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第3話 蒼狼と灰狼、心臓の鼓動

 1 最初の衝突


 灰色の影が、空気を裂いた。


 ルーヴァの蹴りは迷いを感じさせず、

 命令のままに綺羅の胸の蒼核を狙ってくる。


 綺羅は蒼い脚で地面を蹴り、

 縦に跳んでかわす。

 背後のアスファルトを砕く灰狼の一撃。


「……ルーヴァ、聞いて!

 あなたは心臓を奪われただけで――

 本当は、命令なんて……!」


「違うの、綺羅」


 灰狼の瞳が哀しげに細められる。


「私は“心臓がない”から……

 逆らえる“感情”もないの」


(そんな……)


 蒼核が胸で強く鼓動する。

 綺羅の驚きや悲しみがそのまま光に変わり、

 蒼い粒子が爪に集まっていく。


「――っ!」


 ルーヴァは低く身構え、

 次の瞬間には綺羅の真正面に立っていた。


蒼狼きみは強い。

 心臓があるから。

 その脈動が、力の源なの」


 灰狼の拳が蒼光へ打ち込まれる。

 衝撃が波のように拡散し、

 二人の狼女は弾き合った。


 灰狼は表情を変えぬまま、

 綺羅を見つめる。


「だから……その心臓が欲しい。

 私の空白を埋める“温度”を――」


「でも、それはあなたの心じゃない!」


「……うん、そうだね」


 ルーヴァは静かに頷き――

 次の瞬間。


「もう、私には“自分の心”がどんなものだったのか

 覚えてないの」


 綺羅の胸が凍りついた。


(ルーヴァ……そんな……)


 2 灰核の叫び


 灰狼の身体がふっと揺れ、

 灰色の粒子が周囲に散った。


「……っ!」


 ルーヴァの胸の“灰核”が激しく脈打っている。


 それは鼓動ではなく――

 まるで“壊れた心臓”のような、不規則な振動だった。


「ルーヴァ……それ、痛いんじゃないの……?」


「痛み……? わからない。

 ただ――熱い、冷たい、狂いそう。

 それが“灰核”だよ」


 綺羅は拳を握りしめた。


(灰核は……彼女の心臓の代わり……

 でも、こんなの……)


 ルーヴァが首を傾けた。


「蒼核は……やさしい音がするね。

 綺羅の心臓の音と、重なってる」


「ルーヴァ……私、あなたを助けたい。

 その空白を埋められるように、絶対に――」


「ごめん。それはだめ」


 灰狼の足元に灰色の紋章が広がる。


「導師に命じられてるから。

 蒼核は“奪う”ものなの」


 ルーヴァの身体が再び変化した。

 新月の光を受け、灰狼のフォルムが細く鋭くなる。


「《灰月形態グレイ・ムーン》」


 スピード特化の狩人形態。


(やばい……来る!)


 綺羅が構えるよりわずかに早く――

 灰狼は視界から消えた。


 3 追いつけない灰の疾走


「――ここ」


 背中。


 気づいた時にはもう遅かった。

 灰狼の足が綺羅の背中に深くめり込み、

 蒼い粒子が散る。


「く……っ!」


 アスファルトを転がりながら、

 綺羅は必死に立ち上がる。


 灰狼は一切息を乱さない。


「蒼狼は、強いけど――

 優しすぎるよ」


「優しい……? そんなわけ……」


「戦う時、迷う。

 “奪いたくない”って。

 その迷いが、隙になる」


(……見透かされてる)


 ルーヴァは続ける。


「私は迷わない。

 奪えばいいだけだから」


 綺羅の胸が締め付けられる。


(ルーヴァ……あなた、本当に……心が……)


 負けるわけにはいかない。


 綺羅は蒼核に手を当てた。


「お願い……わたしに力を……

 ルーヴァを助けられる力を!」


 蒼核が眩しい脈動を放つ。


 綺羅の蒼狼フォームが揺らぎ――

 美しい蒼光が全身を覆った。


「《蒼月形態ブルー・ムーン》!」


 蒼い狼の紋章が夜に咲いた。

 蒼狼の背中に薄い光の鬣が輝く。


 ルーヴァが小さく声を漏らす。


「……そんな光……

 知らない……」


 4 蒼光は届かない


「はあぁぁぁぁっ!」


 綺羅の蒼狼は、灰狼が見えない速度で前へ跳ぶ。

 光の残像が尾を引く。


 灰狼の首元へ蒼光の蹴りが迫る――


 が。


 ルーヴァは視線だけで綺羅を捕らえる。


 そして、静かに言った。


「綺羅。

 あなたは――やさしい」


 灰狼は両腕を広げ、

 まるで抱きしめるように綺羅の蹴りを受け止めた。


「っ……!?」


「あなたは殺す気がない。

 本気で傷つけようとしてない」


 蒼狼の爪が震える。


「だから、勝てない」


 次の瞬間――

 灰狼は蒼狼の懐に入り込み、

 胸元へ指を伸ばした。


「その蒼核、ちょうだい?」


「だ、だめ……!」


 指先が蒼核に触れた瞬間。


 蒼核が悲鳴のような音を返した。


 ルーヴァが目を見開く。


「……あったかい……」


 綺羅の身体が崩れそうになる。


(このままじゃ……蒼核が……抜かれる……)


 必死でルーヴァの手を払いのけた。


「っ……!」


 灰狼は後退して、静かに見つめる。


「綺羅……どうして逃げるの……?」


「奪わないで……

 ルーヴァの心臓じゃない……!」


「心臓はね……

 もう返ってこないの。

 だから――」


 灰狼が足を踏み出す。


「“新しい心臓”が必要なの」


(誰か……

 止めて――)


 蒼核が悲鳴のように脈打っていた。


 5 黒い影の介入


 その瞬間。


 空間が黒に染まった。


「――そこまでだ、ルーヴァ


 導師クロウが現れた。

 濃い影が彼の背から伸び、空気が震える。


「導師……っ」


 ルーヴァの身体が糸を切られた人形のように

 その場に崩れ落ちる。


「蒼核はまだ覚醒が不完全。

 奪う価値はない」


「……導師……申し訳……」


「沈黙せよ。

 お前の灰核は、すでに限界だ」


 クロウの手がルーヴァの胸に触れる。

 灰核が苦鳴のように震えた。


「やめてっ!」


 綺羅が叫ぶ。


 クロウの視線が向く。


「蒼狼。

 お前は“優しさ”で壊れる」


「……あなたは、いったい何を……!」


「その蒼核で誰かを救えると思うな。

 蒼核は――“心を壊す核”だ」


「ウソ……!」


「心臓を戻す力などない。

 あるのは、“共鳴と破壊”」


 綺羅の足が震える。


(そんな……だったら私は……何のために……)


 クロウはルーヴァを抱え、黒霧の中に消えていく。


「次に会う時、蒼狼――

 お前の心臓は、灰に溶けているだろう」


 灰色の霧が一気に濃くなり、

 気づけば二人は消えていた。


 綺羅はその場に膝から崩れ落ちた。


「ルーヴァ……

 ほんとに……心臓……ないの……?」


 胸の蒼核が苦しそうに脈動する。


 その痛みは、綺羅の悲しみそのものだった。


 《第3話 完》

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