【22話】呪いをかけた犯人
一行はバトレアの端にある、広大な荒野にやって来た。
人気のないそこには、ポツンと小さな戸建てが建っている。
「ここです。ヤツの匂いはここからします……!」
戸建ての前で足を止めたテイルは、そこを強く睨んだ。
「案内ご苦労だったな。あとは俺がやろう」
フェイムスがテイルから降りようとした、そのとき。
戸建ての出入り口が開いて、中から人が出てきた。
黒いローブを着た男性だ。
「この男です!」
テイルは鋭い牙をむき出しに。
銀の体毛を逆立て、グルルルル……! 、と唸り男性を威嚇している。
それを受けた男性は怪訝そうな顔で首をかしげた。
「私に何かご用でしょうか?」
「バトレアの魔物たちに呪いをかけて暴走させたのは、貴様の仕業だな?」
「呪い? いったいなんのことでしょう。さっぱり分かりませんが」
「そんな嘘が通用すると思ったか! 私の鼻はごまかせないぞ!!」
テイルが声を張り上げた。
今すぐにでも飛びかかっていきそうな雰囲気だ。
「貴様の匂いはしっかりと覚えている……吐き気を催すような悪の匂いを間違えるはずがない!!」
「呪いを解いた魔物はみな貴様に出会っていると証言している。言い逃れはできないぞ」
「…………これはなんとも。ごまかすのは無理そうですね」
男性はフッと小さく笑う。
びっくりするくらいあっさりと犯行を認めた。
「私はベルム。闇属性魔法を扱う超一流の呪術師です。自分でも言うのも恐縮ですがね」
しかし焦っている様子はない。
余裕たっぷりに自己紹介をしてきた。
「それと……あなたのことは覚えていますよ。なにせ、一番初めに呪いをかけた魔物ですから」
テイルを見たベルムがニヤリと笑う。
「くっ……! 今すぐその喉笛を噛み千切ってやろうか!!」
殺意のこもったテイルの声が飛ぶも、ベルムは気にしていない。
一瞥してから再びフェイムスへ視線を戻した。
「しかし呪いが消えているとは……驚きです。他の魔物にかけた呪いも同様に消えているということでよろしいですか?」
「その通りだ。貴様に操られていた魔物の呪いはすべて祓った。今はもう、元の温厚な彼らに戻っている」
「なんと……私のもくろみは失敗したようですね」
「……貴様、いったいなぜこのようなことをした?」
「ある人物から頼まれたのですよ。大量の報酬と引き換えにね」
「そいつは誰だ!」
「おっと……つい口がすべってしまいました。これ以上は言えません」
「いいだろう……」
フェイムスが腰に携えている剣に手をかける。
「それなら無理矢理に聞き出すまでだ!」
「私を捕らえる気ですか? しかし、できるでしょうかね?」
ベルムは天に向けて片腕を突き上げた。
ドス黒い光が、その腕を包んでいる。
「来なさい! 私の最高傑作、クリムゾンドラゴン!!」
ベルムの片腕を包んでいた黒い光が、空に向けて放たれた。
そうして上空に、一体の魔物が現れた。
黒い光におびき寄せられたかのようにして飛んできたそれは、竜だ。
翼を羽ばたかせた巨大な赤色の竜――クリムゾンドラゴンが、ベルムの真上を飛んでいる。
「オオオオオ!!」
クリムゾンドラゴンは咆哮をまき散らしながら、ベルムの隣へ降り立った。
吊り上がった瞳は赤く光っている。
バトレアで暴走していた魔物たちと同じく、ベルムの呪いを受けて操られていた。