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20.「巨大な怪物」討伐作戦(1)

 魔物災害対策会議によって、討伐作戦はすぐに執り行われることとなった。

 簡単に作戦を説明すると、海兵団の戦艦が囮になっている隙に、俺が奴の心臓を貫く。


「……とりあえず、『巨大な怪物』の心臓の位置について、説明するわね?」


 作戦当日の朝、コモスポート魔法学校の学長ソフルが俺に説明する……脇に、なぜかノノリカを添えて。


「待て。なぜノノリカがいる?」

「えっと……私は、ただ師匠の仕事を手伝っただけで……」

「ふふ、心臓の位置は、ノノが特定したようなものなんですよ」

「そ、それは、ただ私が『月反射波動解析』が得意なだけで……」


 なんでも、月に反射した魂の波動を解析することで心臓の位置を特定したらしい。何言っているのか、さっぱりだ。


「えっと……それは、重要な話ではなくて……」

「そうねえ、心臓の位置について、の話でしたもの――」


 ――――――


 ソフルから話を聞き、俺は船に乗り込む。


「オラ、またお前を乗せるなんて思ってもみなかったわ」

 

 俺はルピーに頼んで、ルピーの船に乗ることにした。


「まあまあ、成功すりゃめっちゃ報奨金出るらしいしさ」


 とバルモッカ。そう、あの時挑んだメンバーで、またリヴァイアサンを倒しに行くのだ。


 『全艦、出撃準備! 今日こそあの怪物を打ち砕くのだ! 今すぐ舵を切れい!!!』


 と、海兵団長ダリケッタの号令の声が聞こえ、汽笛が鳴る。


「ほな、いくで!!」


 大きな船に続いて、青空の下、小さな3人乗りの小舟は駆け出すのであった。


 俺たちは海兵団の戦艦群に続くよう進む。大きな船が何隻も、弧を描くように配置している。


「大きい船だ、並んで動いていると迫力がある」

「すげえだろ、コモスポートの誇る海兵団の主力だからな。ただ、あの怪物はこの船を一撃で沈めやがる……」

「今回あの船は全部囮って聞いたんやけど、ほんまよな?」

「俺たちが殴るまでの時間稼ぎだからな……おっと、前の船が止まったぜ」


 航海の末、前の戦艦が止まった。奴の海域に入ったのだ。

 戦艦群はリヴァイアサンがいる方向に向かって囲むように進んでいく。おそらく10隻ほど。

 俺たちの船は中央にいる戦艦の横に配置する。リヴァイアサンが姿を現したとき、柔軟に回り込めるようにするためだ。


 「おっと……エースの登場だぜ」


 バルモッカがそう言いながら主艦の先頭を見る。そこには剣を構えたグレースが銀色の髪を揺らしながら立っている。


「あいつは……会議にいた奴か。魔法剣が得意なんだっけか?」

「ああ……あいつは、海兵団で一番強い。そして、奴の使う魔法剣は派手だ」


 彼は小さくつぶやく。


 「魔法剣:氷嶺」


 唱えると、あたりに白い光の粒子が蔓延し……剣に収束する。そして、ここからでもわかるほど強力な冷気を発し始める。


 「さっむ! なんやアイツ、オラ半袖やで!」


 とのたまうルピーには目もくれず、俺たちはグレースの一挙手一投足に釘付け。

 彼はゆっくり剣を振りあげたかというと、勢いよく剣を振り下ろす。


 その斬撃は冷気をまとって海へと飛んでいく。そうして海面に当たった途端……海が氷の島に変わる!


