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18.うちあげ

 昼下がりの町の大通りは人混みで賑わっていた。露店から香ばしい香りと主に呼び込みの声が聞こえるが……今回は、そもそも私の仕事道具に買いに来たわけなのだから、あまり用はない……はず。


「わらひたひはヒトミの為に来たのだから……よりみひはしてはいけないのだ! もぐもぐ……」


 串焼きを頬張りながらそう言っているミトを見ると、もう少し楽しんでもいいのかも……と思う。


「まずは必須道具から買いましょう! 私の商会が懇意にしている商会から案内いたしますわ!」


 そういいながら、ファスタは私たちの手を引いて、たどり着いたのは大きな文具店。

 

「えっと、ファスタちゃん……必須道具って、何を買うの?」

「まずは、帳簿、魔導計算盤に羽ペン……それに、遠征時の為にマイスプーンも必須ですわ!」

 「……それ、ほんとに必要?」


 ファスタはキョロキョロと見回すと、まずは羽ペン売り場へと移動する。


「まずはこちらの羽ペンはいかがかしら! 海の向こうにある国の工芸品で、インクの流れも滑らかで、描き心地も格別なのですわ!」

「……ちなみに、いくらくらい?」

「よくわかりませんわ!」

「絶対高いやつじゃない!」

「えっと……ヒトミちゃんが、それを買うのは少し……難しい、かも……?」


 と、横からノノリカが教えてくれる。

 今の私の手持ちは、ファスタの遠征の護衛を手伝った謝礼金のみである……まあ、それも結構な額をもらったわけではあるけれど。

 ミトとノノリカも売り場を物色し、気に入った商品を私に勧める。


「じゃあ、こんなのはどうだ? 自由の象徴たるペガサスの羽を使った羽ペンで、丈夫だ。さっきのより値は張るが……」

「値が張ったらダメなのよ!」

「じゃ、じゃあこういうのは……この羽ペンは魔道具で……なんと、羽ばたいて飛んでいっちゃう機能があるんです……!」

「ペンにそんな機能はいらないの!」


 結局私はリーズナブルかつ丈夫な羽ペンを買う。


「私は、やっぱりペガサスのペンがいいと思うのだが……」

「そもそも私の手持ちじゃ払えないのよ」


 文具やバッグを買った後、今度は服飾店へ。

 「商会にふさわしい装いが必要ですわ!」

 なんてファスタが言うから行ったものの、お出かけ用の華やかな服を見る時間になった。


「ノノリカさんも、もっと着飾るべきですわ。ローブばかり着ているでしょう?」

「えっと、け、研究員って、ろ、ローブが正装で……えっと、服にかけるお金がない? っていうか……」

「本当は、面倒くさいだけなのでしょう?」

「……はっ、そ、そうです、はいぃ」

「私が似合う服を見繕って差し上げますわ!」


 と言いながら選んだファスタの服は高価だったり。


「こ、これは少し……可愛すぎないか? わ、私に似合うだろうか……」

「み、ミトちゃん……すごく、可愛いと、思う……」

「そ、そうか? でも、無駄に肌を見せるのは……」

「ミトだって、いつも『女性はもっと自由な服装をしていい』と言っているではないですか!」

「そ、それと、私が着るかは、別問題だろう!」


 ……私は結局、仕事服としてシンプルなチュニックとベストを購入。

 最後はアクセサリーを見に宝飾店へ。


「ここで、最後の仕上げですわ! 商人にはふさわしいアクセサリーが必要ですの!」


 陽光を受けてガラスケースの中で燦然と輝く宝石をあしらったアクセサリーの数々は……到底、私の手持ちだけで買えるとは思えない。


「えっと……こんな店、私には似合わないんじゃ……」

「遠慮しないでくださいまし! これは、私からのプレゼントですの! ヒトミさんが商人になった証ですわ!」


 ファスタが胸を張って、私の背を軽く押す。

 視線の先――そのショーケースの中には、紫色のライラックをかたどった小ぶりのブローチが淡く輝いていた。

 

 うん……商人の証か……。すごく嬉しい。けど――。


「でも、ファスタも、アクセサリーを付けていないじゃない」

「えっと……それは、私はまだ見習いだから……」


 少し視線を落とすファスタ。いつも快活なファスタに似合わなく、小さく見える。

 そんなファスタに、ミトがすぐに声をかける。

 

「ファスタ様、そう卑下しないでください」


 私もすぐに続いた。

 

「遠征して、商談を成功させて、ファスタは立派な商人よ!」

「うん……ファスタちゃんも……商人だと……思う……」


 ノノリカもボソッと同意する。


「私からもファスタに送りたいのだけど……手持ちが……」

「えっと……私も出す……から……」

「もちろん、私もだ」


 三人が自然に顔を見合わせて頷く。

 ――そうして、みんなでファスタに同じブローチを贈った。

 

