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【23話】クリムゾンドラゴン


「――!? なんて強力な穢れなの!」


 クリムゾンドラゴンから放たれている穢れの量は異常だった。

 バトレアの魔物たちの何倍も――いや、何十倍も強い。こんなにも強い穢れを、リーシャはこれまで見たことがなかった。

 

「このドラゴンに、あなたはいったいどれだけの呪いをかけたのですか!」

「……ほう。それが分かるのですか。どうやらあなたは特別なお人のようですね」


 ベルムは感心したように呟くと、一気に口元を歪ませた。

 

「魔物の頂点であるドラゴン。その中でもこのクリムゾンドラゴンという種族は、強力な力を持っているのですよ。いやあ、こいつを支配下に置くのには本当に骨が折れました。なにしろ抗魔力が異常に高かったですからね。呪いをかけてもなかなか従ってくれなかったのです。ですから何年にもわたり何重にも呪いをかけ続け、先日やっと成功したのですよ」


 キラキラ瞳を光らせ上げた成果を自慢げに口にする姿は、まるで大人に褒めて欲しい子供のよう。

 罪の意識は微塵も感じていなかった。

 

「どうです? すごいでしょう?」

「何がすごいものですか! あなたのしたことは最低です!」

「私と同じく特別なあなたには、この偉業を理解できると思ったのですが……」

「一緒にしないでください!」

「……残念です」


 肩をすくめたベルムはため息をついた。

 

 そうしてほんの少しの間を置いてから、こちらを指でさしてきた。


「いけ、クリムゾンドラゴン! 殺し尽くしてしまいなさい!!」

 

 しかしクリムゾンドラゴンがこちらへ向かってくることはなかった。

 ベルムに向かって片腕を伸ばしたかと思えば、

 

「な、なにをしているのです!?」


 彼の体を手で握って頭上まで持ち上げた。


「私を掴んでどうするんだ! そんなことは命令していないぞ! 早く放せ! あいつらを殺すんだ!!」


 だがクリムゾンドラゴンは、一向にベルムを解放しようとしない。

 それどころか真上を見上げてパックリと口を開け、そして、

 

「おいおいおい、何をする気だ……! やめろ! やめろおおおおおお!!」


 ぽいっ。

 ベルムを口へ放り込んでしまった

 

 クリムゾンドラゴンはベルムの命令を無視した。

 支配下には置かれていなかった。

 

 どうやら、ベルムの呪いは不完全だったようだ。


 口を閉じたクリムゾンドラゴンは喉をゴクリと鳴らしてから、


「オオオオオ!!」

 

 大声で吠えた。

 赤色に光る瞳は、まっすぐリーシャたちを見ている。

 

 瞳が赤いところからして、まだ自我は失っている。

 このままリーシャたちを襲う気でいるのだろう。

 

(早く浄化しないと!)

 

 ここで止めなければ、クリムゾンドラゴンは破壊のかぎりをつくすだろう。

 大きな力をを持つこの魔物が都市部で暴れたなら、計り知れないくらいの被害が出てしまう。

 そんなことになればバスティン王国は終わりだ。絶対に阻止しなければならない。

 

 クリムゾンドラゴンに向けて、リーシャは神子の力を使った。

 いつものように淡い金色の光がクリムゾンドラゴンの体を包む――が、それは一瞬だけ。すぐに光が消えてしまった。

 

「穢れの力が強すぎる……!」

 

 ベルムによって受けた呪いは、とんでもない量だ。

 これまでのように一瞬力を使うだけで、浄化できるわけではなかった。

 

 しばらくの間浄化を続けなければ、祓うことができない。

 

「それなら今度は!」

 

 リーシャはもう一度、浄化の力を使おうとする。

 

(今度は長めに当てる!)

 

「ゴオオオオッ!!」

 

 しかしそれをさせまいとでもいうかのように、クリムゾンドラゴンが爪を振り下ろしてきた。

 狙いはリーシャだ。

 

 クリムゾンドラゴンの爪は、巨大で鋭利。

 こんなものが直撃でもすれば、ひとたまりもない。

 

「させるか!!」


 ギィン!!

 襲ってきた爪が弾かれる。

 

 恐るべき攻撃からリーシャを守ってくれたのは、フェイムスの剣だった。

 

「リーシャ! 怪我はないか!」

「大丈夫です! ありがとうございます!」

「良かった。……それで、リーシャ。ドラゴンを包んだ浄化の光が消えてしまったように見えたが、どういうことだ?」

「穢れの力があまりに強力なのです。これを祓うには、しばらくの間浄化の力を使い続ける必要があります」

「しばらくとはどれくらいだ?」

「一分ほどかと」

「よし。ならばその間、俺がヤツの攻撃から君を守ろう。テイルは走り回って、かく乱してくれ」

「承知! 全力で走り続けましょう!」

「フェイムス様。テイル。どうかお願いします!」

 

 それぞれの役割が決まり、クリムゾンドラゴンの浄化が始まった。

 

 走り回るテイルの上で、リーシャは浄化の力を使っていく。

 

「グガアアアア!!」

 

 クリムゾンドラゴンはそれを黙って見ていない。

 鋭い爪。硬くて太い尻尾――それらが何度も何度も、リーシャに襲いかかる。

 

「リーシャは俺が守る! 絶対に傷つけさせん!!」

 

 迫りくる猛攻。

 フェイムスの剣が、それを何度も受け止める。

 

 しかし回数を重ねるごとに、フェイムスの表情は苦悶に染まっていく。

 

 クリムゾンドラゴンのドラゴンの攻撃は、一撃一撃が鋭くて重い。

 普通の人間ならば一度だって受け止めることもできないだろう。

 

 フェイムスはこれを何度も防いでいた。

 いくら彼が強力な人間だとしても、かかる負担は計り知れない。いっぱいいっぱいなはずだ。

 

(でも、もうすぐです!)

 

 浄化を開始してからもうすぐ一分が経つ。

 あと少しで、クリムゾンドラゴンの呪いを祓うことができるはず。

 

 そして、

 

「オオオオオ!?」

 

 ついにそのときが来た。

 クリムゾンドラゴンの瞳から赤色の光が消えていく。

 作戦は成功だ。

 

「やった! やりましたよフェイムス様!」

 

 リーシャから歓喜の声が上がった――それと同時。

 

 クリムゾンドラゴンの鋭く尖った尻尾の先が飛んできた。

 最後の一撃は、これまででもっとも鋭くすさまじい。

 

 フェイムスは剣の刀身でそれを受けようとした。

 だが、

 

「ッ!?」


 尻尾は刀身を破壊。

 フェイムスの腹部に突き刺さる。

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