「すごいな……あれが本当の魔法剣……」

「多分、アイツが国一番の使い手だ」


 間もなくして、氷の島が盛り上がっていく。氷の床を、何かが下から押し上げているかのように。


「来るぞ……」


 やがて、そこから巨体の龍が現れる。銀色に乱反射する鱗に、蛇のように細長い形。俺たちが先日見た姿と同じ……リヴァイアサンである。


『全艦、砲撃よおい!!!』


 ダリケッタ団長の声が響く。拡声魔道具によって大きくなったその声は、広い海の上の船たちにしっかり伝わったらしい。


『はじめ!!!』


 号令とともに、リヴァイアサンを囲む船から轟音が響き、砲撃の炎が海を照らす。これまで凍っていた海面が解け、リヴァイアサンは火に包まれる。


「あのまま倒せたりしないのか?」

「バカいえ、前回も同じことをやって、倒せなかったんだ。ダイチ、俺たちは回り込んで死角から攻撃の準備をするぞ。ルピー、旋回する」

「わかったで!」


 そういうと、俺たちは主艦を見据えるリヴァイアサンに、こそりと回り込む。

 奴が心臓部を海面の上に出した瞬間を逃さない――そう思った時だった。


 ちらりと、リヴァイアサンが俺の方を見る。

 ――目が、あった。


 その瞬間、リヴァイアサンは大きく口を開き――


 「まずい、海面上昇ビームだ!!」

 

 バルモッカがそう叫びきる余裕もなく、ビームが射出される。

 俺たちを一掃するように、リヴァイアサンは首を振り、薙ぐ!

 俺達はしっかりと船に捕まる……ルピーの操船技術なら、壊されなければ態勢を立て直せるはず。


 直後、俺たちに襲い掛かる波……氷塊を伴って俺たちはともに吹き飛ばされる!!

 

 氷のかけらが船体に刺さる。壊れてくれるなよ、願うも虚しく、俺の掴んでいた縁を大きな氷塊がえぐる、衝撃が伝わった時には俺の体は船から大きく離れていた。バルモッカの叫ぶ声が聞こえた気がする。

 ここで終わりか。いや、まだ。前のように走ればいい……と思うも、襲い掛かる氷塊は容赦なく俺の頭に直撃し、視界が白くなる――


 ――――――


「おい、起きるんだ」


 声が聞こえる。聞きなれないが、知っている声……キザな野郎の声……グレースだ。どうやら俺は気を失っていたらしい。

 目を開くと、あたりは氷に包まれている。きっと、まだ海の上にいる。そしてこの氷……氷河のように広がる氷の大陸はグレースの氷だ。この範囲を凍らせたのか……? なんて魔法だ。

 ルピーの船は……見えない。


「……俺はどのくらい気を失っていた?」

「5秒くらいだ」


 グレースは俺の前に立ち、振り向かずに答える。その目線の先には未だ暴れる龍、リヴァイアサンが氷の穴から顔を出す。


「ダイチ殿、今気を失ってはいけない、私達で奴を仕留めなければならない」


 グレースの瞳には青い炎が宿っていた。

 俺には、彼がどんな感情をもってこの場に立っているかわからない。

 けど、リヴァイアサンを本気で倒したがっていることだけはわかる。


「悔しいが、私では奴を倒すことが出来ない……ダイチ殿、貴殿にしかできないのだ」


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「ああ、俺たちでリヴァイアサンを倒す――作戦はあるか?」

「最初と同じ……私が奴の気を引いて――腹、奴の心臓に最も近い場所を露出させる」

「それを、俺が殴るってわけか」

「そうだ」


 俺は首を回し、関節を動かす……大丈夫。

 次は失敗しない。


「……ダイチ殿は、この国の『英雄』の話を知っているか?」


 グレースは唐突に話し始める。

 

「ああ……3年続いた雨雲を払った話だろ?」


 ミトから聞いた話だ。


「私は……英雄になれなかった。魔法剣には自信があったのに――前回の討伐戦で怪物を倒せなかった。この国に降る雨を払うことは叶わなかった」

「だから何だってんだよ」

「もし英雄がいるのだとしたら、それは――」


 突如、地面――海が揺れる。リヴァイアサンが海の中の体を振り回し暴れている。


「……話している時間などなかったな。ダイチ殿、いくぞ」

「ああ!」

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