19.対策会議
「俺はどうしてもあの怪物を倒したいのだが」
翌日、全身が筋肉痛になった俺の体に鞭打って冒険者ギルドの共有スペースに足を運ぶ。そこにはバルモッカがいる。リヴァイアサンから逃げ帰った昨日、「必ず倒す」と誓い、作戦会議をすると約束したのだ。
バルモッカは足を組んで答える。
「そうだなあ、一つ案があるぞ。明後日、国の偉い連中が集まって『魔物災害対策会議』ってのを行う。まあ、奴が現れてから頻繁にやってはいるんだが」
「それで、それがどうしたんだ、俺らには関係ない話だろ。まあ、国が動くってんなら楽な話だが、これまでそうじゃなかったんだろ」
「バカだなア、ダイチは。動かないんなら、動かせばいい。……俺らは、会議に乱入する」
バルモッカは椅子を軋ませ、座りながらも身を乗り出す。
「乱入……」
「ああ、俺とお前ならやれる。なんせ、アイツを吹っ飛ばしたんだぜ。海兵団は傷一つ付けられなかったって言うのによ」
彼はテーブルの上にあるリヴァイアサンの鱗を転がしながら言う。
「これを見せれば、奴らも重い腰を上げるだろ」
……悪くない。というか、いい。俺の力が国を動かすなんて、なんて気持ちがいいのだろう。
「会議は明後日だ。お偉いさんを説得するために、まずは顔と名前を覚えるぞ。国議会の議長や海兵団の団長、教会や冒険者ギルドのお偉いさんから魔法学校の学長まで出席するからな」
そういって、彼は資料を取り出す……。めんどくさいが、リヴァイアサンを倒すためだ、仕方ない。
「ダイチ、質問はあるか?」
「海兵団ってなんだ?」
「はあ、お前なんも知らねんだな。海兵団は国を守る軍隊みたいなもんだ、別に山にも陸にもいくぜ。名付けた奴は狂ってる」
「あと、教会も」
「ただの宗教団体だよ、勇者信仰の……まあ、今はどうでもいい、それで、まずはこいつについて――」
俺たちの作戦会議は夜更けまで続いた。
――――――
魔物災害対策会議当日。
町の中心に位置する議事堂は石造りでできている。正面玄関から見れば横にも縦にも大きく、威圧感がある。
「あっちょっと! ……もしかして、バルモッカ様!?」
俺たちを止める門番は、バルモッカの顔を見るなり驚く……が、今回の出席名簿にいないことを確認すると、やはり止める。
「い、いくらバルモッカ様といえど、出席名簿にない方は……」
「いいだろ、別に。国のことは知らんが、魔物について俺は詳しいぞ」
「なら、ギルド長に頼んで正式に出席すればよかったのでは……」
そういうと、バルモッカはぴたりと止まり……そして走り出した!
「お、おい、バルモッカ!」
「お、お待ちください!! もしかしたら、特例で認められるかもしれないので……!」
門番を撒いて、会議室の見える廊下の陰で息を整える。
「はあ、はあ……バルモッカ……急に走んなよ……」
「わりいな、説明がめんどくさくてよ。それじゃあ、会議室に入るからな」
俺らは扉の前で横に並び、そして両開きの扉を押す。
「な、何事ぞ!」
正面に見えるのはこの国で最も偉い人。国議会の議長でありこの国の王政を打破した革命を起こした人物、フン・ゾリカエリー。彼は肉付きのいい頬と体を揺らしながら、驚きながらもにたりと笑う。
「ひっ……な、なんだ、バルモッカ氏か。今日貴様の席は用意していないぞよ……それに、隣の男は何だ? 説明するぞよ」
「悪いな、議長サマ。一応特級冒険者として提案を持ってきた。まず、紹介したい人がいる、こいつは――」
「ダイチだ。俺らの目的を簡潔に言う。あの怪物を倒しに来た」
「なっ!!」
どよめきが走る。
ざわざわとする会場の中、末席に座る青年が挙手した。あいつは……グレース、海兵団の若きエースだ。銀髪の騎士然とした若い男が冷たく言い放つ。
「ありえない、いくらバルモッカ殿の連れだとしても無理な話だ」
剣の使を床にトントンと叩きながら、俺たちを睨む。相当怒っているようだ。
それに答えるのはバルモッカだ。
「そういうと思ってたぜ。俺らは、先日リヴァイアサンに挑みに行ってよ。ま、倒すことはかなわなかったんだが、こいつを見てみろよ」
彼が袋から取り出したのは、銀色の大きな鱗。会議室に差し込む陽光を反射して、美しく輝く。
「これは……!!!」
最も驚いたのは、海兵団団長、フン・ダリケッタ。議長の弟だが、ふくよかな議長と違い筋骨隆々な男だ。
「まさか、これは、まさか! はは、まさかまさか! いやはや、まさか、これは、巨大な怪物の鱗ではないか!」
――長いわ!
