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第10章 黒い手、光の紋、灰の涙

 1 黒い影が伸びる


 クロウの黒い掌が、空気を裂いた。


 影そのものが形を持ったような黒の波が、

 まっすぐ綺羅の胸――蒼核に向かって迫る。


「綺羅っ!!」


 煌が叫ぶ。


 反射的に綺羅は煌を抱き寄せ、横へ跳んだ。


 黒い波は地面に触れた瞬間、

 アスファルトを“影の水”のように溶かした。


(あれ……当たったら……蒼核ごと……!)


 背筋を冷たい汗がつたう。


「逃げられると思うなよ」


 クロウがひとつ指を動かす。


 黒い影の爪が四本、綺羅たちを囲むように伸び上がった。


 2 煌の行動


「綺羅、こっち!」


 煌が綺羅の手を引き、小道へ駆け込む。


 胸の光紋が脈を打ち、蒼と灰の衝突に反応している。


(ただの防御じゃない……

 もっと、大きな力に変わりかけてる……)


 煌は胸を押さえた。


 紋が熱い。

 痛いほどに、光があふれそう。


「煌、大丈夫!?」


「わたし……綺羅を守れるなら、いい……!」


 その言葉に、綺羅の胸が痛んだ。


(だめ……煌まで巻き込んでる……

 わたしの蒼核のせいで……!)


 3 灰狼の抵抗


「……綺羅!!」


 クロウの影を引き裂くように、ルーヴァが飛び込んできた。


 影の爪がルーヴァを傷つけようと伸びるが――

 彼女は素手でそれを掴み、噛み砕くようにして砕いた。


「クロウ……やめて……!

 綺羅に触らないで……!」


 クロウが静かに目を細める。


「――反抗か?」


 その声だけで、

 ルーヴァの灰核が苦しげに震えた。


「あ……ぐっ……!」


 胸を押さえ、膝をつく。


「ルーヴァ!!」


 綺羅が駆け寄ろうとした瞬間――


「綺羅!! 近づかないでっ!」


 煌が綺羅の手をつかんだ。


「灰核が苦しんでる……!

 今触ったら……危険だよ!!」


 綺羅は足を止める。

 灰狼の少女は、喉を詰まらせ泣きそうに空を見上げた。


「やめて……クロウ……

 わたし……綺羅を……!」


「黙れ」


 クロウの一言で、灰核が悲鳴を上げた。


「っあああああっ!!」


 ルーヴァの体が痙攣し、地面に倒れる。


 4 綺羅の蒼核、限界へ


「ルーヴァ!!」


 綺羅は煌の手を振りほどいた。


 蒼核がまるで怒るように脈打つ。


(ルーヴァの……この苦しさ……

 クロウ……許せない……!!)


「綺羅、だめ!

 蒼核が……暴れ始めてる!!」


 煌の声が届かない。


 綺羅は蒼核を押さえながら、ルーヴァの体を抱き起こした。


「ルーヴァ……!」


 抱きしめると、

 灰核がじくじくと赤黒い光を放つ。


「綺羅……触っちゃ……だめ……

 わたし……命令で……

 綺羅を……殺すように……!」


「そんなの関係ない!」


 綺羅は叫んだ。


「ルーヴァは……!

 本当は……優しい子でしょ!!」


 その言葉に、ルーヴァの目から涙があふれた。


「やめて……そんなふうに言われたら……

 わたし……壊れちゃう……っ」


 灰核が悲鳴のように光る。


「綺羅……離れて!!」


 煌が叫ぶ。


 だが綺羅は――離れなかった。


 5 三つの核が暴れ始める


 綺羅の蒼核。

 煌の光核。

 ルーヴァの灰核。


 三つの脈動が、同じリズムで鳴り始めた。


 ――ドン。

 ――ドン。

 ――ドン。


 夕暮れの空気そのものが震える。


「だめだ……!

 共鳴が強すぎる!!」


 煌が胸を押さえ、膝をつく。


 綺羅も息が荒くなり、

 ルーヴァは綺羅の胸にしがみつくようにして震えていた。


「綺羅……こわい……

 わたし……綺羅を、壊しちゃう……!」


「壊されないよ。

 だって、ルーヴァはわたしを守ろうとしてくれた」


「そんな……」


「怖がらなくていい。

 わたしが守るから」


 ルーヴァは、綺羅の胸で泣いた。


「……っ、綺羅……!」


 その涙が、三つの核の鼓動をさらに強くした。


 空気が歪む。

 世界そのものが鼓動と共に脈動する。


 そこへ――


 6 クロウの一撃


 クロウが腕をゆっくり上げた。


「もうよかろう。

 三つの核が揃った今――

 蒼核を奪うには最高の機会だ」


 黒い波が、綺羅へ向かって放たれた。


「いやあああああっ!!」


 煌が動いた。


 綺羅とルーヴァを突き飛ばし、

 自分の胸――光紋を前に出す。


 黒い波が煌に直撃した。


「煌っ!!?」


「だいじょう……ぶ……

 綺羅……守れたから……」


 次の瞬間――

 煌の胸の光紋が裂け、第二の紋様が浮かび上がった。


 まるで花弁のようにひろがる金色の模様。


 光核が覚醒しつつある。


 クロウの目に僅かな警戒の色が走る。


「……ふむ。

 その光……ただの補助核ではないな」


「煌!! しっかりして!」


 綺羅が抱き寄せると、

 煌は息を整えながら笑った。


「綺羅……守れて……よかった……」


「バカ……!

 一人で抱え込まないでよ!!」


 その叫びに、煌は目を伏せ、小さく頷いた。


 7 三人、逃走へ


 クロウはゆらりと歩みを進める。


「さて。

 蒼核をもらおうか」


「させない!!」


 綺羅は蒼光をまとおうとした瞬間――

 胸に電流のような痛みが走った。


「くっ……!?」


(まずい……

 蒼核が……制御できない……!)


「綺羅!!」


 煌が手を取ろうとするが、

 その手が震えていた。


 ルーヴァは綺羅の肩に顔を埋め、震えながら言う。


「綺羅……逃げて……

 クロウは……わたしでも止められない……」


「ルーヴァも来て」


「わたしは……!」


「置いていかない!!」


 綺羅はふたりの手を掴んだ。


 その瞬間――

 三つの核が淡い光を放った。


(……走れる)


 痛みはあっても、

 綺羅の足はしっかりと地面を蹴った。


「煌、ルーヴァ!!

 行くよ!!」


 三人は手をつないだまま、

 クロウの影の伸びる路地から全力で駆け出した。


 背後でクロウの声が響く。


「逃げられると思うなよ。

 いずれ、お前たち三人の核は――

 ひとつの形に収束する」


 その言葉が、

 綺羅たちの背中に冷たく降りかかった。


 《第10章 完》

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