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【21話】変わり果てた街


 王宮を飛び出て数十分。

 バトレアに着いたリーシャは、惨状を目にして思わず口元を抑えた。


「なんてひどい……!」


 破壊された建物。

 燃え盛る火の手。

 あちらこちらから上がる悲鳴。

 

 目に映る光景は、地獄と呼ぶにふさわしいものだった。

 

 リーシャは以前、バトレアに来たことがある。

 まだベムープにいた頃、ロッジの仕事の関係で何度か訪れた。

 

 でも、今とは全然違う。

 人も魔物も仲良く手を取り合って暮らしいて、活気にみなぎっていた街並みは平和そのものだった。

 

 断じてこんな地獄ではない。


(いったい誰がこんなことを……!)


 お腹の底から怒りが湧いてくる。

 

 闇属性魔法を使って、温厚な魔物を操った者がいる。

 どうしてこんなことをしたのか知らないが、なんという極悪非道ぶりだろうか。


「見えたぞリーシャ! 暴走している魔物だ!」

「ガルルルル!!」


 吠えているのは、瞳を赤く光らせている銀色の大きな狼。

 

 シルバーファングという種族だ。

 鋭い牙と爪を持っている。

 

 シルバーファングは一般的には凶暴な魔物とされているが、バトレアに暮らしているシルバーファングは違う。

 彼らは争いを好まず、温厚で人に友好的だった。間違っても危害を加えるような魔物ではない。

 

 でも今は、牙を剝き出しにして王国軍の兵士を襲っていた。

 

 おかしくなってしまった原因は、闇属性魔法の呪いを受けて操られているからだ。

 赤く光っている瞳がその証拠だ。


「――ルゥ! バウバウバウ!!」


 標的を切り替えたのか、馬に乗っているリーシャとフェイムスの方へ体を向けたシルバーファングが猛スピードで突進してくる。

 鋭い牙でリーシャとフェイムスを嚙み殺す気だ。


(お願い! 元の優しいあなたに戻って!)


 瞳を閉じたリーシャは、シルバーファングに向けて浄化の力を放った。

 

 リーシャとフェイムスのほんの少し手前。

 淡い金色の光がシルバーファングを包み込んだ。

 

 スッー……。

 シルバーファングの瞳から、赤色の光が消えた。

 

「ど、どうして町がこんなことに!?」


 正気に戻ったシルバーファングは、ガクガクと顔を動かして周囲を見やった。

 以前とはあまりに変わってしまったバトレアの惨状に、驚愕していた。

 

 どうやら操られていたときの記憶はないらしい。

 

「あなたは自我を失い、操られていたのです。私が今、それを解きました」

「操られていた!? いったいそれはどういうことですか!」

「呪いです。あなたや他の魔物たちに呪いをかけて心を操り、暴走させた者がいるんです」

「暴走……バトレアがこんなことになっているのは、心を操られた魔物が暴走したからなのですか!?」

「そうです」

「そんな……。それでは私がこの惨状を作ったというのか……!」

 

 震えるシルバーファングの声は、悲痛にまみれていた。

 操られていたとはいえバトレアをめちゃくちゃにしてしまった自分自身を、許せないのかもしれない。


「リーシャ。そろそろ行かないと」

「……はい」


 暴走している魔物はこのシルバーファングだけではない。まだまだ残っている。

 彼らのことも、早く浄化してあげなければならない。


 シルバーファングになにか言葉をかけてあげたかったが、今のリーシャにはその時間が残されていなかった。


 それからリーシャはフェイムスと一緒に、バトレアを馬で駆けまわった。

 瞳が赤く光っている魔物を見つけ次第、神子の力を使って浄化。かけられた呪いを祓っていく。

 

 

 そうしたことを十数回ほど繰り返し、ついに暴走している魔物のすべてを浄化し終えた。


「これで全部だな。よくやってくれた。ありがとうリーシャ」


 馬から降りたフェイムスが、リーシャへ手を差し伸べた。

 リーシャはそれを掴み、馬から降りる。

 

 暴走している魔物はもういない。

 これ以上バトレアの被害が広がることはなくなった。

 

 だというのに、リーシャもフェイムスも喜ぶことはなかった。

 険しい顔をしている。

 

「呪いをかけた者を、一刻も早く見つけ出さなくてはな」


 フェイムスの言葉に、リーシャは大きく頷いて同意した。

 

 魔物に呪いをかけた元凶がいる限り、また新たに呪いの被害に遭う魔物が出てきてしまうかもしれない。

 今回の騒ぎを起こした元凶を止めない限り、安心することはできなかった。まだ終わっていない。


 呪いを浄化した魔物に元凶についての心当たりがないか聞いたところ全員が、「記憶を失くす前に黒いローブの男に会っている」と答えた。

 その男がバトレア魔物を操り暴走させた元凶とみて、間違いないだろう。


「しかしどうやってヤツの居場所を突き止めようか……」

「それならこの私――テイルにお任せください」

 

 二人のところへ近づいてテイルと名乗ったのは、先ほどリーシャが浄化したシルバーファング。

 その瞳には深い悲しみと、強い覚悟が宿っていた。

 

「私は鼻が利く。黒いローブの男の匂いなら覚えているので、辿ることができます。ヤツの元までご案内いたしましょう。あなた方に協力させてください」


 バトレアをめちゃくちゃにしてしまったと、テイルは深く後悔していた。

 もしかしたらこれが彼なりの、責任の取り方なのかもしれない。


「あの男を、断じて私は許せない。この落とし前は必ずつけさせる……!」

 

 その声からはふつふつと込み上げる怒りを感じる。

 

 リーシャも同じ気持ちだ。

 温厚な魔物たちの心を操りもてあそんだことを、どうしても許すことはできない。

 

「二人とも、私の背中にお乗りください。狼である私は、魔物の中でもトップクラスの脚を持つ。馬よりもずっと速く走ることができます」

「それは頼もしい。恩に着るぞ」

「ありがとうねテイル。お願いするわ」


 二人が背中に乗るなり、テイルは猛スピードで駆け出した。

 

 その速度はまさに疾風。

 言っていた通り、馬よりもずっと速かった。

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