅の蒼核は微かに反応した。


(共鳴してる……?)


「うん、大丈夫。ありがとう」


 綺羅は笑った。

 けれど、胸の奥では不安がざわついていた。


 2 灰狼の憂い


 町外れ。

 誰も使っていない古い公園。


 ルーヴァは鉄棒に腰かけ、

 ぼんやりと夕焼けを見ていた。


「……また失敗した」


 蒼核を“奪う”任務。

 綺羅を倒すはずだったのに、影狼まで敗れた。


 灰核は黙ったまま、

 ルーヴァの胸奥で淡くうずく。


(……綺羅は“守ろうとした”。

 どうして……?

 私のことを、知ってもいないのに)


 思い出すのは、綺羅のまっすぐな瞳。


 そして――

 あの時、蒼光を浴びた瞬間、胸が痛んだ。


(あれは……記憶?

 忘れたはずの……わたしの“人間だった頃”……?)


 風が頬を撫でる。

 けれど、ルーヴァの心は、氷のように冷えていた。


「ルーヴァ。」


 背後から、低く響く声。

 クロウだった。


 黒い衣の導師。

 影を従える男。


「綺羅を……殺せなかったと聞いた」


「……殺す、つもりは、“奪う”つもりは……ありました。

 でも、綺羅の蒼光が……」


「言い訳は要らぬ」


 クロウは歩み寄り、ルーヴァの頬に触れた。


「お前は“器”だ。

 迷いは、灰核を濁らせる」


 その指先は冷たく、痛みを纏っていた。


(私は……器……)


 クロウが去ったあとも、

 胸の灰核はずっと重く沈んでいた。


 3 影狼の蠢動


 夜が落ちる。

 綺羅は帰宅中、強烈な寒気に足を止めた。


(……くる)


 蒼核が震える。


 月は半月。

 だが、空を覆う雲が薄く流れ、

 月光が一瞬だけ綺羅を照らした。


 ――どくん。


 蒼核が脈動した。


「……また、影喰い……?」


 綺羅は路地裏に身を滑り込んだ。

 その先で、影が蠢いている。


 影喰い――じゃない。


 あの“影狼”と同じ、禍々しい気配。


(クロウの……仕業?)


 影狼が立ち上がる。

 同時に、綺羅の背筋をすべる感覚――


 殺意。


 純粋で、冷たい、命令だけの殺意。


「……っ!」


 綺羅は胸元に手を当てた。


「《変身ルミナ・フォルム》!」


 蒼光が裂ける。

 蒼狼となった綺羅は、影狼の拳を受け止めた。


 衝撃が腕に走る。


(強い……!

 昨日より……明らかに、強化されてる……!)


 クロウは影狼を“量産”しているのかもしれない。


 4 蒼狼の危機


 影狼は連続して拳を叩きつける。

 蒼狼の身体が揺れ、爪が火花を散らす。


 綺羅は反撃しようと動き出す――が、


「……っ!」


 胸の蒼核が、刺すように疼いた。


(やめて……今じゃない……!)


 蹴りの軌道が乱れる。

 影狼の爪が脇腹を掠め、蒼い血光が散る。


「がっ……!」


 影狼の拳が胸へ迫る。


 その瞬間――


「綺羅――ッ!!」


 声。


 煌の声。


「っ……煌!? なんで……!!」


 振り返ると、煌が路地の入口に立っていた。

 恐怖で震えながらも、綺羅を見ている。


 その胸元が――

 黄金に光った。


 影狼も気づく。

 赤い眼孔が煌へ向く。


(だめ!)


「煌ッ!! 逃げてぇぇ!!」


 蒼狼は、蒼核を押し込むようにして力を振り絞り――


「うあああああッ!!」


 影狼の胸元を、蒼い衝撃で吹き飛ばした。


 影狼は壁へ叩きつけられ、

 煙となって消えた。


 蒼狼の姿がゆらりと消え、

 綺羅はその場に膝をついた。


「綺羅!!」


 煌が駆け寄る。

 肩を抱えた瞬間――


 煌の胸元の光が、綺羅の蒼核と“共鳴”した。


「……あ……っ!」


 蒼と金が交わり、

 小さな閃光となって夜に瞬く。


「煌……あなた……

 何を……」


「わかんない……でも、綺羅が苦しそうで……こわくて……

 気づいたら、胸がすごく熱くなって……!」


 煌は泣きそうな声で言った。


 綺羅は、その光を見つめる。


(やっぱり……煌にも“核”がある。

 光核……?

 どうして……煌が……)


 蒼核が、揺れていた。

 不安と、痛みと、何か別の感情で。


 夜風だけが静かに吹き抜けた。


 5 導師クロウの影


 その頃――


 暗い寺院のような場所。

 クロウは無数の影を前に、静かに手を掲げていた。


「……蒼狼は強い。

 ならば数で追い詰めるだけよ」


 影狼が、次々と地面から立ち上がる。


 その中央で――

 ルーヴァが膝を抱えていた。


「綺羅……」


 彼女の灰核も、

 綺羅の蒼と煌の光に、微かに震えていた。


 《第5章 完》

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