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13.魔術の授業

 翌日、俺たちは屋敷の中庭で魔術の授業を受けていた。経緯は午前中にさかのぼる。

 ――――――


 朝食をとって、客間でファスタ達と談笑していた頃、屋敷に客人が来た。


「ふぁ、ファスタちゃん! えっと、帰ってきたって聞いて……」


 そこにいたのはくすんだ紺のローブを着た小柄な少女。風貌はまさに小さい魔女。栗毛色の髪を後ろで二つ結びにして、先の折れたとんがり帽を深くかぶっている。


 彼女は俺達の顔を見て、慌て赤面しながらファスタに聞く。


「え、えっと、その人たちは……」

「この方たちは今回の遠征で私たちを助けてくれた方ですの!」

「ダイチだ、よろしく」

「ヒトミです、初めまして。」


 俺たちは順に名乗る。


「あっえっと、初めまして……私はノノリカっていいます……ファスタちゃんとは、中等学校からの友達で……いつもは学校で研究してます……。そ、それより、助けてくれたって、何かあったんですか……?」

「それは、私から説明いたしますの!」


 そうしてファスタはざっくりと起きたことを説明した。


「盗賊団って……、それに、異世界人って……」


 到底信じられないといった様相で俺たちを見る。


「えっと、その、異世界人とか、あんまり言わない方がいいと思いますよ……」


 と、ノノリカは忠告をくれる。


「やっぱりそうよね……あんまり言いふらさない方がいいわよね」

「その年齢にもなって異世界人とか言ってるの、恥ずかしいといいますか……」

「そういう意味?」


 ――――――


 俺たちが異世界人ということをノノリカが信じてくれたかは定かではないが、「魔法」について俺たちが無知であることを知ると、授業をしてくれることになったのだ。

 昼過ぎの青空の下に持ち出した黒板の前に、俺とヒトミが座る。なんでも、魔法を理解するには座学と実践をセットで行わないといけないらしい。外に出たのもそういうことだろう。

 ファスタ達は授業を受けてはいないが、庭の中の東屋でお茶を楽しんでいる様子がここから見える。


「えっと、そもそも魔法って、『意志』の力によっておこる現象の総称なんです。で、私が使える『魔術』も、魔法の一種で……。」

「へえ、魔力とかを使ってるわけじゃないのね」

「あ、いえ、魔力って言葉はあるんです! 定義は”魔法に込めた意志力の総量”なんですが……。でも、みんな”魔力を使う”とか、”魔力が切れた!”みたいに、リソース量みたいな感じで使ってて……ほんとは間違ってるんですけど、便利なので……」


 ……元の世界でも、「ギガが減る」とか言ってた人もいるし、この世界もそういうのがあるのか。


「あの、話を戻しますね。私が教えることが出来るのは、『魔術』のなので、魔術についてしか教えることしかできませんが……」

「構わん、続けてくれ」

「では……。魔術は、魔法の中でも数理的に体系化された術なんです。その、魔術式っていう……それは『詠唱』だったり、『陣』だったり、頭の中で組み立てたり、いろいろあるんですけど……つまり、いろんな命令が書いてある『魔術式』を組んで、それを発動するんです」

「う~ん、むずかしいわね……」

「えっと、意志力をそのまま使って魔法を使うのは難しいんです。なので、魔法に台本を用意してあげる術が『魔術』であり、『魔術式』なんです……」


 なんとなくわかってきた。魔術ってのは、魔法を体系化することで、誰でも扱えるようにしたものなんだ。


「それで、えっと……魔術式は、命令を逐次的に実行する線形構造で……。あの、列車ってわかりますか?」

「ああ、もちろん」「もちろんよ」

「魔術式は線路を走る列車に似ているんです。一つ一つの命令()を順にたどって、終点に着くまで戻らずに進んでいきます……途中で分岐したりするかもしれませんが、逆方向には進みません。」

「あの、それでですね、これが一番大事なんですけど、魔術式は戻ることだけはできないんです! 逐次処理と分岐ができても反復だけは絶対にできません、それは、えっと、魔法式には記憶保存装置のようなものがなくて、なのでチューリング完全ではないんです、チューリング完全ってつまりどんな計算でもできる理論上の計算器と同等の計算機能を持つかをという話なんですけどそれにはどうしても反復構造が必要で――」


「あ、あの、すみません、わかんないですよね……」


 ……早口に圧倒されてしまった。ノノリカはやってしまったとしゅんとしながらもめげずに説明を続ける。


「……つまり、魔術は、『繰り返し』ができないんです。発動したら、命令と魔力が続く限り動くけれど、絶対に止まるようになっています。例えば『永遠に光り続けるランプ』だとか、そういう『永久魔術』は、絶対に無理なんです……」

「ねえノノリカ、私たちはこの街に来る前滞在した村で魔物除けの結界を見たんだけど、あれはどうなの?」

「結界魔術は、その、一度だけ発動すればよくて、あれは、もう止まっている魔術なんです。……例えば、弓で矢を放つとき、一度飛ばしたら手を離れても勝手に飛び続けるじゃないですか……あんな感じです……。有効期限もちゃんとあるはずです」


 なるほどな、魔術なら何でもできるってわけじゃないのか。


「魔術じゃない魔法なら、永久に動き続けるものがあったりするのか?」

「理論的にはありえません。けど、世界中の魔法……例えば『精霊術』や『聖法術』……『血統術』とかの秘術に至るまで検証することは難しいので……。それは、悪魔の証明です……。」

「ふうん、じゃあこれまでも『なかった』ってことか?」

「あの、はいっ、そうです。あったとしたら、それを魔術で再現する理論が作られてると思いますし……。魔術は、実用性を考慮しなければ、どんな魔法も再現できますから……」

 

 魔術について、どんどん学んでいく。知らない世界、知らない理論なのだが、以外にもすっと頭の中に入ってくるのはノノリカのおかげなのだろうか。それとも、「理解している」ということにして、早く実践をしたいからなのだろうか。


 「……えっと、お話ばっかりで、退屈ですよね……。そろそろ実践しましょうか……?」


 ノノリカがそう提案する。

 やっと魔術を実践するときが来た!

【人物】

 ノノリカ:紺のローブと魔女の帽子をかぶった小柄な少女。毛量の多い栗毛色の髪を後ろで2つに結んでいる。普段は研究をしている。

 

【今回わかった設定まとめ】

 魔法:『意志』の力によっておこる現象の総称

 魔力:魔法に込められた意志力の総量(なのだが普通にMPみたいな意味で使われてる)

 魔術:魔法の一種、魔術式を使って魔法を行使する術

 魔術式:1列に並べた命令を表したもの

 永久魔術:存在しない魔術

 ……だいたいテンプレ通りですよ! 安心してください!


 新キャラと設定回でした、次回実践編!

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