表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/35

【7話】イリアスの真の目的※イリアス視点


「レイマン様ぁ」


 ローデス王国の王宮にあるレイマンの部屋に、イリアスの甘ったるい声が響いた。


「この前街へ出かけたときに、とっても美しいルビーの指輪を見つけたのです。あの指輪があれば私はもっとかわいくなれると思うんですよね」


 とろんした紫色の瞳でレイマンをチラリ。

 欲しいなぁ……、と指輪をねだる。


「それならすぐにメイドに買いに行かせよう!」

 

 イリアスの狙いは大成功。

 レイマンはすぐに弾んだ声で快諾してくれた。

 

「ありがとうございます! なんて懐が大きいのかしら!」


 レイマンの婚約者になって三か月ほど。

 イリアスは贅沢ざんまいな生活を送っていた。

 

 宝石、服、アクセサリー……調子よくおだてて機嫌を取るだけで、レイマンはなんでも買ってくれる。

 

 そんな今の生活は、楽しい、の一言。

 レイマンの婚約者になれば好き放題できるとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。予想以上の毎日に、イリアスは大きな幸せを感じていた。


 ドンドンドン!

 大きなノック音が聞こえてきた。


「失礼いたします! レイマン様に、急ぎ報告したいことがございます!」


 慌てた部屋に入ってきたのは、王国騎士団の団長。

 呼吸は乱れ、額には大粒の汗をかいている。

 

「せっかくイリアスとの大切な時間を過ごしていたのに……邪魔しやがって」


 大きく舌打ちしたレイマンが、団長を睨みつけた。


「で、報告ってなんだよ? つまらない用件だったらタダじゃおかないからな」

「北の国境沿いの町に魔物が出現しました! 本国に魔物が出現するのは実に数十年ぶりのことです!」

「魔物が現れただって? なにバカなことを言っているんだ、それはありえないよ。この国はイリアによって守られている。彼女の神子の力によってね。だから魔物は入ってこれないのさ。こんなことも知らないとか、よくそれで騎士団長が務まるよね。まったくあきれるよ」


 団長を鼻で笑ったレイマンは、イリアスを見た。

 口元には嘲笑が浮かんでいる。

 

「イリア。君からも何か言ってあげるといい」

「レイマン様のおっしゃる通りですわ。見間違いかなにかではないでしょうか?」

「しかしですね、現地で対応に当たった兵士の報告によれば――」

「おい! 僕とイリアの言葉を疑うってのか!」

「い、いえ! 決してそのようなことは……」

「第一王子と神子を愚弄した罪は重いぞ! 覚悟するんだな!」


(こいつ、笑えるくらい本当にバカね)


 イリアスは手で覆った口元に嘲笑を浮かべた。

 それは団長に向けてではない。怒声を張り上げている第一王子に対してだ。

 

 まず、イリアスは神子ではない。

 金で買収した神官たちに、嘘の申告をさせた。

 

 聖女や神子の認定は、国の祭事を取り仕切る神官たちの役目だ。

 彼らに力を認められることで初めて、聖女や神子となれる。

 

 イリアスはそれを金で買った。

 すべてはレイマンの婚約者になるために。


 イリアスの目的は王妃になることだ。

 権力を振りかざし、好き勝手に楽しく人生を過ごしていきたいという願望がある。

 

 王妃になるためには次期国王である第一王子の妻になるのが、もっとも手っ取り早い。

 だからこそイリアスは色目を使って、レイマンに近づいた。

 

 しかしレイマンには既に、リーシャという婚約者がいた。

 

 彼女がいる以上、レイマンの妻にはなれない。

 目的を達成するためには、なんとしても排除しなければならなかった。

 

 リーシャをこの国から追い出して欲しい、とレイマンには何度も伝えてきた。

 

 でも返ってくるのはいつも同じ。

 神子が国からいなくなるのはまずい、という答えだけ。

 

 そのときイリアスは閃いた。

 だったら私が神子になればいい、と。

 

 そうしてイリアスは金の力で偽りの神子となった。

 その嘘をまんまと信じたレイマンは、リーシャを国から追い出した。

 

 すべてはイリアスの計画通りになった。

 

 

 レイマンは多少顔が良いだけの、頭すっからかんのバカだ。

 男としての魅力はこれっぽっちも感じない。

 

 それでもイリアスは自らの目的のために、レイマンを愛しているというフリを続けている。

 今までも――そしてこれからもずっとだ。この先もずっと騙し続ける。

 

「どうしたんだいイリア? 何か楽しそうだね」


 おっといけない。

 いつの間にか口元を覆っていた手が外れていたようだ。


「レイマン様が私のことを想って、本気で怒ってくださったこと。それがたまらなく嬉しかったのです」


(私は王妃になりたいの。頼むからずっとそのままの――バカのままのあなたでいてね)


 それっぽいことを言いつつ、心の中でほくそ笑んだ。


 レイマンは笑顔になる。

 そうして胸を張り、

 

「当然だよ。僕は君を愛しているんだから」

 

 なんて得意気に言ってみせた。

 

「わ、私もです……ッ」

 

 震え声で答える。

 笑いそうになるのを我慢するのが大変だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