第11章 揺らぐ三つの鼓動、重なる寝息
1 夜の避難所
夕闇が街を包むころ、
綺羅たち三人は、人気のない古いマンションに身を潜めた。
煌が先に駆け込み、
がらんどうの一室を見回す。
「ここなら……今日は、だいじょうぶ……」
いつもの元気はない。
胸の光紋が二つの輪を描いたまま、じくじくとうずいていた。
「煌、本当に平気……?」
「平気じゃないけど……綺羅が無事なら、平気になる……」
「理屈むちゃくちゃだよ……」
そう言いながらも、
綺羅はその言葉に少し救われた。
ルーヴァは部屋の隅で膝を抱え、
どこか怯えた表情で薄暗い天井を見つめている。
その肩は細く、傷ついた獣のように震えていた。
2 ルーヴァの恐れ
「ルーヴァ……痛いところはない?」
綺羅がそっと近づくと、
ルーヴァは驚いたように顔を上げた。
「わたし……ここにいて……いいの……?」
「あたりまえだよ。
ルーヴァは……わたしたちの仲間だよ」
「仲間……?」
ルーヴァは自分の胸――灰核を押さえた。
「でも……わたしの核は、綺羅の蒼核を欲しがってる……
わたし自身じゃ止められないことも……ある……」
その声には深い怯えと罪悪感が滲んでいた。
綺羅はゆっくり手を伸ばし、
ルーヴァの手の上に自分の手を重ねた。
「大丈夫。
もし灰核が暴れても、わたしが抱きしめるよ。
逃げたりしない」
「でも……わたしが綺羅の心臓を……」
「ルーヴァは“そんな子”じゃない」
綺羅の言葉に、ルーヴァの瞳が震えた。
そして、小さく――小さく泣いた。
3 煌の痛み
「綺羅……ちょっと来て……」
さっきから顔色の悪い煌が、
入口近くの壁にもたれながら綺羅を呼んだ。
「胸……あたたかくて……
でも、痛くて……うまく息ができなくて……」
触れようとすると、
煌はすこし照れたように綺羅の手を握った。
「綺羅の手……冷たくて……ほっとする……」
(煌の光核……負担が大きすぎる……
わたしの蒼核も、さっき暴れそうだった……
ルーヴァの灰核も……苦しんでる……)
三人の核は、もはや別々ではいられないほど共鳴していた。
近くにいれば鼓動が重なり、
離れれば核がざわつく。
(まるで……ひとつの“心臓”みたい……)
綺羅は二人の顔を見て胸が強く締めつけられた。
4 梯子のように支え合う三人
「……とりあえず、少し休もうよ」
綺羅はふたりの手を取り、
部屋の中央に敷いた古い毛布まで導いた。
「わたし、こっちで寝る。
煌は隣。
ルーヴァは……こっち」
まるで子どもを寝かしつけるように、
三人で横になった。
煌は綺羅の腕にしがみつくようにして目を閉じる。
「綺羅……あったかい……」
ルーヴァは反対側で遠慮がちに寝転んだが、
綺羅が手を伸ばすと、おそるおそる指を絡めてきた。
「……わたし……眠っていい……?」
「眠って。
ここでは、誰もルーヴァを傷つけないから」
ルーヴァの呼吸が少しずつ落ち着いていく。
5 蒼核の囁き
やがて煌とルーヴァは静かな寝息を立て始めた。
しかし綺羅だけは、
胸の蒼核がざわつき、眠れなかった。
(どうして……こんなに脈が荒いの……?
蒼核……わたしに何か伝えようとしてる……?)
鼓動は早い。
けれど不思議と苦しくはない。
ただ――
何かが“近づいている”気配だけが、
綺羅の背筋を冷たく撫でていた。
(クロウ……?
それとも……もっと別の……)
考えかけた時。
「……きら……」
半分眠ったルーヴァが、
弱々しく綺羅の指を握り直した。
「どこにも……いかないで……」
その声に、胸の痛みが少しだけ和らいだ気がした。
「行かないよ。
ふたりとも……置いていかない」
綺羅は優しく答え、
ふたりの手を握ったまま目を閉じる。
6 闇の向こうで
その頃。
街の高層ビルの屋上で、クロウが夜景を見下ろしていた。
「三つの核が同調したか。
ならば――“灰核の完成”は間もなくだ」
黒い衣が風に揺れる。
「蒼狼、光の子、灰狼。
その三つが揃えば、扉は開く。
そして……《灰核の支配者》も目覚める」
クロウの瞳は夜空に浮かぶ月を捉えた。
「次の満月――
すべてを始めるとしよう」
闇へ消えていく影。
その夜の静けさは、
嵐の前の“ほんとうの静寂”だった。
《第11章 完》




