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15.冒険者になろう!

 さて、今日は冒険者登録をするために冒険者ギルドへと足を運んだ。

 冒険者ギルドは、街の中心から外れた場所に位置する。ファスタの屋敷からはやや遠い。荒っぽい冒険者が集まるため、お嬢様が住む一等地周辺には位置しないのだ。

 目の前に見えるのは石造りの建物。入り口の上に『冒険者ギルド』と書かれた看板が掲げてある。

 重い扉を開けると――中は思ったよりも酒場ではなく、役所らしい雰囲気だ。待合用の長椅子、奥のカウンター、そして依頼掲示板。

 そして、端には「交流スペース」なる一角があり、数人が談笑している。……「交流スペース」って、ダサくないか。いや、役所としては正解なんだけど、なんかもっとこう……酒場みたいなのを想像してた。


 まあいい。俺はまずカウンターに向かう。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどうなさいましたか?」


 応対するのは受付嬢。

 

「冒険者登録をしたいんだが」

「はい、冒険者登録ですね……。こちらの冒険者登録届に名前や住所、生年月日などを記入してください。また、冒険者登録には身分証明書が必要になります」

「……俺は、ギルドカードが身分証明書になると聞いて、ここに来たんだが」

「しかし、ギルドカードを発行するために身分証明書が必要なんです」

「だから、その身分証明書が欲しくてここに来たんだって!」

「ですが、身分を証明できなければ冒険者登録を行うことができません」


 堂々巡りである。なんだよ。身分証明書の発行に身分証明書が必要って。


「身分証明書を持ってないんだが、どうすればいい?」

「そうですね……、一応、身元の確かな方に保証人になって貰えば登録は可能です」

「この街に来たばかりなんだが」

「そうですよね……。でしたら、3番の窓口で『保証人募集』の依頼を発注してみては?」

「いくらくらいかかる?」

「さあ……結構責任が重いので、三ヶ月分の食費くらいかと」

「高えよ!」


 話にならない。どうしたもんかと思案していると。


「というより、身分が証明できず、保証人もいないのに、どうやって街に入ったんですか?」


 ……あ。

 思い出した。街に入る時は、ファスタが保証人になってくれたんだっけ。


「そういえば、仮滞在証があるな……」

「それを早く言ってください!」


 身分証明は、ルミマール商会が保証した仮滞在証で出来た。


「最後に、『魂脈認証』を行います。こちらの水晶に手をかざしてください」

「なんだ? 魂脈認証って?」

「貴方の魂の律動パターンを計測し記録することで、ギルドカードを不正利用できないようにするんです」

「っ、つまり、個人情報を、抜き取ろうって訳か……」

「……ええ、まあ、ありていに言ってしまえばそうです」

「悪びれもせず堂々と、よく言えたもんだな! 俺の状況を抜き取って、きっと悪い事に使うに違いない……!」

「はあ、冷やかしなら帰って下さいよ……」

「……ちょっと待ってろ」


 そうして、一旦離脱する。

 『準備』を整え、もう一度カウンターに赴く。


「……なんですか、その格好は」


 俺は、交流スペースにいた重装備の冒険者からヘルムを借りてきたのだ。


「情報を抜き取られるだなんて本当に恐ろしい話だが、冒険者登録をするために必要ならば仕方ない。しかし、『脳の情報』だけは守らねばならない! だから、水晶から発せられる『思考盗聴波』から身を守るため、ヘルムを借りたのだ!」

「……まあいいです。さっさと登録してください」


 ……俺が水晶に手をかざすと、淡く光る。

 決して、強い光を発して、その場の誰もが驚く――なんて事はなく、すぐに収まる。


「はい、完了です。これがギルドカードです。……貴方は今日から下級冒険者です。依頼をこなしていくごとに中級、上級と上がっていき、受けることができる依頼の幅も広がります。特級冒険者になれば、どんな依頼でも制限なく受けることができるほか、いくつかの特権が与えられます……まあ、この世界に数えるほどしかいませんが」


 と、めんどくさそうに受付嬢は説明する。


「これで説明は全部です。それでは」

「おいおいおい、ちょっと待て」

「なんですか、まだなんかあるんですか?」

「初心者講習みたいなのはないのか?」

「はあ、冒険者ギルドはあくまで仕事斡旋しか行わないので。先方に言ってください」


 ……そう言われたら、そうするしかない。

 

 俺は、掲示板に貼られている依頼を見る事にする。

 いろいろな依頼がある……魔物討伐から、猫探しに至るまで。

 俺はそんな掲示板の、端に追いやられている依頼に目が行く。


「海に棲む巨大な怪物の討伐……」


 ああ、そうだ。そういえば、そうだったな。思い出した。

 俺はこの街に、「世界は平面である」ということを証明しにきたんだった。そのためにまず、「海は曲がっていない」ことを示さなきゃいけない。そして、その邪魔者である『巨大な怪物』を倒さなきゃいけない。

