【5話】必要な人材※フェイムス視点
バスティン王国の王都――レポルト。
その地に建っている王宮の一室にて、バスティン王国の国王フェイムスは、近衛騎士のリューンと話をしていた。
赤色の長髪を後ろで一つにまとめているリューンは、オレンジ色の瞳を光らせている。
体の線は細いが、腕や足にはしっかりと筋肉がついている。
リューンはフェイムスと同じ二十三歳で、幼い頃から付き合いのある親友だ。
色々な相談に乗ってくれ、フェイムスのことを補佐してくれている。
「そうだ、フェイムス。ロッジのじいさんのところにいるっていう、噂の治癒術師はどうだったんだ? この前会ってきたんだろ?」
治癒効果の高い緑ポーションを精製した治癒術師の噂は、ベムープから離れたレポルトの地にまで響いていた。
噂が気になったフェイムスはどんな人物なのか直接この目で見たくなり、先日、顔なじみであるロッジの店へ会いに行った……変装をして。
あのとき口の周りを覆っていたヒゲは、今はさっぱりなくなっている。
ヒゲは本物ではなく、付けヒゲだった。
わざわざそんなものをつけたのは、素性を隠したかったからだ。
国王が自分に会いに来た、となれば変に混乱させてしまうかもしれない――そう考えたフェイムスは、変装してリーシャの元を訪れた。
「彼女――リーシャの腕は本物だった。高名な治癒術師に緑ポーションを調べさせたのだが、青ポーションと比べて比較にならないほどの高い効果を持っていることが判明した。『素晴らしい! まさに神の所業です!』と大興奮で俺に結果を語ってきたよ」
「そこまで言わせるなんてすごいな」
「なんでも緑ポーションを作るには、規格外の治癒魔法をこめる必要があるそうでな。王国内の治癒術師でそれを作れる人間はいないだろう、とのことだ」
「作れるのは噂の治癒術師、ただ一人だけってことか。リーシャちゃんっていうんだっけ? 大したもんだな、彼女。……で、他に分かったことはないのか?」
「それに、とても美しかったな」
「…………は?」
リューンがポカンと口を開ける。
(しまった!)
「あ、いやっ! 心が、という意味だ!」
フェイムスは慌てて訂正。
勘違いするなよ! 、と語気を強めて付け加えておいた。
「なんだ、そういうことかよ。女に興味のないお前がいきなりそんなこと言い出すとは思わなかったからな。ビビったぜ」
(あまりに外見が美しかったものだから、つい本音が漏れてしまったが……どうやらごまかせたみたいだな)
絹のように美しい金色の髪に、神秘的な輝きを放っていたエメラルドグリーンの瞳。
リーシャの容姿はそれはもうとびきり美しくて、ひとめ見たとたん雷に打たれたような大きな衝撃を受けた。あんな経験は初めてだった。
しかしフェイムスが、それを口にすることはなかった。
リューンはいいヤツなのだが、なにかにつけてフェイムスのことをからかってくる。
しかもこういう話題のときは、いつより面倒くさく絡んでくる。
本当のことを言えば面倒くさい展開になるのが目に見えているので、それは胸にしまっておいた。
「どんな偉そうなヤツかと思ってたけど、そっか。心の綺麗な子なんだな」
リーシャは外見だけでなく、内面も美しい女性だ。
目的の緑ポーションがなくてガックリきていたフェイムスのために、リーシャはわざわざそれを作ってくれた。嫌な顔一つぜずにだ。
その時点でフェイムスは、内面が美しい人物だと感じていた。
そしてさらにもう一つ。
別の国から来た人間から見て自分の治めている国はどう映っているのだろう――そんなことを思ったフェイムスは、バスティン王国の印象を聞いてみた。
それに対してリーシャは、とても温かい国、と答えてくれた。
その言葉はまっすぐで、ありったけの心がこもっていた。
あれはまぎれもない本心で、それを口にする彼女の姿はなんとも純粋で綺麗だった。心が汚れている人間に、あのような綺麗さは絶対に出せない。
自分で言うのもなんだが、人を見る目には自信がある。
リーシャが素晴らしい女性ということは、フェイムスの中ではもう決定的だった。
「ぜひともウチに欲しい人材だな」
「あぁ。この国にはリーシャの力が必要だ」
地方の村で発生中の謎の疫病。
外部の魔物の襲撃による被害。
これらの問題を抱えているバスティン王国には、ポーションを欲している人間が大勢いる。
しかし流通している青色のポーションでは効き目が薄く、患者の程度によっては命を落としてしまうケースも珍しくない。
しかしリーシャの作る緑ポーションならば、諦めていた命を救うことができるかもしれない。
彼女はきっとバスティン王国を救う鍵になる――フェイムスはそう考えていた。