【27話】暴かれた真実※イリアス視点
王宮にあるレイマンの私室。
「素敵な指輪だわ。私にぴったり」
レイマンに呼び出されたイリアスはうっとりとした表情で、指につけた大きなダイヤモンドの指輪を眺めている。
これは先日、レイマンにねだって買ってもらったものだ。
「さて、次は何を買ってもらおうかしら?」
あのバカったら何でも買ってくれるんだもの、と最後につけて笑っていると、
「失礼するよ」
ノックもなしにレイマンが部屋に入ってきた。
(ノックくらいしなさいよ。ムカつくわね。……って、あれ? どうして兵士が一緒にいるの?)
レイマンの後ろには数名の兵士が控えている。
兵士を連れてくるなんて初めてのことだ。
イリアスの表情が怪訝なものへと移り替わる。
「あの……いったいこれは?」
「イリア。君はずっと僕を騙していた……そうだね?」
残念そうに呟いたレイマンはグッと拳を握った。
怒りと悲しみが入り混じっている、そんな雰囲気をしている。
(まさか神子じゃないことがバレたの!?)
「な、なにを言っているのですか?」
いきなり正解を出されたことには驚いたが、それは一瞬。すぐに冷静になる。
実のところ、イリアスはそこまで焦っていなかった。
(だってこいつはバカだもの)
いつまで経っても神子の力が働かないことを不審に思って問い詰めに来た――レイマンが来た理由は恐らくそんなところだろう。
でも、神子の称号を金で買ったことには気づいていないはずだ。レイマンの残念なおつむでは、そこまで考えがいたらない。
つまり、証拠はない。
レイマンは憶測だけで決めつけている。
それならいくらでもやりようがあった。
「いったいどうされたのですか! 私がレイマン様を騙すなど、ありえない話です!」
「とぼけるつもりかい? 神官たちを買収して嘘の申告をさせたことは知っているんだ」
「――!? そ、そんなの何かの間違いですよ! 私を信じてくれないなんて……ひどいです!」
床にへたり込んだイリアスは、ボロボロと涙を流す。
その内心は、かつてないほどに焦っていた。
(どうしてそのことを知ってるのよ!? ……あぁ、もう! 最悪だわ!)
まさかそこまで知られているとは思わなかった。
こうなった以上はもう、作戦を変えるしかない。
(泣き落としてこの場をやり過ごすしてやるわ!)
後のことを考えるのは、ひとまず置いておく。
まずはこの窮地を乗り切らないといけない。
「あんまりです! 私はこんなにもレイマン様を愛しているというのに! 私が一番、とそう言ってくれたではないですか! あの言葉は嘘だったのですか!」
涙は女の武器。男という生き物は情に訴えられると弱い。
特にこういう頭がすっからかんのバカには効果が絶大だ。
しかし、レイマンは静かに首を横に振った。
「もう騙されないよ」
イリアスの武器は通じなかった。
「君を神子と認めた神官たちを、僕の側近が問いただしたんだ。そしたら神官たちはなんて言ったと思う? 君に買収された、と口を揃えてそう語ったんだ。……イリア。これでもまだ君は、言い逃れするつもりかい?」
(ヤバいヤバいヤバい! どうしよう!!)
取り繕っていたイリアスの顔が苦々しく歪んでいく。
ごまかしの言葉を言わなきゃいけないのに、何も思いつかない。
「この女を連れていけ。地下牢に入れるんだ」
「はい」
レイマンの後ろに控えていた兵士が動き出す。
両脇からイリアスの腕を掴んで、無理矢理に立ち上がらせた。
「なにするの! 勝手に触んないでよ!」
振り払おうとするも、非力なイリアスでは兵士の腕力にかなわなかった。びくともしない。
かといって魔法で攻撃することもできない。まともに魔法を使えないイリアスには、そんなことはできなかった。
「元婚約者だからって情けをかけるつもりはないよ。覚悟するんだね」
「そ、そんなの絶対に嫌よ! 私は人生を楽しく自由に好き勝手生きるの!! こんなところで終わりたくない!!」
「連れていって」
レイマンの無慈悲な言葉が響く。
引きずられるようにして兵士に連行されていくイリアスは、最後まで声を枯らして泣き叫んでいた。




