【25話】黒幕
バトレアの一件から二週間ほどが過ぎた。
暴走した魔物により多くの被害が発生したものの、死者はひとりも出なかった。
不幸中の幸いだ。
ひどい惨状だったバトレアだが、今は少しずつ復興が進んでいる。
呪いを受けて操られていた魔物たちが中心となって、町を元通りの姿に戻すために頑張ってくれている。
その中には、あのクリムゾンドラゴンの姿もあった。
浄化によって自我を取り戻したクリムゾンドラゴン――ドランは、善の心を持つ優しき魔物だった。
呪いを解いてくれたリーシャとフェイムスに深く感謝し、恩返しをしたいと申し出てくれた。
これからはバトレアで暮らし、バスティン王国を守る守護獣として仕えてくれるそうだ。
しかし、先の一件はこれですべて解決した……という訳ではなかった。
フェイムスの私室。
そこに集まっている、リーシャ、フェイムス、リューンの三名は苦い顔をしていた。
重苦しい空気の中、話を切り出したのはフェイムスだった。
「あのベルムとかいう呪術師、まさかローデス王国と繋がっていたとはな」
ベルムが出てきた小さな戸建て。
ベルムはあの場所を拠点にしていたらしく、そこにはローデス王国が通じている証拠が次々とあった。
魔物を暴走させろ、と依頼したのはローデス王国とみて、まず間違いないだろう。
「しかしローデス王国は呪術師を使って何をしようとしていたんだ?」
証拠は出てきた。
しかし目的は不明だ。
ローデス王国が、バトレアの魔物を暴走させて何をしようしていたのか、というところまでは掴めていない。
「そんなことはどうでもいいぜ!」
リューンが声を張り上げた。
眉間にしわを寄せ、強く拳を握りしめる。
「とにかく俺はローデス王国が許せない!!」
「許せないのは俺とて同じ。この件について国王に問いただし、必ず責任を取らせる」
「そんなまどろっこしいことやってられるか! 今すぐぶっ潰してやる!」
リューンの怒りは激しい炎のよう。
いつも冷静な彼がこんなになっているところを、リーシャは初めて見た。
優しい心を持っているリューンのことだ。
温厚な魔物の心を操ったという非道な行いが、どうしても許せないのだろう。
「お前の気持ちは分かる。だが、いったん落ち着け。感情に任せて動けば多くの血が流れることになる」
「そんなことは俺だって分かってる……分かってんだよ! でも魔物たちの気持ちを考えると、このままって訳にはいかねぇだろ!」
「それはそうだが――」
「安心してください。このままにはなりませんから……絶対に」
ぴしゃり。
確信を得ているかのようなリーシャの声に、フェイムスとリューンがいっせいに驚きを見せた。
次の言葉を待つ二人に、リーシャは続きを話していく。
「神子である私がいなくなって三か月以。神子の恩恵を失ったローデス王国は、もう持たないでしょう」
神子の力というのは、すぐには消えるものではない。
時間とともに、じわじわと失われていく。
しかしこれだけの時間が経てば、神子の力はもう残っていない。
つまりそれは、
「このまま何もしなくても、もうじきローデス王国は崩壊します」
国の終わりを意味していた。