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第15章 灰核の目覚め、蒼狼の軋み

 1 クロウの囁き


 夜明け前の薄光が、瓦礫の上に斜めに差していた。


 綺羅は蒼狼のまま、呼吸を荒げている。


 蒼核が胸の奥で脈打つたび、

 綺羅の身体は崩れそうに震えた。


「綺羅……!」

 煌が抱きとめる。


「がんばって……暴走に飲まれないで……!」


 しかし綺羅は答えない。


 焦点の合わない蒼の瞳が、

 ただひとつの影を追っていた。


 ――クロウ。


(連……れて……いかれ……る……)

(声が……呼んで……)


 綺羅の意識は、いまにも千切れそうだ。


 その綺羅へ、クロウは静かに手を伸ばした。


「蒼狼。

 お前の心臓は、まだ“門”として不完全だ。

 ならば――刺激を加えねばなるまい」


 クロウの指先に、灰色の光が宿る。


 煌が息を呑む。


「それは……!」


 クロウは穏やかな声で宣告した。


「――灰核カイコアを、目覚めさせる」


 2 ルーヴァの苦痛


 クロウが手を掲げると、

 その灰色の光が空気を震わせた。


 すると――


「っ……あ、あああああ……っ!!」


 悲鳴が上がった。


 ルーヴァだった。


 胸を押さえ、

 膝から崩れ落ちる。


「ルーヴァ!?!」


 煌が駆け寄る。


「やだ……っ、やだ、胸が……苦しい……!

 灰核が、呼ばれて……る……!!」


 クロウは薄笑いを浮かべる。


「灰核の少女よ。

 お前は“灰”の性質を最も色濃く受け継いだ。

 蒼も光も、最終的には灰に溶ける。

 その宿主であるお前を呼ぶのは当然だ」


「いや……っ、やめ……っ!」


 ルーヴァの身体が震え、

 胸の灰色の核が微かに光を放つ。


 その光は、

 蒼狼となった綺羅の蒼核と呼応して――


 同時に脈打つ。


 ――ドクン。


 煌が青ざめる。


「核が……同期してる……!

 綺羅の蒼核と……ルーヴァの灰核が……!」


 クロウは満足げに頷いた。


「そうだ。

 蒼は灰へ導かれ、灰は蒼を呼ぶ。

 本来ひとつの核だったものが、

 三つに割れただけだからな」


 ルーヴァの悲鳴が重く響き渡る。


「やめてぇぇぇぇぇ!!

 綺羅も……苦しんでるでしょ……!

 わたしのせいで……!!」


 涙が溢れ、

 煌はルーヴァの手を握った。


「違うよ! ルーヴァのせいじゃない……!!

 クロウが全部、仕組んで……!」


 しかし、灰の痛みは止まらない。


 3 蒼狼 vs 黒導師


 クロウがさらに一歩踏み出した瞬間。


 蒼狼が咆哮を上げて、

 瓦礫を踏み砕きながら跳んだ。


 ――ガアアアアアァッ!!


 青い残光が軌跡を描き、

 クロウへ迫る。


 だがクロウは冷静に影を操り、

 綺羅の爪撃を受け止めた。


 金属同士がぶつかるような音が響く。


「暴走ゆえの力……確かに強い。

 だが粗い。

 衝動のままでは、私には届かない」


 クロウが影を針のように伸ばし、

 綺羅の肩を貫こうとする。


「綺羅っ!!」


 煌が叫ぶ。


 ルーヴァが涙目のまま手を伸ばす。


 綺羅は影を嫌うように身体をひねり、

 大きく跳び退った。


 屋上の縁が砕け、

 砂塵が噴き上がる。


 蒼狼の蒼光がちらつき、

 呼吸が荒くなる。


(いや……来ないで……

 わたし……負ける……

 飲まれる……)


 綺羅の心が、

 暴走の中で微かに呻いていた。


 4 核の共鳴


 クロウは両手を広げ、

 低く、響く声を発した。


「蒼核、灰核、光核――

 三つの核よ。

 我が声に応え、共鳴せよ」


 灰色の波紋が空に広がる。


 煌の胸の光核が、一瞬強く光った。


「う……っ!?

 光核まで反応してる……どうして……」


 ルーヴァは苦しそうに涙をこぼす。


「わたしたち……三人の核は……

 最初から繋がってたんだ……

 クロウのせいで……!」


 そして――

 綺羅の蒼核が大きく脈打つ。


 ――ドクン!


 その一撃で、

 三人の身体が揃って震えた。


「うあああああああっ!!」

「っ……や……っ!」

「綺羅……っ!!」


 共鳴は痛みと混乱をもたらす。


 綺羅は蒼狼のまま、

 崩れ落ちそうになりながら吠えた。


 ――ガ……ァ……ッ……!!


 その声は、

 “助けて” と叫んでいるようでもあった。


 5 綺羅の一瞬の意識


 その時。


 蒼光の奥で、

 綺羅の意識が一瞬だけ浮上した。


 ――煌……

 ――ルーヴァ……

 ――た……すけ……

 ――て……


 ほんの一瞬、

 名前の形をした思念が煌の胸へ飛び込む。


 煌は涙を流しながら叫んだ。


「綺羅!!

 聞こえた……!!

 戻ってきてる……!!」


 ルーヴァも必死に声を重ねる。


「綺羅……!

 もう少し……がんばって……!」


 しかしその声を断ち切るように、

 クロウの影が広がった。


「無駄だ。

 蒼核は暴走した。

 意識は長く保てん」


 影が大きく迫る。


「そして――

 次に開くのは“灰”だ」


 その瞬間、ルーヴァの灰核が激しく光った。


「っ……ッアアアアア!!」


 叫びが夜明けの空に響く。


 蒼狼の綺羅も、灰核に引かれるように苦しみ始める。


「綺羅っ!!

 ルーヴァまで……!!」

 煌が必死に二人を抱き寄せる。


 三つの鼓動が、

 限界に近い形で重なる。


 ――ドクン。

 ――ドクン。

 ――ドクン!


「やめろクロウ!!

 これ以上は……三人とも壊れる!!」


 煌が叫ぶ。


 しかしクロウの目は冷たく光っていた。


「それが目的だ。

 壊さねば、新しい核は生まれない」


 影がさらに広がる。


 三人の少女を包み込もうとした、その瞬間――


 蒼狼の蒼核が、

 光の奔流となって弾けた。


 《第15章 灰核の目覚め、蒼狼の軋み 完》

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