【35話】ありがとう
リーシャがバスティン王国に来てから一年。
フェイムスからのプロポーズに応えて、リーシャは結婚。
バスティン王国の王妃となった。
「おめでとう!」
「二人ともお幸せにな!」
二人の結婚式には多くの者が詰めかけてくれて、盛大に祝ってくれた。
リューンに、ミラ。
ベムープの薬屋ロッジや、ラントルの村長バドもだ。
そして来てくれたのは、人間だけではない。
シルバーファングのテイル、クリムゾンドラゴンのドランも来てくれた。
人間と魔物。
関係を持った多くの者たちから、リーシャは盛大に祝福された。
「みんなありがとう!」
リーシャが声を上げると、たくさんの惜しみない拍手が返ってきた。
バスティン王国が優しい温かい場所だということを、改めて実感する。最高の居場所だ。
リーシャの神子の力によって、バスティン王国は急成長を遂げている。
今では、大国と肩を並べるほどの力を持つようにまでなった。疫病被害や魔物による襲撃で弱っていたかつての姿は、もうどこにもない。
リーシャはポーション作りを続けつつ、王妃として外交の仕事なんかもこなしている。
国王であり最愛の夫を支えられるよう、これからも頑張っていきたい。
そんなリーシャの母国であるローデス王国はというと、つい先日滅びた。
国が混乱しているところに他国からの侵攻を受けて、あっという間に占領されてしまったらしい。
王宮は倒壊し、王族は処刑されたと風の噂で聞いている。
その中には第一王子のレイマンも含まれていたらしいが、正直どうでもいい。
大嫌いな人間が生きていようが死んでいようが、リーシャは興味がなかった。
しかし、そんな大嫌いな彼にも感謝していることがたった一つだけある。
あの日、イリアスの幼稚な嘘を真に受けた彼はリーシャを国外追放した。
そのおかげで、世界一大好きな人と出会うことができた。
これだけは感謝しなければならない。
「ふふふ」
「どうした? なにか嬉しそうだな?」
楽し気に笑うリーシャに、食卓テーブルの向かいに座るフェイムスが不思議そうに声をあげた。
今は朝の八時。
リーシャとフェイムスは夫婦仲良くそろって、おいしい朝ごはんを食べていた。
食事がおいしいのはシェフの腕が優れているというのもあるが、それだけではない。
大好きな夫と一緒に食事をしているということが、その幸せが、食事をおいしくしてくれている。
「フェイムス様に出会えてよかったと、そう思っていたのです」
「そ、そうか」
フェイムスの顔がほんのりと赤くなった。
本人に言ったことはないけど、こういうこところはものすごくかわいいと思う。
「だがそれは俺も同じだ。君という素敵な女性に出会えたことが、俺にとっての一番の幸せだからな」
「一番とは、それは気が早いですよ」
リーシャは楽しそうにクスっと笑う。
「私たちはこれから、もっと幸せになっていくんですから」
「そうだったな」
互いに見つめ合う二人。
微笑んで、ありがとう、と口にした。
それは互いに向けての感謝でもあり、世界への感謝でもあった。
素敵な出会いをもたらしくれたこの世界に、二人は心をこめてお礼を言った。
これにて完結です!
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それではまた、次回作でお会いしましょう!




