【26話】疑惑※レイマン視点
「呪術師からの連絡が完全に途絶えました。バスティン王国に混乱している様子は見られませんし、作戦は失敗したとみるのが妥当でしょう」
「クソがっ! ふざけんなよ!」
側近から報告を受けたレイマンは、私室で声を荒げた。
バスティン王国に暮らす魔物を暴走させ、国内を混乱させる。
国内が十分に疲弊したタイミングを見計らって、戦争を仕掛ける。
混乱しているバスティン王国はロクな抵抗もできずに敗北。勝利したローデス王国が支配権を得る――それがこの『バスティン王国侵略作戦』のシナリオだった。
先日イリアスが提唱したこの作戦を、レイマンはベルムという呪術師に命じた。
金さえ払えばどんなことでもする凄腕の呪術師――ベルムのことをレイマンはそう聞いていた。
だからこそ大金と引き換えに、彼を雇った。
それなのに。
「なんだよ! ぜんぜん使えないじゃないか!!」
結果はさんざん。
バスティン王国を手に入れることはできず、レイマンはただ大金を失っただけだった。
「どうしてこうもうまくいかないんだよ!!」
うまくいかないのは、今回に限った話ではない。なにもかもだ。
良くないことばかりが、もう長いことずっと続いている。
ローデス王国に振りかかっている災いは、日々拡大していくばかり。
収束する気配なんて微塵もなかった。このままいけばローデス王国に待つのは、破滅の未来だ。
「どうして神子がいるのにこうなるんだよ!」
国を豊かにし、災害や外敵から守ってくれる。
それが神子の力だ。つまりは神子であるイリアスがいれば、ローデス王国はそれだけで安泰なはず。
それなのに、そのはずなのに国の状況は悪くなるばかりだ。
一向に良くならない。
もう訳が分からない。
頭がおかしくなってしまいそうだった。
「レイマン様。近頃、民の間ではやっている噂をご存知でしょうか?」
「知るかよ! 噂なんてどうでもいいだろ!!」
最悪な気分のときにくだらないことを言われたレイマンのイライラは、それはもうすごかった。
顔を真っ赤にして、大声で怒鳴りつけてみる。
しかし、側近はひるまない。
さらに話を続ける。
「災いが治まらないのはイリアス様が神子ではないから――というものです」
「おいお前! まさか僕の婚約者を――」
疑っているのか! 、と言いかけたレイマン。
だが、その言葉は腹の中に引っ込んだ。
(もし……もし噂が本当でイリアが神子でないとしたら)
農作物の不作も、各地で疫病が発生しているのも、魔物による大きな被害を受けているのも、それは全て神子の力による恩恵がなくなっているから。
噂が本当だとすると、面白いくらいに全てのつじつまが合ってしまう。
(……確かめる必要があるな)
怒りに染まっていた表情を元に戻したレイマンは、小さく息を吐く。
「どんな方法を使っても構わない。イリアス・シルベリンが本当に神子なのか確かめるんだ」
「承知いたしました。それでしたら、イリアス様を神子と認めた神官たちを問いただします」
一度浮かんでしまった疑惑は、レイマンの頭から消えてくれない。
婚約者にして最愛の女性であるイリアスのことをこれまで頑なに信じてきたが、急に疑わしくなってきた。