14.魔術の授業(実践編)
「えっと、魔術は魔法を誰にでも使えるように体系化されたもの……それは間違いないんですが、それでも属性との相性みたいなのはあって……思うようにいかなくても、あまり落ち込まないでくださいね。」
「関係ない、俺は魔術を完璧にこなしてみせる」
「すごい自信ね……」
ノノリカの青空教室は続く。俺とヒトミは魔術を実践するため、立ち上がり互いに危なくない程度の距離を取る。
ノノリカがよくわかんない……けど、何故か読めてしまう文字を黒板に書く。
「えっと、これは簡単な光魔術……光球の魔術式です……。『光る、球体状に』という単純な命令なんですけど……まあ、そこは覚えなくていいです……使えればいいので……。」
ヒトミが手を挙げる。授業を受ける生徒のようだ。事実そうである。
「ノノリカ、質問なんだけど、そもそもどうやって魔術を使うの? 魔術式を使うのはわかるんだけど、その式に対して何をすれば魔術になるのか、想像がつかないの。」
そういえば、そうだ。俺たちはその感覚を知らない。
「えっと、魔術式に対して、動け〜って思うっていうか……意志力を流すんですけど、こればっかりは感覚なので……。だからこそ、そこに相性とか才能とかがあるんですけど……」
「う〜ん、よくわかんないままだけど、きっとそういうものなのね。ありがとうノノリカ。」
「いえいえ、お力になれず申し訳なく……」
ノノリカは深く頭を下げて詫びた。こっちが教わる立場だから、そんなことしなくてもいいのに。
「それより、早く魔術を使わないか?」
「あっはい、そうですね。えっと、みなさん、『魔術式、動け〜』って念じながら、光球と唱えてみてください、これ自体が魔術式の効果を持っているので……。」
ノノリカは両手を見せるように、空に向ける。
俺達はそれに倣う。きっと此処から魔術が炸裂するのだろう。
「ふふ、此処で異世界人としての才能が発揮されるってわけね……!」
ヒトミがなんか笑っている。
俺も興奮する、魔術が使えるのだから!
「ま、まず、私が使いますね……光球」
ノノリカがそう唱えると、手のひらから小さな光の玉が浮かんで、そしてすぐに消える。
「こんな感じです……」
それに続くヒトミ。
「じゃあ、私からいくわね……光球!」
ヒトミがそう唱えると……手のひらから同じように光の球が浮かんで消えた。ヒトミは胸元で小さく拳を握る。
「やった……! ……まあ、異世界ものによくある『なんて出力……!』みたいなのはできなかったけど……!」
「そ、そんなの出来る訳ないじゃないですか……。数理的に体系化された魔術は、出力は統一化されて、再現性があるべきなんですっ……!」
「えっあっ、ごめん……」
ヒトミはなんか地雷を踏んだらしい。
「……魔術を使うと、なんかダルくなった気がするわね……。」
「あの、意志の力を使ったので……。なんというか、やる気を消費したというか……」
「『やる気』はMP、それが代償ってわけね」
「えむぴーってのはよくわかんないですけど、多分そうですっ。でもでも、魔術によっては普通に肉体に反動があるものもあるので、気をつけてくださいね」
「例えば、どんなのがあるのよ?」
「炎魔術を使ったら凄い汗をかくことになりますし、氷魔術は末端が冷えます!」
「そ、そうね……気をつけるわ……」
ヒトミがノノリカに魔術についての説明を受けている。それを横目に、俺も魔術を唱える。
「……光球」
……何も起きない。
「あっえっと、落ち込まないでくださいっ! 光魔術が苦手な人はいっぱいいますから……! じゃあ、炎魔術の灯火とかは……!」
「灯火」
やはり何も起きない。
「水球とかは」
「水球」
「……ぷぷ、やっぱり、何も起きないじゃない」
「ヒトミ、笑い事じゃない」
――俺はその後、10を超える初級の魔術を試した。
が、何一つ発動されない。
「……ありえない」
「ふふ、ダイチ、いいじゃない。あんたには怪力の異能があるんだし。」
ニヤニヤしながらヒトミが俺を揶揄う。
「……そうだな、俺には怪力がある」
「え、う、うん……」
「そうだ、魔術なんて力のない軟弱者の術なのだ!」
「最悪の開き直り方しちゃった」
