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第4話 光の少女、ひび割れる影

 1 蒼核の痛み


 翌朝。

 綺羅は、胸の奥が焼けつくような熱で目を覚ました。


「っ……あつ……!」


 蒼核あおいかえが、昨夜からずっと鳴り止まない。

 まるで内側から拳で殴られているような、荒々しい鼓動。


(蒼核が……変。

 変身しすぎたせい?

 それとも……ルーヴァに触られたから……?)


 胸の奥が、蒼い光を微かに漏らしている。

 皮膚を通して分かるほど、熱い。


 綺羅は制服に袖を通しながら、

 鏡に映る自分の瞳の色が、わずかに蒼く揺れるのを見つめた。


(やばい……これ、誰かに見られたら……)


 蒼核の“影響”が、日常を侵し始めていた。


 2 煌の「変化」


 学校へ向かう途中、

 煌が元気いっぱいに手を振りながら走ってくる。


「綺羅ー! 今日、遅いじゃん!」


「あ、煌……。ごめん。ちょっと、寝坊して……」


 笑ってみせるが、胸の痛みは増す一方だった。


 そんな綺羅を、煌は一瞬だけ真剣に見つめた。


「……綺羅、ほんとに大丈夫?

 なんか無理してない?」


(いつもと……違う。

 煌の声が胸に響く……?)


「だ、だいじょうぶだよっ!」


 慌てて笑う綺羅。


 だが――その瞬間。


 煌の胸元で、光が“チリ”と瞬いた。


(……え?)


 煌自身は気づいていないらしい。


 けれど、その光は蒼核とは異なる“黄金の輝き”だった。


(煌……あなた、まさか……)


 声をかけようとしたその時、

 校舎の屋上から、異様な影が落ちてきた。


 教室のガラスが微かに震え、

 鳥の群れが一斉に飛び立つ。


「な、なに……?」


 煌が目を丸くする。


 蒼核が警報のように脈動し始めた。


 3 影狼シャドウ・ルプスの出現


 通学路の先。

 校舎の屋上の縁に、黒い狼のような影が立っていた。


 四足ではなく、少女のような体躯。

 だが顔は獣に近く、赤い眼孔だけがぎらりと光る。


 影喰いとはまるで違う。

 狼女に近い――けれど、もっと禍々しい。


「あれ……なんなの……?」


 煌の声が震える。


(影喰いでも、ルーヴァでもない……

 これは……“新しい獣”……?)


 影狼は、綺羅に気づいたように顔を向けた。


 そして――

 屋上から、音もなく地面へ降り立つ。


 コンクリートを砕きながら。


「綺羅っ、逃げよう!」


「……ごめん、煌。

 わたし、逃げられない」


「ま、まさか……また戦うつもり!?」


「行かないで。

 危ないから――」


 綺羅は煌を抱き寄せ、背を向けた。


「ここにいて。誰も近づかないようにして」


「綺羅……何に向かってるの……?」


 答えられなかった。


(煌……あなたにはまだ言えない。

 でも……あなたの光……やっぱり……)


 綺羅は走った。

 影狼と真正面から向き合うために。


 4 蒼狼 vs 影狼


 影狼が喉奥で低く唸る。


 綺羅は胸の蒼核に触れた。


「……お願い、力を貸して」


 蒼核が応えるように脈動する。


「《変身ルミナ・フォルム》!」


 蒼光が身体を包み、

 蒼狼が校庭に降り立った瞬間――


 影狼は地を蹴り、

 弾丸のような速度で押し迫る。


 蒼狼は爪で受け止めるが、

 影の脚は予想以上に重かった。


(速い……!

 しかも、ルーヴァとは違う。

 迷いが一切ない……)


 影狼は感情ではなく、

 本能と“命令”だけで動いている。


 綺羅が蹴りを放つが、

 影狼は身体を煙のように揺らして避ける。


「くっ……!」


 影狼の拳が綺羅の腹に刺さり、

 蒼い光が散った。


(まずい……

 蒼核が……さっきから暴れすぎてる……)


 胸の痛みが、戦いの動きを鈍らせる。


「――っ!」


 影狼の爪が、綺羅の胸元――蒼核へ迫る。


 その瞬間。


 蒼核が勝手に光を放ち、

 綺羅の身体を跳ね飛ばした。


「きゃっ……!」


 背中から地面に叩きつけられる。


(暴走……!?

 違う……まだ抑えられる……!)


 立ち上がろうとした綺羅の耳に、影狼の声が入る。


「……ルーヴァ……

 クロウ……

 命令……」


(いま……なんて……?)


 影狼は、まるで壊れたラジオのように呻き続ける。


「……蒼核……

 破壊……」


(破壊……?

 奪うんじゃなくて……壊す……?)


 ルーヴァとは違う指示だ。


 影狼は、綺羅を“殺しに来ている”。


 5 光に触れた少女


「綺羅――っ!!」


 声が響いた。

 煌だった。


「だめっ、来ちゃ――」


 言うより早く、影狼の赤い瞳が煌に向いた。


(やめて!)


 綺羅は全身の力を蒼核に叩きつけた。


「煌に……触らないでぇぇぇ!!」


 蒼光が爆ぜる。


 蒼狼は影狼へ飛び込み、

 全身で激突し、遠くへ弾き飛ばす。


 その一撃は、今まで出したことのない力だった。


 影狼は数メートル地面を滑り、

 立ち上がれずに影の煙となって消えていった。


「はぁ……はぁ……っ」


 綺羅の変身が解け、

 膝をついた。


「綺羅ーッ!」


 煌が駆け寄る。

 その瞬間――


 煌の胸元で、“金色の光”が脈打った。


「……っ!」


 綺羅は息を飲んだ。


(やっぱり――煌も、“核”を……持ってる……?)


 煌は光に気づかず、

 ただ綺羅を抱きしめた。


「綺羅……ケガ、ない?

 本当に大丈夫?

 お願い……いなくならないでよ……!」


「煌……」


 煌の声が温かかった。


 その温度は、

 灰狼ルーヴァが求めてやまない“心の温度”そのものだった。


(私……守らなきゃ。

 煌の光も……心も……

 そして、ルーヴァの空白も……)


 胸の蒼核が、痛みの中で

 ひそやかに脈打った。


「大丈夫。

 わたしは……まだ、戦えるから」


 綺羅は小さく微笑んだ。


 その笑みの奥で、

 蒼核の蒼がゆっくりと深まっていった。


 《第4話 完》

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