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【6話】国王のオファー


 日が沈みかけた閉店間際。

 失礼するぞ、という声のあとに入り口の扉が開いた。

 

 リーシャとロッジ、二人だけの店内に入って来たのは、艶めく黒髪をしたとんでもない美丈夫だった。

 

(あ、この人って!)


 反則的なまでに麗しいその外見に、リーシャは見覚えがあった。

 先日ここへ、緑ポーションを買いに来てくれた人だ。

 

(あら? ヒゲがなくなってるわね。剃ったのかしら)


 唯一のマイナスポイントだった口周りに生えていたヒゲが、綺麗になくなっている。

 思っていた通り、ない方が断然素敵だった。

 

「これはこれはフェイムス様! よくもまぁこんなところまでお越しに!」

「――!?」


 リーシャの隣にいるロッジが衝撃の事実を口にした。

 

 あのときの客がまさか国王だったとは。

 リーシャは驚愕せずにはいられなかった。

 

「久しいなロッジ。商売の調子はどうだ?」

「それはもう! リーシャちゃんが入ってくれたおかげで絶好調ですじゃ!」

「それは良かった」


 微笑んだフェイムスは、今度はリーシャの方を向いた。

 

「俺はフェイムス。バスティン王国の国王だ。君とは初めてだな」

「……え? あの、この前お会いしましたよね?」

「同一人物と見抜かれているだと!?」


 フェイムスがギョッと目を見開いた。

 そして、考え込むような表情になる。


「変装は完璧だったはずだが……そうか。やはり君はただ者ではないようだ。俺の目に狂いはなかった」


 ぶつぶつぶつ……。

 小さく呟きながら一人の世界へと入ってしまった。


「あの……」


 リーシャが声をかけると、フェイムスは我に返ったようにハッとした。

 

「あ……いや、今のは気にしないでくれ」

「それでフェイムス様。今日はいったいどのようなご用件ですじゃ?」

「あぁ」


 フェイムスは表情を一転。

 緊張感ただよう真剣な顔つきで、リーシャとロッジを交互に見やる。


「二人に話がある。馬車まで来てくれないだろうか?」


 フェイムスの雰囲気からはただならぬものを感じる。

 リーシャとロッジは重々しく頷いた。



 道の端に停まっている王族専用の大きな馬車。

 中に入った三人は、ふかふかのソファーへ腰を下ろした。


 そうしてすぐ、リーシャの対面に座るフェイムスが口を開いた。


「単刀直入に言おう。俺がここに来た目的はリーシャ、君をスカウトするためだ。王宮に来て欲しい。俺の下で、国のために働いてくれないだろうか?」


 いきなりそんなことを言われても、なんて言えばいいのやら。

 戸惑っていると、フェイムスはさらに続きを口にしていく。


「疫病、魔物による被害……バスティン王国では今これらの問題が起こっていて、そして、多くの人間が傷ついている」


(……そうだったのね)


 ベムープでの暮らしは穏やかで、毎日が平和そのもの。

 だからバスティン王国という国は、その全てが平和に包まれているのかと思っていた。

 

 でもそれは、思い込みだったらしい。

 現実には多くの問題を抱えているみたいだ。


「彼らに必要なのはポーションだ。しかし流通している青ポーションでは治癒効果が薄い。命を落としてしまうケースも多々ある。……だが緑ポーションならば、その者たちの命を救うことができるかもしれないんだ」

「私の作るポーションには、それだけの力があるということですか?」

「そうだ。勝手ながら調べさせてもらったよ。すると、緑ポーションは青ポーションよりも遥かに優れた治癒力を持っていることが判明した。しかしバスティン王国でこれを作れるのはたったひとり。君だけしかいない。それでスカウトに来たという訳だ。……いきなり押しかけてきてすまない。図々しいお願いをしていることは分かっている。だが、頼む!」

 

 フェイムスは膝の上に乗せた拳を強く握ると、リーシャの瞳をじっと見つめた。

 

「バスティン王国を救うには君の力が必要なんだ! どうか力を貸してほしい!」


 必死な表情をしたフェイムスに、深々と頭を下げられる。

 

「頭をあげて下さい」

 

 リーシャはただ優しく、その言葉を対面へかけた。

 

 頭を下げているフェイムスからは、民を大切に想う気持ちが痛いくらいに伝わってくる。

 こんなにも必死に頼み込まれたのは、これが初めてだ。


(もし、私の力が役に立つのなら……!)


 強く頼られたリーシャは、フェイムスの気持ちに応えてあげたいと思った。

 

 それにバスティン王国には、恩返しをしたいとも思っている。

 この国に来られたからこそ、リーシャは以前とはまったく違う楽しい毎日を送れている。

 緑ポーションを作ることが国のためになるのなら、ぜひとも力になりたい。


 気持ちは固まった。

 あとは口にするだけだ。

 

 けれどもリーシャは、まだそれを出せないでいた。

 隣に座るロッジに顔を向ける。


 王宮で働くということは、ロッジの店を辞めなければならないということだ。


 ロッジが雇ってくれたおかげで今の暮らしがある。

 リーシャにとっては恩人だ。店を辞めるのは、申し訳ない気持ちがある。


「気遣ってくれるのかい? 本当にいい子じゃのう」


 目を細めたロッジがにっこりと笑った。


「じゃが、ワシのことは気にしなくていい。リーシャちゃんが決めるとええ。自分がやりたいことをやりなさい。……大丈夫じゃよ。どういう道を選んだとしても、ワシはずっとリーシャちゃんの味方じゃからの」

「ありがとうございます……!」


 力強い言葉で背中を押してくれたロッジに頭を下げる。

 おかげでもう、気にすることはなくなった。


 頭を上げたリーシャは、対面へ顔を戻す。


「私の力でバスティン王国のみなさんを救えるのなら、ぜひやらせてください!」

「そう言ってくれるか! ありがとう!」


 フェイムスは大きな笑みを浮かべると、もう一度深く頭を下げた。

読んでいただきありがとうございます!


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