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【9話】破格の雇用条件


「今日はフェイの指示で君を迎えにきたんだ。あいつ、最初は自分が行くつもりだったんだ。でも、どうも忙しいらしくてさ。代わりに俺が指名されたんだよ。フェイじゃなくてごめんな」

「いえいえ! ……あの、リューン様はフェイムス様とずいぶん仲が良いのですね!」

「フェイは幼なじみなんだ。ガキの頃からよく一緒に遊んでたんだけどさ――」


 リューンはフェイムスとの思い出話を、楽しそうに語り出した。

 

 聞いているリーシャが飽きないようにか、リューンはなんとも面白おかしく話してくれた。

 

 話を聞いているリーシャは、ずっと笑顔。

 リューンのおかげで、王都への長い道のりもまったく退屈ではなかった。

 

******

 

 リーシャとリューンを乗せた馬車が、王都レポルトにある王宮へと到着した。

 馬車から降りた二人は、フェイムスの部屋へと向かう。

 

 

 部屋に入ってきた二人を見るなり、執務机で書類仕事をしていたフェイムスが立ち上がった。

 向かい合っている横長のソファーのところまで足を進める。

 

「よく来てくれたなリーシャ。かけてくれ」

「失礼します」


 促されるまま、リーシャはソファーへ腰を下ろした。

 フィエムスとリューンは、その対面に横並びになって座る。


「まずは改めてお礼を言わせてくれ。リーシャ。話を受けてくれて感謝する」

「俺からも言わせてもらうよ。ありがとう」


 フェイムスとリューンが同時に深く頭を下げる。

 さすが長年の付き合いというべきか、息はピッタリ合っていた。


「それでさっそくだが、君にやってもらう仕事の説明をしたい。いいだろうか?」

「お願いします」

「前に言った通り、君には緑ポーションの精製をしてもらう。作業部屋を用意してあるから、好きに使ってくれていい。それと、君の仕事の管理はリューンが担当する」

「よろしくね。要望とか気になったことがあれば、遠慮なく言ってくれていいから」

「はい! ありがとうございます!」


(リューンさんが私の仕事の管理者……良かったわ)


 リューンは気さくで明るく、とても話しやすい人だ。

 ベムープからここまでの道中で、彼の人となりを知ることができた。

 

 困ったことがあれば、きっとリューンは快く相談に乗ってくれるはず。

 上がそういう人だと仕事がやりやすい。

 

(ローデス王国のときの管理者は最悪だったもの……)

 

 無茶な仕事量を押し付けるだけ押し付けてきて、達成できなければ罵倒の嵐。

 仕事量に対して意見を言おうとしても、言い訳するな! 、と突っぱねてくるだけ。まったく話を聞いてくれなかった。

 

「次はノルマの話だ。……」

 

 ここでフェイムスは、意味深に一呼吸おいた。

 言い出しづらそうな顔をしている。


(もしかして、とんでもない量のノルマなのかしら……)

 

 フェイムスが口を開くのを緊張しながら待つ、と。

 

「一週間で千――それがノルマだ」

「――!?」

 

 リーシャは大いに驚く。

 フェイムスの口にした”千”という数があまりにも…………あまりにも少なかったから。

 

「驚かせてしまってすまない。……そうだよな。いくら驚異的な精製スピードを持っている君でも、いくらなんでも千は多すぎるよな。すまなかった。……よし、数を減らそう。七百でどうだろうか?」

「いや……そうではありません」

「うん?」

「多くて驚いたのではなくてですね……あの、そんなに少なくていいのでしょうか? 千ならば、一日で作れてしまいますけど……」


 ローデス王国にいた時のノルマは、一日で千個だった。

 しかもそれが最低ラインだ。多いときは、一日に五千個作ったこともある。

 

 一週間で千個というノルマは、リーシャにしてみればありえないくらいに少ない数字だった。

 

 しかしフェイムスとリューンは顔を突き合わせて、そっくりな顔で驚いていた。

 それはありえない、と顔に書いてある。

 

 三人は三人とも『ありえない』という文字を顔に浮かべた。

 そうして固まったまま、誰も喋らない無言の時間が少しだけ流れたあと。

 

「ノルマの件はいったん置いておこう。それよりまだ、説明が残ってるだろ?」


 沈黙を破ったリューンが、フェイムスに先を促した。


 フェイムスは動揺しながらも、そうだな、と口にした。

 

「待遇の説明をさせてくれ。これから君には王宮で暮らしてもらうことになる。もちろん、部屋や食事はこちらで用意する。自分の家だと思って、のびのびと生活してくれ」

「ありがとうございます」

「……それと、これが一番大事なことだが」

 

 懐から紙を取り出したフェイムスは、それをリーシャに見せてきた。

 そこには数字が書いてある。

 

「記載されている数字は、君に支払う一か月分あたりの給料だ。やってもらう仕事を考えれば少ないのだが――」

「こんなに貰ってもよろしいのですか!?」


 提示された給料は、ローデス王国で貰っていた給料の実に一年分に相当するものだった。

 少ないなんてとんでもない。多すぎる。ありえないくらいに多い。

 

「数字の桁が間違っているのでは!」

「いや、ここに書かれている数字は正しい」

 

 興奮で身を乗り出すリーシャに、フェイムスは冷静に対応した。

 どうやら本当に、こんなにいっぱいのお金を貰えるみたいだ。

 

「説明は以上だ。なにか気になったことや不満な点はあっただろうか? なければこれで解散とするが」

「ありません! 精いっぱい頑張らせてもらいます!!」


 バスティン王国が用意してくれたのは破格の好待遇。

 ローデス王国とは大違いな扱いに、不満なんてあるはずがなかった。

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