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7.オーガニックの村

 今回ファスタたちがこの村に訪れた理由として、行商として衣服を売るという目的が1つ。この世界の行商はいろんなものを売っているらしく、食料や農具なども売ってるらしい。今回はそうした商品の中でも衣服を中心に持ってきたのだそう。

 

 ただ、この村に訪れた理由は1つだけではない。

 そもそもルミマール商会は長距離で大規模な流通を得意としている。大きな船をいくつも所有し、多くの人員を抱える大きい商会らしい。

 しかし海に怪物が現れ、航路が使えなくなった現在、商会の儲けが著しく減少している。

 そのため、拠点であるコモスポートの街より比較的近い村々からも商品を仕入れたいという。

 この村にも広い畑があった。その農作物の流通、販売に一枚噛みたいのだろう。


 「――ということですの」


 ファスタはその旨を懇切丁寧に説明した。


「つまりは今年の収穫の一部をルミマール商会に卸してほしい、と?」

「ええ、どうでしょうか?」


 ファスタはロー村長の目を見る。真剣だ。

 彼女は初めて仕事を任されたといっていた。その割には肝が据わっている。

 その上、相手に誠実であろうとする。人は、こういう人間を信頼したくなるものだ。

 しかし、村長であるローはバツが悪そうな顔をする。


「ああ、へへ、どうでしょうなあ、それは私の一存ではなんとも……」

「この村はオーガニックで安心安全な自然栽培を行っていると聞きます。この村の理念に強く賛同したいと思いましたの」


 なんか就活みたいだな……とか思っていると、仁美は「添加物はないのに農薬とか有機栽培の概念はあるのね……」とつぶやいている。たしかに。


「オーガニックを世界に届けたいと思っておりますの」

「したってよ、えと、へへ、どうだろ……」


 歯切れ悪く答える。

 ルミマール商会に卸すということは、これまでの卸先には不義理となってしまう。

 我々は勿論これまでよりも多い金額を提示している。

 金額とこれまで積み上げた信頼。どちらを取るか、彼もきっと悩むのだろう。


「ま、まあ、うちの野菜を食べてってくださいな。それから考えてもいいじゃありませんか。丁度ジャガイモを茹でていたところなんですよ」


 考える時間を稼いだロー村長は裏口から出る。調理場が別にあるのだろうか。

 彼の姿が見えなくなってから、ミトは口を開く。


「なんだか挙動不審な男だな」

「ミト、失礼ですわ。彼もきっと悩んでいるんですの」

 

 確かに必要以上にオドオドとしていたが、そういう人もいる。

 若いのに村長という立場になったんだ。こういう決断にはまだ慣れていないだろうな。

 ……けど、それ以上に何か、隠し事をしているような気もする。

 ただの勘だから、証拠もないけど。


 そんなことを考えていると、ロー村長が戻ってきた。


「こちらが、今年取れたジャガイモでっせ」


 ロー村長は茹でたジャガイモを俺たちに差し入れる。


「さあさ、護衛の方も是非召し上がってくださいな」

「え、ええ。それじゃあいただくわ」


 仁美は差し出されたジャガイモを手に取る。


「それにしても、この村はジャガイモも育てているのね。通ってきた感じそんな様子はなかったけど」

「え、ええ! この村では麦畑が目立ちますが、細々とやっているんですよ」


 俺は手の中にあるイモを見る。確かに今年取れたイモなのだろう、新鮮そうに見える。

 しかし、なんだろう。やっぱりどこか変な気がする。

 仁美も気になったから、聞いたんだだろう。

 不安そうな顔で見るファスタ。行き過ぎた質問をしたら止めるのだろう、商会の代表として。


「その畑は、この村のどのあたりにあるの?」

「ええっと、その、ここよりかなり東のほうですぜ」

「このジャガイモは、いつもは何処に卸しているの?」

「ええと、コモスポートから来た商人に……」

「卸している商人の名前は?」

「忘れちまいました」


 ミトもファスタも手にあるジャガイモを口にしようとしなかった。

 ジャガイモを口に運んだのは俺だけ。


 そのジャガイモの味を確かめ、感想を告げる。


「……これ、毒だな」


 凍り付く場。

 戦慄するファスタに、驚くミト。

 仁美は疑っていたのか、反応は薄い。

 