 ファスタは両手でそれを包み込むように持ち上げる。ファスタは何も言わない。

 ――しばらく見つめたのちに、笑顔を浮かべる。


「……嬉しいですわ。まさか、商人と認められるだなんて思ってもみませんでしたもの。それに……ふふ、ヒトミさんと、おそろいですわね」

「そうね」


 彼女は送ったブローチを胸元に飾る。

 胸元に並んだブローチをなぞりほほ笑むファスタを見て、私も自然と笑みがこぼれてしまう。

 

「お友達からの贈り物……大切にしないといけませんね……」

「お、お友達? で、でも私まだ出会ったばっかだし……」

「もしかして、ヒトミさんとお友達だと思っていたのは私だけですの……?」

「あ、いえ、そういうわけじゃ……」

「それじゃあ、みんなお友達同士、ですわ!」

「……そうね」


 ……異世界に来て、初めて出来た友達の存在に、胸の中がじんわりと温かくなる。

 

 ファスタは小さくとつぶやく。

 

「――この出会いが、運命になりますように」


 前も、似たようなことを言っていた気がする。その真意はよくわかってない……けど、私たちとの出会いを大切にしてくれていることはわかる。

 私も、みんなのことを大切にするよ――なんて、まだ、守られてばっかの私が言える立場じゃないんだけど、いつか伝えたい、そう思った。



「そ、そういえば、ダイチさんって、今、何をしているんですか?」


 ふと、ノノリカがぽつりと言う。

 宝飾店から出て、街の通りを散策している雑踏の中に、彼がいる様子はない。


「ダイチは、海に『怪物を倒しに行く』とか言って朝出かけて行ったけど……」

「えっ!! それ、危ないじゃない、ですか!」


 ノノリカが今まで聞いたことのないような大声をだして驚く。そういえば、ノノリカはダイチが常識外れの怪力を持っていることを知らないんだった。


「多分、大丈夫だと思うけど……様子を見に行く?」

「私は気になりますわ!」

「……実は私も気になっていたのだ、あの男がどこまでやれるのか」

 

 ……実はみんな気にしていたようで、港へ向かうこととなった。


 港に向かう道はもっと船乗りたちの声で賑わっていると思っていたけれど、閑散としている。ちらほらとあたりを歩く人がいるだけ。

 やがて桟橋が見えると、そのあたりに人が見えた。


「な、何か……落ちてるのかな?」

「落ちているというより……打ち上げられているというか……」


 横たわる何かをつつくように囲む人影が二人……バンダナを付けた船乗り風の青年と冒険者風の男。

 そしてそれに囲まれた大きな魚の死体――「あれ、ダイチ!?」


 近づくほどに、それがよく知る人物と明瞭になっていく。

 海面すれすれの板の上で、横たわって動かない男……ダイチがいた。


「ああ、嬢ちゃんたち、こいつの知り合いか?」

「え、ええ……」


 冒険者風の男が私たちに話しかける。


「ひ、ヒトミちゃん……この人……!」

「ああ、この男……この街に滞在する唯一の特級冒険者……バルモッカ……!」


 ノノリカとミトはその男を知っているようだった。


「えっなに? すごい人なの?」

「いやいや、はは、俺はそんなすごいやつじゃねえさ。こいつに比べたらな」


 そういって男――バルモッカはダイチに目を配る。


「こいつ、海の上を走って帰ってきたんだぜ」

「そんなわけ」

「いや、ほんとなんすわ、これが! オラまじビビったんやけど! こいつ、おかしいわ!」


 そういうのはバンダナを巻いた船乗り風の男。

 私たちがそう疑っている最中、かすかに口を開くダイチ。


「……ああ、ヒトミか……潮風が気持ちいいな……」

「なに、ダイチ? 死にそうなの?」

「いや……俺は死なん……必ずあいつを倒す……」


 怪物は倒せなかったらしい。けど、彼のそばには大きな鱗……おそらく、巨大な怪物(リヴァイアサン)の鱗があった。

 

「えっと……ダイチさんがすごい力を持ってるのって……本当だったんですね……」


 とノノリカは驚いている。

 そんな声をダイチは聞くことなく、小さな声でうめいている。

 

「俺は……絶対あいつを倒す……。絶対に……」

「ああ、ハイハイ、わかったから。とりあえず、ファスタの屋敷に帰るわよ」

「俺は動きたくない……あと三日くらいこのまま……」

「馬鹿言わないで、立ちなさい」


 ダイチはしぶしぶ立ち上がって――私が肩を貸し、帰路につくのだった。

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