第19章 欠けた核、三人で立てない場所
1 静かすぎる鼓動
夜が、異様なほど静かだった。
崩れた街の中心で、
三人は円を描くように座り込んでいる。
誰も、すぐには口を開けなかった。
綺羅は自分の胸に手を当てる。
――ドクン。
――ドクン。
確かに心臓は動いている。
けれど、いつもそこにあった“蒼のうねり”が、ない。
(……軽い……)
それは安堵ではなく、
欠落だった。
「綺羅……」
煌が、恐る恐る声をかける。
「……大丈夫?」
綺羅は笑おうとした。
けれど、うまく口角が上がらない。
「……うん。
たぶん……」
その“たぶん”が、
すべてを物語っていた。
2 戻れない感覚
ルーヴァは黙ったまま、
自分の胸を見下ろしていた。
灰核は、まだそこにある。
けれど――
(……重い……)
以前のような、
冷たいだけの感覚ではない。
代わりに、
“罪悪感”のような重さが沈んでいる。
「……わたし」
ルーヴァが、かすれた声で言う。
「クロウに……
引っ張られてた……」
煌が首を振る。
「違う。
引っ張られてたんじゃない。
……利用されてただけ」
それでも、ルーヴァは俯いたままだ。
「でも……
綺羅が……
全部、引き受けた……」
その言葉に、
空気が張りつめる。
煌も、無意識に拳を握っていた。
3 光核の代償
煌は、ゆっくりと立ち上がる。
「……二人に、言わなきゃ」
そして、自分の胸に手を当てた。
「光核……
前より……弱くなってる」
綺羅が顔を上げる。
「……え?」
煌は苦笑した。
「第18章のとき……
綺羅を助けるために……
かなり、流したみたい」
光核は残っている。
だが、その輝きは明らかに鈍い。
「もう……
前みたいには、動けないかも」
沈黙。
綺羅は、思わず叫びそうになるのを堪えた。
「……そんな……
だって……!」
「それでもいい」
煌は、はっきりと言った。
「綺羅が……
“選ばなかった”から」
その言葉は、
後悔ではなかった。
覚悟だった。
4 クロウの影
その時。
瓦礫の向こうから、
“拍手”が聞こえた。
――パン、パン、パン。
三人が同時に顔を上げる。
「感動的だな」
クロウが、影の中から姿を現した。
その胸元で、
灰色の脈動が以前よりもはっきりと動いている。
「核は欠け、
心は揺らぎ、
力は分散した」
クロウは楽しそうに微笑んだ。
「理想的だ。
これ以上ないほど、
“壊れかけている”」
綺羅は一歩前に出る。
「……もう、終わりにして」
「終わり?」
クロウは首を傾げる。
「いいや。
ここからが、本番だ」
彼はゆっくりと腕を広げた。
「蒼核は変質し、
光核は消耗し、
灰核は未完成のまま覚醒している」
影が地面に広がる。
「ならば――
世界そのものを“炉”にする」
三人の背筋が凍る。
「……なにを……?」
クロウの瞳が、異様な光を宿す。
「人の心を燃料に、
灰核を完成させる」
その言葉は、
宣戦布告だった。
5 綺羅の異変
クロウが影に溶けると同時に、
綺羅は膝をついた。
「……っ……!」
胸の奥が、
強く軋む。
蒼核が――
反応していない。
代わりに、
別の感覚が芽生えていた。
冷たく、
それでいて優しい。
(……これ……灰……?
いや……光……?)
どちらでもない。
境界。
煌が駆け寄る。
「綺羅!
無理しないで!」
ルーヴァも手を伸ばす。
「綺羅……
その核……
前と、違う……」
綺羅は、息を整えながら立ち上がった。
「……うん」
そして、静かに言う。
「たぶん……
もう、前みたいには戦えない」
二人が息を呑む。
「でも――」
綺羅は二人を見つめる。
「それでも……
行く」
瞳には、
蒼でも光でも灰でもない、
意志の色が宿っていた。
6 三人で、違う場所へ
夜明けが近づいていた。
同じ場所に立っているのに、
三人は、もう同じ段階にはいない。
煌は“支える者”として。
ルーヴァは“揺れる核”として。
綺羅は――
境界を背負う者として。
クロウの言葉が、
遠くで反響する。
「次に会うときは――
覚悟して来い」
影が消える。
残された三人は、
それぞれ違う不安を胸に抱えながら、
同じ方向を見つめていた。
逃げない。
それだけは、共通していた。
《第19章 欠けた核、三人で立てない場所 完》




