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【33話】なによりも大切な人


「ローデス王国には戻らない、それが彼女の答えだ。これ以上はなにも言うことはない。とっととここから出ていけ」

「そうはいかない! リーシャに戻ってきてもらわないと困るんだよ! ……なぁ、国王様。ここは隣国同士さ、助け合おうじゃないか? ね?」

「助け合おう……だと? よくもそんな口が叩けたものだな!」


 フェイムスの目つきの鋭さが増した。

 拳を強く握りしめる。


「呪術師を用いて心優しき魔物を操り暴走させたこと、俺は決して許しはしないぞ!」

「あ、あれは違うんだ! 僕じゃなくてイリアスが……。その、ともかくだ! ローデス王国とベルムは何の関係もない!」

「……ベルムだと? おい、俺は呪術師の名前を一度も出していないぞ。それなのに貴様はなぜ、呪術師の名前を知っている? ……まさか、貴様が首謀者じゃあるまいな?」

「……」


 口ごもったレイマンは、しまった、という顔になった。

 これではもう、答えを言っているようなものだった。


「貴様は救いようのないクズだ! なおさらリーシャを返す訳にいかなくなった。彼女は俺にとって何よりも大切な人だ。俺の隣にずっといてもらう!」

「おい、お前! 今、なんて言った! 僕をクズって言ったのか!? ローデス王国第一王子であるこの僕のことを!」


 勢いよく立ち上がったレイマンが、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

 このままフェイムスに殴りかかっていきそうな勢いだ。


「許さない……! 絶対に許さないぞ!!」

「貴様が誰だろうと知ったことではない。俺は世界で一番大切な人を――リーシャをなんとしても守り抜く。ただそれだけだ。邪魔するというのなら容赦はしない……!」


 フェイムスの雰囲気が変わった。

 すさまじく強い殺気が波となって、肌にビリビリ伝わってきた。


「向かってくるというのなら来るといい。完膚なきまでに貴様を叩きのめしてやる!」

「ひいいいいいッ!!」


 とんでもない殺気を真正面から受けたレイマンは、ガタガタと体を震わせた。

 

「嫌だ! 死にたくないよおおおおお!」

 

 さっきまでの威勢はどこへやら。

 真っ青な顔から涙を流し、逃げるようにして部屋から飛び出していった。



 二人きりになった部屋で、リーシャはフェイムスの顔を見上げる。


「ありがとうございますフェイムス様。先ほどの言葉、とっても嬉しかったです」


 何よりも大切な人――そう言ってもらえたことが嬉しかった。

 フェイムスの大切になれたという事実。そのことが、リーシャの胸の中をこれまでにないくらいに温かくさせていた。

 

 気持ちが胸にいっぱいに溢れて、もう止められない。止めようがない。

 溢れんばかりの気持ちを、リーシャはそのまま口にする。

 

「私も同じ気持ちです」

「それはどういう……あっ」


 リーシャが何を言おうとしているのか、フェイムスは気づいたようだ。

 みるみるうちに顔が赤くなっていく。

 

「私もフェイムス様のことが何よりも大切です。このままずっと――死ぬまであなたの隣にいたい」


 見つめ合うリーシャとフェイムス。

 二人はどちらともなく顔を近づけると、そのままそっと唇を重ねた。

読んでいただきありがとうございます!


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