「えっと、本当に毒は入れてないですぜ!! 信じてくだせい!」


 と、弁明するローという男性。

 もう一口食べる。


 「ど、毒があるのに食べるのか?」


 とさらに驚くミト。

 このジャガイモを賞味する俺に、視線が集まる。


 俺は、この毒の正体を詳細に説明する。


 「……農薬の味がする」


 「えっと、その…。」

 「このジャガイモは有機栽培じゃない! 俺にはわかる!」

 「お前、ふざけているのか?」 

 

 ファスタは困惑している。

 ミトはゴミを見る目で俺を見ている。

 俺は必死に弁明する。

 

 「の、農薬は人を蝕む毒だろうが! 長期的に取り続けることで毒が体に蓄積して、がんのリスクも500%も高まって――」(※1)

 「大地、そんなことはどうでもいいの」


 仁美は俺をとめる。


 「このジャガイモには、農薬が入っているのね? この村では使われていないはずの。村長さんはこの村のものと言っていたのに」


 ああ、そうか。それは、確かにおかしい。


「最初から不自然な点が多かったもの。仕事をせずに私たちを監視する村民。私たちのことを知らないはずなのに、お待ちしてました、なんて言ったり。外で護衛しようとする私たちを無理やり家に迎え入れるのも不自然ね。……ロー、といったかしら。貴方は一体何者?」


 仁美が問いただすと、ロー村長は笑顔のまま、冷や汗をかく。


「まいったな」


 ミトはファスタを守るために庇うように前に出て、剣を抜く。男は構わず話し続ける。


「へへへ、ばれちまってはしょうがないですな。私は暗雲の蛇という盗賊団の首領をやっております、トグ・ローといいやす!」

 

 仁美は俺に耳打ちする。


(……おそらく囲まれてる。私が外に鑑定を使って、敵がどこにいるか確認する。)


 それを俺がぶちのめせということだろう。


「あいわかった」


 俺がそう答えると間もなく、村長になりすましていた男……ローは左手を頭上にかざし、光の粒子が集まる。魔法だ。


「あんた方の身柄、頂戴いたしやす!!!」


 そう宣言すると、頭上に大きな石を魔法で生成し、俺たちに向かって射出する。


 ヒュン――と、風を切る音が、戦闘開始の合図だ。


 俺はその石の正面に立ち、拳を握る。

 そして、飛ばされた石に拳をぶつける。

 

 ゴッ! と鈍い音が響く。

 

 強い衝撃が腕に伝わり、割れた石のかけらが頬を擦り、パラパラと落ちて行く。

 ここまで、刹那の出来事である。

 

 ファスタは身を屈め、ミトは俺の後方を警戒する。

 

 仁美は目を光らせる。

 左右前後、ついでに天井を確認。

 そして、報告。

 

「右2左3後ろ3に上4!!」

 

「お前ら、伏せろおお!!!」

 

 叫んだのち、

 腕を大きく振り勢いをつけ、

 空にアッパー。


 ――パアアアアアン!!!!!!

 

 その拳は空気を超速で動かし、

 優に音速を超え、

 衝撃波が発生。

 

 鳴り響く轟音。

 爆発でもしたのかという風は、屋根に乗っていた盗賊もろともぶっ飛ばす。

 格子窓から抜ける風が、乗り込まんとしていた奴らもまた吹き飛ぶ。

 

 テーブルや椅子は風圧で吹き飛び、ローや仁美達も地に転がる。伏せていなかったら、風圧をもろに食らい壁に激突してただろう。

 

 油断はしない。

 起き上がろうとするローを直接蹴り飛ばし、壁を貫く。

 大きく穴の空いた壁をくぐり、外に出る。

 ……やっぱり、この世界の人間は頑丈だ。

 ゴブリンに殴られてもピンピンしていたミトを見たときからわかっていた。

 こんな衝撃を食らっても、まだ立ち上がらんとしている。

 盗賊達は俺を囲む。最優先で殺さねばと思ったのだろう。

 視線を集めた俺は、何かをしゃべらずにはいられない。俺はそういう性分なんだ。


「俺の名前は平世大地! 農薬という毒をまき散らす悪党どもを成敗する!」

 ※1 ガンのリスクに関する科学的根拠は一切ございません。妄言です。


 本日は4話投稿してます!

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