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9.伝説

 盗賊が捕えていた村人たちは程なくして見つかった。


「ありがとうございます……! 何と感謝すればいいか!」


 この村丸ごと盗賊団の餌食にされ、女子供、男達も全員捕まっていたらしい。

 帰路につく本当の村長はその時のことを語り出す。


「奴ら、狡猾にも皆が寝た夜に忍び込み全員を拘束しやがったんです」

「それは大変でした。」

「ですから、私達はもう助からないと思っていたんです。あなた方が来てくれなければ、売り飛ばされていたでしょう。何でも言ってください。お礼にどんなことでもいたします」

「それでは、ぜひお願いしたいことがございますの!」


 ファスタはこの村に来た本来の目的を語り出す。


「私達は本来、この村に商談に来ておりまして、かくかくしかじかで――」

「ええ、そう言う事でしたら、是非恩を返させてくださいな」

「ありがとうございますですの!」


 そして、あっさりと快諾された。目的達成である。

 ファスタは毅然に振る舞っていたが、うまくいったとわかるとこれまで我慢していた感情が溢れたかのように破顔した。


「よかったですね、ファスタ様」

「はい! きっと、これは運命ですの!」


 それはもう、ニコニコである。

 きっと、今日はずっと気分の良いままだ。盗賊に襲われたりしたけど、終わりよければすべてよしって事だ。

 もう日も暮れている。この幸せな気持ちのまま、村に帰って寝ていたい。食事はどうしようか……宿も。

 そう思っていると、村長さんが助け舟を出すように話しかける。

 


「もう遅いですな。今夜はとりあえず、私の家に宿泊なさってください。ほら、すぐそこあるのが私の家――」


 彼は言った。

 俺たちは、何かに気付いたように、ピシャリと静かになる。


「皆さん、どうかいたしましたか?」

「村長、その、でしてね……」

「家はもう……」


 誰もが言い淀んだ。近づいて見えてくるのは、屋根が吹き飛び壁に大きな穴が空いた家……廃屋であった。


「これは……!」


 村長は驚きのあまり言葉が出てこない。

 そういえば、俺は家を吹き飛ばしたんだったな。うーん、盗賊がいたし、しょうがないと思う。今思えば過剰だったかもと思わなくはないけど、仕方ない。

 でも、怒られたくはないな。


「……これは全て盗賊の仕業です!」


 冷ややかな目で見る3人、しかし口を挟むことはない、不利になるからだ。


「やはり、そうですか……あの悪質な盗賊どもが……」

 

 村長はあっさりと信じた。彼らは既に悪事をしているのだから、多少の悪事はするだろうと思っている。普通に嘘なんだけど。

 

 真実はこんなにも簡単に捻じ曲げられる――


 ――――――


 村民の無事を祝うという建前で盗賊の悪口を言う宴が開かれた。


「そこで俺は言ってやったんだ! お前のケツはメタルのコンポートか! ってな!」


 ある一人の男性の言葉にドッと湧く村人たち。

 何だこれ。異文化の例えは全く理解できない……。


「おい、嬢ちゃん! あんたはなんかできんのか? 踊りとか! ガハハ」


 酒を持った男性が唾を飛ばしながらファスタに詰め寄る。


「い、いえ、その……」

「私は、この国に伝わる英雄伝説を覚えているぞ」


 隣にいたミトが助け船を出す。


「そうか、じゃあ聞かせてくれや!」

「ああ、わかった。その昔、この地は国という共同体を持たなかった。ある時、ある一人の男が立ち上がり――」


 その話は、コモスポート建国の時代、英雄と讃えられた王の話であった。

 曰く、現コモスポートのある港に大きな拠点を作り、各地の村に東奔西走し認めてもらい、国としてまとめ上げたという。しかし、それだけでは終わらない。


「それは民の不安の象徴か、この国に暗雲が立ち込めた。暗雲は大きな雨雲となり、雨は3年続いた。川はうねり、海は跳ね、獣の怒号のような雷鳴が響いた。民達は王に縋る。『どうか、どうかこの国をお救いください』

 王は言った。『これより地下に篭る。私が出る時は、雲が晴れる時だろう』

 そうして、王は王城の地下深くへ潜った。3ヶ月経ち、地上に戻った。王が魔法を唱えると、たちまち雲は晴れ、国に平穏が訪れた――」


 それが、この国コモスポート建国史である。そう言って、ミトは話を閉めた。


 誰もが静かに聞き入った。彼女の語り口が上手だったからだ。


「嬢ちゃん、話うめえな!」

「そ、それほどでもないが……」

「んにゃ、うまい! 面白かったぜ!」


 ミトは担ぎ上げられて満更でもなさそうだ。

 しかし俺には気になるところがあった。


「コモスポートには王がいるのか?」


 この世界に来てすぐ、仁美はこの世界について鑑定でわかることを教えてくれた。その時、コモスポートの事を共和国と言っていた。


「十数年ほど前に革命が起きてな。王家が打倒されたのだ」


 なるほど、革命か。この国もただ平和なだけではないようだ。


「私のルーツはこの国にはないから、当時のことは詳しくない。だが、この話は好きだ。ただの人が、人徳と実力で英雄になる話……憧れない人などいないであろう!」


 ミトはそう目を輝かせる。


「私もいつか、英雄のように強い人になりたいのだ」

 

 それに同調する村人たち。

 ワイワイと盛り上がり、酒を煽る。

 

 その隅で、静かに席を立つ人影があった。

<Tips>

 3年続いた雨を魔法で払った英雄の話は街の中では有名らしい

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