様子が気になったようで、ファスタとミトが伺いにくる。
「調子はどうですか? 魔術は使えるようになりましたか?」
「私は使えるようになったんだけど、ダイチが……」
ファスタの疑問にヒトミが答える。そうして俺の方を見る。
「フハハハハ! 俺は魔術なぞ使わない! 俺は魔術を使わない主義なのだ!」
「……魔術が使えないことがわかると、ああなっちゃって。」
ヒトミが俺を指し、呆れたように言う。
「……水魔術とか、便利なものもあるのだぞ。飲料水にも出来る。」
ミトが実用性を説く。しかし、そんなものは関係ない。
「バカいえ、これだから農薬に頭を毒された奴らは……。魔術生成物なんて、危険に決まっているだろう!」
「そ、そういう考えの人もいるが! 農用魔法薬を嫌がる人がいるから、オーガニックが流行ったりもしたが! しかし、根拠はないのだぞ!?」
「魔素が体に蓄積してガンになるに違いない!」
「こ、これだから男は! 魔素ってなんだ! 新しい言葉を作るな!」
ミトが顔を真っ赤にして俺の理論を否定する。
「……ああ、そういえば貴様は『テンカブツ』とか言っていたな。あの時は理解できなかったが、今ならわかる。あれは私達の国でいう『魔術付与食品』のようなものなんだろう!?」
「ま、魔術付与食品だと!? 洗脳魔術がかかっていたらどうする!?」
「そんなわけないだろう!」
俺とミトの議論は平行線、終わることはない――。
その均衡を破ったのは、ヒトミだった。
「……魔術以外の魔法だったら使えたりしない?」
口論はそこで途切れる。俺が口を閉じたからだ。
それに答えるのは、口論が始まってから口を閉ざしていたノノリカだ。
「……えっと、やってみないと、わかんないと思います。あの、私は使えないんですけど、ちょうどミトちゃんが、ま、魔剣術を使えるので……!」
急に話題を振られたミトは驚きつつも、丁寧に答える。
「わ、私か!? ……私の使う魔剣術は完全じゃない。出力を制御出来ないのだ。だから……」
で、でも、発動は、出来ますよね」
「まあ、発動自体はできるが……」
食い気味でノノリカがミトにくいかかる。
けど、ミトはあまり乗り気ではないようだ。
「魔剣術は、この国に伝わる伝統武術なのだ。武器に魔法を纏わせる術、それこそが魔剣術。だが、私はこの国の出身ではない……だからか、うまく扱えんのだ。暴走したら危険だろう。」
「えっと……大丈夫、です……私が止めるので……」
「なら……」
ミトは息を整えると、腰に差していた直剣を抜く。
ミトは目を閉じ、正眼に構える。
「魔剣術:風剣」
そう唱えると、辺りに光の粒子が現れ、それが剣に向かって収束する。
そして。眩いほど激しい光が収まったかと思うと、あたりに風が巻き起こる。
すかさずノノリカが説明する。
「こ、これは、魔剣術の中でも基本的なもので……、風を剣に纏わせる技で……」
風を使う技というのは、この光景を目にしただけで解る。
ミトは小さく息を吸うと、腰をためる。
「いくぞ」
そう言うと、ミトは剣を振りかぶり――
刹那、風が止まり、そして剣とともに爆ぜる。
ミトは誰もいない方角に向かって、縦に空を切った。
剣に纏う風が、地をひっくり返し、土や小石が舞い上がる。
その太刀筋は風の刃のように、土を巻き上げながら進んでいく。もちろん、誰にもあたることはない……が、そのすぐそばに俺はいた。
顔面に土……泥が当たる。砂埃のせいか、目に砂が入ったからか、あたりがよく見えない。
「ぶはっ」
口に中に泥が入った! ジャリジャリする!
なんで俺がこんな目に……!
「だ、大丈夫ですか、ダイチさん……!」
ノノリカが、そっと俺に近寄る。俺はそれをのけ、ミトに近寄ろうとする。
「ミト、お前……!!」
そう言って視線を向けると、ミトは大の字にのびていた。
「ああ……今日はもう何にもしたくない……だるすぎるのだ……」
意志力をすべて使った副作用である。
「ぷぷぷ、ダイチ、あんた早く顔洗った方がいいんじゃない? 私が水魔術使ってあげるわよ」
とからかうヒトミ。
「っ! やっぱり俺は魔術も魔法も使わん!!!!」
俺はそう宣言するのであった。