などと突っ込むとはせず、俺は彼の反応を待つ。
「我々海兵団と冒険者ギルドの合同作戦をもってしても傷一つ付けることが出来なかったというのに! おい! そこの青年! ダイチといったか! よくやった!」
ダリケッタは急に立ち上がると、俺を褒めだした。ガハガハと笑いながら俺の頭をガシガシとなでる。
「えっ……あっありがとうございます……」
俺が困惑している間も、会議は続く。
「傷をつける方法があるなら、勝算はあるかも……」
「でも、被害はなるべく抑えなければならぬ」
「陸におびき寄せてみてはどうか」
「早く会議が終われば娘に会えるのに……」
「陸におびき寄せるなど市民の危険を考えよ!」
怒号が飛び交う中、俺たちは重要なことを伝え忘れていた。
……まずは、こっちに注目を集めるか。
「おい! お前ら! 俺の話を聞け!」
皆……バルモッカまで、ぎょっとした目で俺に注目する。
……やっべ、めっちゃ無礼だったかもしれない。けど、乱入しているわけだし、今更だろ。
「……俺は、リヴァイアサンの頭部を殴って、吹き飛ばした。奴の頭は木っ端微塵になった……しかし、奴はまだ生きている。再生したんだ。リヴァイアサンには、驚異的な再生能力がある」
「――な!!」
これまで「倒せそう」という空気が一変。またも俺たちが会議室に入るときと同じ、暗い空気となる。「どうすれば被害を最小限にできるか」と話し合う、消極的な会議になる……そう思った時、ある女性がぽつりとつぶやく。
キャラメル色の髪に、大きなとんがり帽子をかぶった魔女のような女性。……コモスポート魔法学校の学長にして、つまりはこの国における魔法の最高権威、ソフルだ。
バルモッカ曰く『こいつが一番ヤバイ』らしいが……たしかに、胸は『ヤバい』くらいでかいが。
「やはり……巨大な怪物は、真の”龍”なのね」
龍。その言葉に緊張が走る。
「龍……それは、本来古来からいる伝説の生き物。龍と形容され、名付けられた魔物はたくさんいるけれど……伝説と同じ『再生能力』を持つ個体はこれまで発見されていないの」
ソフルは目を伏せ……帽子で顔を隠しながら、説明する。
「伝説にある『龍』は、心臓がある限り、何度でも再生するの……。ふふ、逆に言えば――心臓さえ破壊できれば、倒すことが出来るのだけれど」
伏せた帽子から目だけをこちらに配り、俺にウィンクしながらソフルはほほ笑む。
「ダイチちゃん……あなたは、心臓の位置が分かれば破壊できる?」
その笑みは、俺への挑戦状だった。挑発ともいう。
俺に、答えは一つ。
「ああ、俺が奴を仕留める!」
――――――
「ああ、そうだ、話は変わるがなぜ皆リヴァイアサンと名前を言わないんだ?」
「まだ正式名称じゃないからだよ。特徴的に、伝説に伝わる龍……リヴァイアサンってことはわかり切ってるんだけどな。名称の決定に5年はかかるらしい」
「公的には?」
「『巨大な怪物』」
「怪物って……つまんないな」
「役所なんてそういうもんだ」
【登場人物紹介】
フン・ゾリカエリー
王政だったコモスポートに革命を起こして議会を作った国議会の議長。偉そうだし、実際偉い。恰幅のいい中年、ふんぞり返っているが、手腕はある。
フン・ダリケッタ
ゾリカエリ―の弟にして、海兵団の団長をやっている。ムキムキで背が高い色黒の兄さん。本人が強いのはもちろん、とにかく指揮がうまい。けど今は政治に翻弄されて踏んだり蹴ったりな毎日を送っている。
グレース
海兵団のエース。銀髪の騎士然とした男。カッコいい!
ソフル
この国の最高学府コモスポート魔法学校の学長(この国の魔法関係で一番偉い)
ノノリカの師匠もやっている。バルモッカ曰く『一番ヤバい』らしい。




