第12章 蒼のざわめき、灰の悪夢、光の痛み
1 眠れない夜
薄暗い部屋の中。
綺羅は横になっているはずなのに、
まったく眠れなかった。
胸の蒼核が、静かに……しかし執拗に脈を打っている。
(また……騒いでる……
どうして、こんなに不安定なの……?)
隣では煌が静かに寝息を立て、
その向こうでルーヴァが小さく丸まって眠っていた。
三人の距離は近い。
手を伸ばせば触れられる距離。
(なのに……どうしてこんなに心細いの……?)
綺羅は胸を押さえた。
蒼核が、遠くから呼ばれているように震えている。
――ドクン。
――ドクン。
(呼んでいる……?
誰が……?)
そのたびに、乾いた不安が胸の奥に広がっていった。
2 ルーヴァの悪夢
「……やだ……いや……」
眠っているはずのルーヴァが、
うなされるように小さく泣いた。
「綺羅……いかないで……」
綺羅は身を起こし、そっとルーヴァの肩に触れた。
「ルーヴァ……夢、見てるの?」
ルーヴァはびくっと震え、
目をきつく閉じたまま手を伸ばす。
「綺羅……どこ……?
ひとりにしないで……」
その必死な声に心が締めつけられる。
「ここにいるよ。
ルーヴァを置いていくわけない」
手を握ると、ルーヴァは少し落ち着いたように呼吸を整えた。
そして、眠りの中でぽつりと呟く。
「綺羅が消える夢……
クロウに連れていかれる夢……
いや……いや……」
蒼核が胸の奥でまた震えた。
(わたしが――消える……?)
予兆のような言葉が、綺羅の背を冷たく撫でた。
3 煌の痛み
「……綺羅……?」
今度は煌の声がした。
眠っていたはずなのに、
光核が微かに金色の光を放っている。
煌は胸を押さえ、苦しげに眉を寄せた。
「綺羅……蒼核……暴れそう……
わたし、なんか……胸が痛い……」
「煌まで……?」
「綺羅と、ルーヴァの核が……
ざわざわしてるから……光核も反応してる……」
煌は綺羅の手を握った。
「怖い……?
綺羅……顔色悪いよ……」
「わかんない……
でも胸が……おかしいの……」
ふたりの手が触れた瞬間、核が共鳴し――
ルーヴァの寝息も乱れる。
三つの鼓動が、近い。
離れれば不安が強まる。
(まるで……三つの核が“ひとつの生き物”みたい……)
4 クロウの儀式が始まる
その頃、街外れの廃教会。
クロウは黙々と準備を進めていた。
蝋燭が三つ、静かに揺れる。
そのうちひとつは蒼。
もうひとつは灰。
そして最後のひとつは金色。
クロウはその前で手を組んだ。
「蒼核が動き、光核が痛み、灰核が泣く……
三つの核は、完成の時を告げようとしている」
影が足元から這い、祭壇を包む。
「後は――
蒼核が“呼ばれる場所”へ向かうのを待つだけだ」
蒼核の震えは、
クロウの計画の一部に過ぎなかった。
5 蒼核の囁き
夜が明ける少し前。
蒼核が突然、大きく脈打った。
「っ……!」
綺羅は思わず胸を押さえる。
そして気づく。
(外から……なにかが……)
その呼び声は、
まるで月の欠片が綺羅を誘うように
静かに、しかし確実に響いていた。
「綺羅……?」
煌が起き上がって綺羅の肩に手を置く。
「外……見たい……
なにか……呼んでる」
綺羅はゆっくり立ち上がる。
煌もルーヴァも、
半分眠ったまま綺羅の後ろを追うように立ち上がった。
ベランダに出ると――
遠くの空に、欠けた月がまだ残っていた。
蒼核が――強く震える。
「綺羅……?」
「蒼核が……呼ばれてる」
「どこへ……?」
煌の声が震えた。
「わからない……
でも、もうすぐ何かが起きる……」
蒼い鼓動が夜明けを震わせた。
それは――
第13章で起きる“暴走”の予兆だった。
《第12章 完》