 俺はその依頼書を握り、もう一度カウンターに行く。


「これを受けたいんだが」

「バカ言わないで下さい、まだ下級冒険者じゃないですか」

「しかしな」


 俺はその依頼書に書いてある文言を指さす。そこにはこう書かれている。


『下級冒険者から特級冒険者まで、とにかく募集中!』


「こう書かれている。だから、俺だって受注できるはずだ」

「う〜ん……」


 受付嬢は額に手を当て苦い顔をする。


「……それは、以前大規模な討伐作戦の為に募集した依頼書なんです。その時は補給など多くの人員を必要としたから募集したまでで……。結局、その作戦は失敗、けどギルドとしては街の危機の依頼を『受け付けてない』なんていう事はできず、貼り続けてるだけなんです」

「受けれないってのか?」

「そうですね。その依頼書、今書き換えますので」


 そういうと、受付嬢は『下級冒険者から』という文言に取り消し線を引く。


「これでよし……。これから、この依頼は特級冒険者、およびそのパーティーメンバーしか受注できません」

「……なんて卑怯な」

「これは貴方の命を守るための処遇なんですから……」


 言われてみればもっともである。

 仕方ないか。そう思って踵を返そうとしたその時――


 「おや、受付嬢にフラれてションボリかい?」


 背後から飄々とした男の声が響く。振り返ると、ジョッキを片手に持ちながら顔を赤くする無精ひげを生やした男だ立っていた。


「誰だ?」

「あ~、俺? 俺はバルモッカ。まあ、ただの虫も殺せないような臆病なおっさんだよ」


 妙に軽い口調で、眠たげな目元を緩めた笑顔を浮かべて話す。

 受付嬢はバルモッカの顔を見るなり複雑な表情した。


「あっ、バルさん……新人をいびりに来たんですか?」

「心外だなあ……。新人が落ち込んでたら、酒がまずくなるだろう?」

「施設内は飲酒禁止ですよ」

「ああ、そうだったっけ。……発酵したジュースがまずくなるだろう」


 受付嬢は苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべるが、それ以上追及しようとはしなかった。

 そういえば、周囲の冒険者がひそひそとこっちを見ながら何か話している。

 この様子だと、バルモッカは相当大物なのだろうか。


「んでさ、新人くんは何をしようとしてたの?」

「新人じゃない、ダイチだ……、この依頼を受けようと思ったのだが、断られてな」

「へえ、あの依頼を……すごい自信だ、面白いじゃん」


 バルモッカはダイチの持つ依頼書を見てにやりと笑った。


「新人……ダイチ。勝算はあるの?」


 そう言うバルモッカの表情はやはり笑っている、しかし目つきは違う。……とてつもない凄みだ。しかし――


「ある」


 そう、俺には『怪力』の異能がある。


「ふうん……嘘じゃなさそうだなあ……」


 バルモッカはそういうと受付嬢の方に向き直る。


「なあ、この依頼受けさせてくれよ。ダイチは、俺のパーティーメンバーってことで」

「ですが……」

「『特級冒険者』である俺が受けるって言ってんだ。ルールには乗っ取ってるぜ」

「……仕方ないですね」


 受付嬢はそういうと、手続きを開始する。

 そうか、バルモッカという男、こいつは特級冒険者なんだ。


「バルモッカと言ったか……あんたは強いのか?」

「いやあ、全然? ただ、生き残るのが得意なもんでさ」

「……それで、なんで俺とパーティーを組んでくれたんだ?」

「俺には、お前が嘘ついてるように見えねえし……それに、そういうのにベットしてった方が面白いじゃんか」

「ギャンブル感覚かよ」

「いやいや、俺はギャンブルとか嫌いだぜ? 特に、命を賭けるなんてありえない」


 そう言ってバルモッカは、持っていたジョッキを煽る。


「俺の知り合いに、小さいけど船を持ってるやつがいるんだ。そいつに頼んで船を出してもらう」

「……バルモッカ。一つ、聞き忘れていたことがある。俺は、『巨大な怪物』がどんな奴なのかまだ知らない。依頼書にも何も書かれてないしな」

「ハハハ! お前、どんな相手か知らねえくせに、そんな自信あんのかよ! 大物だな! 良いぜ、教えてやるよ……」


 そう言うと、バルモッカはジョッキに残る酒を飲み干し、声を低くする。


「『巨大な怪物』……それは、古くから伝えられる蛇のような龍……『リヴァイアサン』」

 【登場人物】

 バルモッカ:特級冒険者。飲んだくれの中年のおっさん。


 【冒険者ランク】

 「下級→中級→上級→準特級→特級」の5段階。上級で街のエース張れるくらいの強さ。

 特級は数えるくらいしかいない。

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