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【32話】最悪の再開


 絶好調になったリーシャが通路を歩いているところに、宮女がやって来た。


「お客様がお見えになっています」

「客? 誰ですか?」

「ローデス王国第一王子、レイマン殿下です」


(……最悪だわ)


 聞きたくもない名前が出てきた。

 せっかく舞い上がっていた気持ちが、再び落ち込んでしまう。


「フェイムス様とリーシャ様に面会を求めています。ゲストルームへご案内しましたので、向かってください」

「……分かりました。ありがとうございます」


 暗い顔で返事をして、リーシャはゲストルームへ向かった。

 

 

 ゲストルームへ入る。

 

 部屋の中にはフェイムスとレイマンが既にいた。

 向かい合う横長のソファーに、対面になって座っている。

 

「やあ。久しぶりだねリーシャ。元気にしてたかい? 僕に会えなくて寂しかったよね」


 立ち上がったレイマンは、両手を広げてリーシャを迎えた。

 口元にはわざとらしい爽やかスマイルを浮かべている。

 

 リーシャはそれを完全無視。

 いっさい目もくれずに、フェイムスの隣へ腰を下ろした。


「……無視は傷つくな。でもこれで、役者は揃ったね。さっそく話を始めよう」


 ソファーに座り直したレイマンは、リーシャを見つめた。

 

「単刀直入に言おう。リーシャ。ローデス王国へ戻ってくるんだ」


(やっぱりね。そんなことだろうと思っていたわ)


 神子の力を失ったローデス王国は、大きな困難に直面しているはず。

 それを解決するには神子であるリーシャに、国に戻ってきてもらうしかない。

 

 レイマンがここへ来たと聞いたときからなんとなく予想はついていたが、その通りだった。


「ローデス王国は今、大きな危機を迎えているんだ。このままだと国は滅びてしまう。神子である君の力がどうしても必要なんだよ、リーシャ!」

「あれ? 私は確か、ローデス王国に戻ると重罰を受けてしまうのですよね? それを言ったのはどなたでしたっけ?」


 嫌味で言ってみるも、


「それは取り消すよ。君への処分はたった今無効になった」


 レイマンは綺麗さっぱり気にしていなかった。

 二度と国に立ち入るなと言ったり戻って来いと言ったり、なんという二枚舌だろうか。


「国が大変なことになる、とあのとき私は言いましたよね。でもあなたはそれを無視して私を国外追放した。それなのに今になって戻ってこいとは……ずいぶんと虫がいい話ですね」

「聞いてくれ! あのときはイリアスがいるから大丈夫だと思ったんだ。でも、彼女は神子じゃなかった。神官たちを買収して、僕を騙していたんだよ! ひどい話だろ!」


(やっぱりね。そんなことだろうと思ったわ)


 別に驚きはしない。

 

 それよりも、被害者面をしているレイマンに腹が立つ。

 騙されただけだから僕は悪くない、とでも言いたげな顔をしている。

 

(イリアスの幼稚な嘘を信じて私を国外追放したあなたにも責任はありますよね? それなのに悪いのは全部イリアスに押し付けるんですか?)

 

 本当、どこまでクズなんだろうか。

 腹が立ってしょうがない。

 

「僕は今回の件で実感したよ――信じられるのは君しかいない、ってね。リーシャ。もう一度やり直そう」


 レイマンが手を差し出してきたが、リーシャはそれを取らない。


「私が頷くと思っているのですか?」


 リーシャにとって、ローデス王国は嫌な思い出しかない場所だ。

 どうなろうと知ったことではないし、もう一度レイマンの婚約者になるなんて絶対に嫌だった。


 それになによりリーシャは、これからもこの国にいたい。

 優しさと幸せに溢れているこの場所でずっと暮らしていきたかった。


「う、嘘だ……断るっていうのかよ。おかしいだろ……。第一王子であるこの僕が誘っているんだぞ。それなのにどうして……」


 動揺しているレイマンに、リーシャは強く「はい」と返事。

 念押ししてやる。


「本当にいいのかい? 欲しいものなら何でも買ってあげるよ? そうだ!」

 

 身を乗り出したレイマンは、リーシャの首に下がっているイエローダイアモンドのペンダントに手で触れた。


「こんな安物のペンダントより、ずっといいものを買ってあげよう! どうだい? これで僕の言うことを聞く気に――」

「汚い手で私の宝物に触らないでください!!」


 バチィン!!


 レイマンの手をおもいっきり払う。

 

 物に釣られる女と思われたことも心外だが、それよりもこの男はよりにもよって、リーシャにとって一番の宝物を『こんなもの』と愚弄した。

 

 許せない。もう一秒だって、同じ空気を吸いたくない。

 

「話はこれで終わりです。お引き取りください」

「なにするんだ! このっ……僕が下手(したて)に出ているからっていい気になって……!」


 怒り出しそうになるレイマンだったが、それをグッとこらえた。

 眉間に寄せていたしわを元に戻して、イスに座り直す。


「まぁそう言わずにさ……」

「おい、貴様。いい加減にしろ。しつこいぞ」


 フェイムスがレイマンを睨んだ。

 目つきは鋭く、敵対心を丸出しにしている。

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