第18章 二重鼓動、選ばれなかった世界
1 現実への逆流
轟音とともに、灰の柱が砕け散った。
空が歪み、
未完成の灰核が吐き出した力が、
現実世界へと逆流する。
瓦礫が浮かび、
地面が悲鳴を上げた。
「な……に、これ……!」
煌は膝をつき、
胸を押さえる。
光核が、不規則に明滅している。
ルーヴァも同じだった。
「灰核が……壊れかけてる……
クロウ……無理やり……!」
二人の心臓の鼓動が、
狂ったように重なる。
綺羅は蒼狼の姿のまま、
二人の間に立っていた。
蒼核は吠えず、
ただ重く、深く脈打っている。
(来る……)
本能が、
“次”を告げていた。
2 クロウの選択
影の中から、
クロウが現れた。
その姿は、これまで以上に歪んでいる。
衣の奥で、
灰色の脈動が蠢いていた。
「……門は、完全には開かなかった」
クロウは低く呟く。
「だが、儀式は失敗ではない。
未完成だからこそ――
直接、核を抜き取る」
煌が顔を上げる。
「……なにを、する気……?」
クロウは静かに微笑んだ。
「二人の心臓を、同時に奪う」
その言葉が、
夜気を凍らせた。
「光核と灰核。
どちらも欠けては意味がない。
だから――同時だ」
影が、
二方向へ伸びる。
一本は煌へ。
もう一本はルーヴァへ。
「っ……!!」
二人は同時に、
胸を押さえて呻いた。
3 止まる時間
綺羅の視界が、
一気に狭まる。
(……二人とも……)
蒼狼の本能が叫ぶ。
(守れ。
選ぶな。
奪わせるな)
だが――
影は、二人の胸元に同時に迫っていた。
距離。
時間。
どちらも足りない。
「綺羅……!」
煌が叫ぶ。
「綺羅……逃げて……!」
ルーヴァが泣きながら叫ぶ。
二人とも、
“自分”よりも綺羅を気遣っていた。
(選べ……?)
綺羅の心が、
軋む。
(そんなの……
選べるわけ……ない……!!)
蒼核が、
限界まで圧縮される。
――ドクン……ッ!!
その瞬間、
世界が“止まった”。
4 蒼の決断
音が消え、
影が止まり、
空気すら凍りつく。
動けるのは、
綺羅だけ。
蒼狼の姿が、
ゆっくりと人の輪郭へ戻り始める。
(……もう、逃げない)
綺羅は、
二人を交互に見た。
煌。
泣きそうで、それでも必死に笑う。
ルーヴァ。
震えながらも、綺羅を信じている。
(わたしが……
全部、引き受ける)
蒼核が、
自ら殻を割った。
蒼い光が、
綺羅の胸から溢れ出す。
「クロウ……
それなら……
わたしの心臓を、使って」
時が、動き出す。
5 拒絶と衝突
「な……に……?」
クロウの目が見開かれた。
影が、
煌とルーヴァから逸れ、
綺羅へと集中する。
「自分を差し出す、だと……?」
綺羅は一歩踏み出した。
「煌も……
ルーヴァも……
生きていい……」
蒼核が、
光核と灰核を強く引き寄せる。
三つの鼓動が、
再び重なった。
だが――
今度は“奪うため”ではない。
守るための衝突。
「愚かだ!!」
クロウが叫ぶ。
影が綺羅の胸へ突き刺さる――
その瞬間。
「綺羅――っ!!」
煌とルーヴァが、
同時に叫んだ。
二人の核が、
綺羅の蒼核へと流れ込む。
光と灰が、
蒼を包み込む。
轟音。
衝撃。
そして――
6 選ばれなかった結末
爆光が収まったとき、
そこに立っていたのは――
蒼光を纏った、
ひとりの少女だった。
狼でもなく、
獣でもない。
しかし、
その瞳には三色の光が宿っている。
クロウは後退した。
「……そんな……
核が……拒否した……?」
綺羅は静かに立ち、
震える声で言った。
「選ばなかった……
誰も……」
煌とルーヴァは、
地面に崩れ落ちながらも、生きていた。
「綺羅……?」
「……生きてる……?」
だが、
綺羅の胸には、
これまでとは違う静けさがあった。
蒼核は、
まだ脈打っている。
しかし――
完全ではない。
クロウは、歯を食いしばる。
「……儀式は、終わっていない。
まだ……終わらせん……」
影が、
再び動き出す。
未完成の灰核が、
最も危険な形で――
暴走を始めようとしていた。
《第18章 二重鼓動、選ばれなかった世界 完》




