【31話】リーシャへの気持ち※フェイムス視点
「今にして思えば、初めて会ったときから君に惚れていたような気がする。その気持ちは君との時間を共有するごとに大きくなっていって、もう、抑えられそうにない。……ハッキリ言おう。俺の妻になってくれないだろうか」
「お断りします」
全身全霊を込めたフェイムスの一世一代の愛の告白は、容赦なくバッサリ切り捨てられてしまった――幼なじみであるリューンに。
「というか、俺に言ってどうすんだよ。相手が違うだろ?」
リューンの呆れた声がフェイムスの私室に響いた。
その通り、これはリューンに向けたものではなかった。
「練習だ。次はちゃんと言えるようになるためのな」
「は? なんだそれ?」
「実は先ほど、リーシャに婚約を受けなかった理由を尋ねられた。そのとき俺は今の言葉を言おうとしたのだが……恥ずかしくて言えなかったんだ」
決まっている! 、とまでは言えたものの、そのあとの言葉が言えなかった。
それでつい、嘘をついてしまった。
本当は急ぎの仕事なんてものはない。
しかしテンパっていたフェイムスは、嘘をついてリーシャを追い出してしまった。
「てかお前さ、どうしてリーシャちゃんに婚約のこと話してなかったんだよ?」
「……意識しているみたいに思われるのが恥ずかしくて、それで言えなかった」
「普段は強気なのによ……リーシャちゃんに関してだけは弱気だよな、お前」
悔しいが言い返せない。
リューンの言う通りだった。
リーシャのこととなると、どうにも緊張してしまう。
「それで俺の告白の言葉だが、おかしな点はなかっただろうか?」
「ちっとばかし硬すぎる気もするが、まぁいいんじゃないか」
リューンは半笑いで、へらへらと答えた。
これにはフェイムスも少しカチンとくる。
この告白にはフェイムスの今後を左右する大事なもの。人生がかかっていると言っていい。
だからこそ恥を忍んで相談しているというのに、その態度はあんまりではないだろうか。
「俺は真剣なんだ! もう少し真剣になってくれてもいいではないか!」
「大丈夫だよ。お前が何を言おうと、絶対にうまくいく」
口元に浮かんだリューンの笑みは消えていない。
でも態度はさっきと違って、真剣になっていた。
リューンは真剣に、確信を持ってそう言っている。
でもフェイムスには、どうして確信を持っているのかが分からなかった。
「なぜだ?」
「なぜ、って……まさかお前、気づいていないのか?」
心当たりがまるでない。
首を傾げると、リューンは呆れたようにため息を吐いた。
「リーシャちゃんもお前のことが好きだからだよ」
衝撃だった。
あまりに衝撃すぎて、フェイムスは言葉を失ってしまう。
「まったく……こんなことを俺に言わせんな」
「ほ、本当なんだな! リーシャも俺のことが好きなんだな!」
「考えてもみろよ。どうしてリーシャちゃんはフェイの婚約話をあんなに気にしていた?」
「…………分からない」
「そんなの決まってんだろ。お前のことが好きだからだよ。好きな相手が他の女と婚約するって聞いて、気が気じゃなかったのさ」
リューンに言われたことで、腹の奥底からぐわーっと湧き上がってくるものがあった。
それはリーシャが好いてくれているという、強い実感だ。
フェイムスの顔が喜びに満ちていく。
「感謝するぞリューン!」
「まったく……世話が焼けるヤツだよ、お前は」
「それではさっそくリーシャに――」
溢れんばかりの熱い気持ちを伝えに行こうとした――その直前。
部屋にやってきた宮女が、「お客様がお見えになっています」と口にした。




