表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

第2話 灰の少女、心臓のない微笑み

 1 蒼核の痛みと、灰の温度


 翌朝。

 綺羅は胸の奥がずきりと痛むのを感じて目を覚ました。


「……また、痛い……」


 蒼核は夜中ずっと鳴り続けていた。

 昨日の戦いの余韻が、まだ身体の奥に残っている。


(これ以上、変身したら……

 わたしの心臓……どうなるんだろう)


 そんな不安を抱えたまま、綺羅は学校へ向かった。


 校門の前。

 煌が大きく手を振る。


「綺羅! 顔色悪いよ? ちゃんと寝た?」


「寝たつもりだけど……

 胸がずっと痛くて……」


「やっぱり“蒼核の使いすぎ”だよ。

 あの力、軽く使えるようなものじゃないんでしょ?」


「……うん」


 綺羅は胸元を押さえた。


 その瞬間――


 視界の端で、何かが揺れた。


 校舎の影。

 制服姿の少女が、じっとこちらを見ていた。


 灰色の髪。

 色を失った瞳。

 胸元に手を当てて立つ少女。


(……誰?)


 次の瞬間には、もういなかった。


「綺羅? どうかした?」


「ううん……なんでもない」


 しかし綺羅の蒼核は、まるで危険を告げるように

 いつもより速く脈打っていた。


 2 心臓を奪われた少女


 放課後。


 綺羅は帰宅部の煌を見送り、

 ひとりで帰り道の坂を歩いていた。


「はぁ……

 蒼核、今日はずっと落ち着かない……」


(誰かが――心を奪われている?

 それとも、近くに“何者か”がいる……?)


 そんな不安を抱えたまま角を曲がると、

 道端に座り込む少女と目が合った。


 昼間見たあの少女だった。


 灰色の髪は風に揺れ、

 瞳はまるで空虚そのもののように濁っている。


 しかし――微笑んだ。


「あなたが……蒼狼?」


 その声は、壊れそうなほど静かで、やわらかかった。


「あなた……誰?」


「私は――ルーヴァ」


 彼女は綺羅の胸を示した。


「そこにある蒼核……

 きれいな音がするね。

 ずっと、探していたの」


 綺羅の背筋が冷たくなる。


(どうして……蒼核のことを?)


 ルーヴァは立ち上がると、ゆっくり近づいてきた。


「昨日の影を倒したでしょう?

 あれは“心臓を奪われた人”なの」


「……知ってるの?」


「ええ。

 だって――私も奪われたから」


 ルーヴァは自分の胸元に触れた。


 そこには小さな“灰色のコア”が淡く光っていた。


「これが灰核はいかく

 奪われた心臓の代わりに、導師クロウが与えたもの」


「導師……クロウ……?」


「会ったでしょう? 黒い影の導師。

 あなたの蒼核を欲しがっている人」


 綺羅は息を呑む。


 あの夜の黒狼の少女――そしてクロウという名。


(あれは……警告じゃなくて……)


「心臓を奪うのがクロウの目的?

 あの影たちは……クロウが?」


 ルーヴァは淡く微笑んだ。


 その微笑みの奥に、

 “感情が欠けた空洞”があることに綺羅は気づく。


「私たちはみんな……奪われて生きてる。

 だから取り戻したいだけ。

 蒼核の力を借りて」


「……え?」


 次の瞬間、

 ルーヴァの瞳が灰色に輝いた。


「――蒼核、私にちょうだい?」


 綺羅は後ろへ飛び退いた。


「どうして……!」


「あなたの心臓の音、あたたかい。

 私の灰核では埋められない“空白”を埋められるから」


 ルーヴァが一歩踏み込む。


 綺羅の胸の蒼核が、危険を告げるように震える。


「……ルーヴァ……あなた……影なの?」


「違う。

 私は――“狼女ルプス”」


 ルーヴァの足元に、灰色の紋章が広がる。


「《灰狼変身グレイ・フォルム》」


 灰色の光が少女を包む。

 ルーヴァの身体がしなやかに伸び、

 髪が狼の尾のように揺れ、

 瞳が獣の鋭さを帯びる。


 その姿は、蒼狼の綺羅と同じ――

 しかし、まったく異質の“狼女”だった。


 3 蒼と灰の衝突


「綺羅。

 あなたの心臓が欲しいの」


「なんで……わたしなの!?」


「蒼核は……“心を戻せる唯一の核”だから」


 その言葉に綺羅は息を呑んだ。


(わたしの蒼核が……心を戻せる……?

 昨日、影が人の声を取り戻したのは……)


「でも、わたしは渡さない。

 これは……わたしの心臓なの!」


 蒼核が光り、綺羅の身体を包む。


「――《変身ルミナ・フォーム》!」


 蒼狼が駆けだす。

 獣の脚で一気に距離を詰め、

 蒼い爪を振るう。


 だが――


「遅いよ」


 ルーヴァの灰色の影が綺羅の背に回り込んでいた。


 風も、音もなく。


 その速さは、まるで霧が流れるようだった。


 灰狼の蹴りが綺羅の脇腹を捉え、

 空気が弾ける。


「くっ……!」


 綺羅は膝をつき、荒い息を漏らす。


 胸の蒼核が激しく脈打つ。

 まるで恐怖や焦りを増幅させるように。


 ルーヴァはゆっくりと歩み寄る。


「綺羅……蒼核はあなたには重すぎる。

 私が代わりに持つ。

 その方が……あなたも楽になる」


(どうして……どうしてそんな顔で言うの……)


 灰狼の仮面の奥の瞳には、悲しいほどの“欠落”があった。


 綺羅は歯を噛みしめる。


「わたしは……

 わたしの心臓を、渡さない!」


 蒼狼の爪が蒼光を放つ。


 灰狼の目が揺れる。


「……やっぱり。

 その光……いいな……」


 ルーヴァの声が震えた。

 渇望とも、哀願ともつかない震えだった。


 4 導師クロウの影


 二人の狼女が再び衝突しようとした――その時。


 空気が凍る。


 風が消える。


 空間そのものが黒い霧に覆われた。


 綺羅とルーヴァは同時に振り返る。


 道路の中央に、黒衣の男が立っていた。


 導師クロウ。


「蒼核の目覚めは、まだ早い」


 クロウの目が綺羅を刺す。


「その心臓……壊れてしまうぞ、蒼狼」


 綺羅の胸が激しく痛む。


「導師……!」

 ルーヴァがひざまずく。


「あなたは……私の命を……」


 クロウは彼女を一瞥し、

 冷徹な声で告げる。


「灰核の器よ。

 お前に情はない。

 ただ命じる――蒼核を奪え」


 ルーヴァの身体が衝撃に震えた。


「……はい……導師……」


「やめて、ルーヴァ!」


 綺羅が叫ぶ。


 だがルーヴァは涙を流しながら、灰狼の姿で踏み出した。


「ごめん……

 私は……命令に逆らえない……

 心臓を持たない“器”だから……」


 綺羅の胸の蒼核が、

 絶望を拒むように脈打つ。


(わたしが……

 戦って……ルーヴァの心を……戻せるの……?)


 その問いは、蒼核の熱にかき消された。


 《第2話 灰の少女、心臓のない微笑み 完》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