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【2話】新しい場所、新しい仕事


 レイマンに国外追放を言い渡されてから十日ほど。

 

 今日はその当日。

 リーシャが乗っている馬車が、ローデス王国東側の国境を少し越えたところで停まった。

 

 リーシャの対面に座っていた王国軍の兵士が立ち上がる。

 

「降りろ」


 言われた通りにリーシャが馬車の外に降りると、続けて兵士も外に降りてきた。

 懐から書状を取り出して、読み上げ始める。

 

「リーシャ・シュパルム。貴様は国外追放処分を受けた身だ。今後は二度とローデス王国へ踏み入ることは許されない。もしこれに違反した場合は、非常に重い処罰が下ることになるだろう。いくら貴様が元神子であろうとも、我が国はいっさい手心を加えるつもりはない。肝に銘じておくように――以上が、バスティン王国第一王子レイマン様からのお言葉だ。分かったか?」


(言われなくなたってもう戻らないわよ)


 語気を強めてきた兵士にそんなことを思いながら、リーシャは「承知しました」と返事をした。

 

 兵士は嫌味をこめて鼻で笑ってから、リーシャを一瞥。

 背中を向けて、馬車の中へと戻っていく。

 

 兵士が馬車の中に戻るとすぐ、御者が馬に鞭を入れた。

 人気(ひとけ)のない砂利道にリーシャを置いて、馬車は来た道を戻っていった。

 

「ばいばい」

 

 ガラガラと去っていく馬車に小さく呟き、それとは反対側にリーシャは足を進めていく。

 

 

 晴天の空の下、歩き始めて数十分。

 リーシャは小さな町に着いた。

 

 入り口の看板には『バスティン王国最西端の町:ベムープ』との表記があった。

 それを横目で見ながら、町の中へ入っていく。

 

 周りを見てみれば、お店がぽつぽつと立っていた。

 ローデス王国の王都と比べて人通りはかなり少ないものの、あることにはある。

 

 地方の小さな田舎町といったところだろうか。

 

「ここなら仕事が見つかりそうね」


 多少のお金は持っているが、何日も暮らせるほどの余裕はない。

 早く仕事を見つけて生活費を稼ぐ必要があった。

 

「あ! これいいかも!」

 

 歩いていたら、こじんまりとした薬屋の前に貼ってあった張り紙が目に入った。


 そこには、『従業員募集 ※ただし、ポーションを作れる者に限る』との記載がされている。


 リーシャはローデス王国で、毎日のように大量のポーションを作っていた。

 目を瞑ったって完璧に作れるくらいには慣れている。

 

 募集条件からして、ポーションづくりに関係あるような仕事なのだろう。

 であれば、まさにリーシャにとってピッタリだった。

 

「ごめんください」

 

 店の扉を開けて、店内に入る。

 

 しかし、誰もいなかった。

 小さな机とイス、それから色々な種類の薬が並んでいるガラスケースがあるだけだった。

 

「どなたかいらっしゃいますか?」

 

 店の奥へ声をかけてみると、ややあって腰の曲がった老人がゆっくりと出てきた。

 

 いたたた……、と呟きながら歩く老人は腰を片手でさすっている。

 顔を歪ませていることからして、かなり痛めているみたいだ。

 

「これは綺麗なお嬢さんじゃな。なにかお探しかの?」

「いえ、外にあった従業員募集の張り紙を見てきたんです。まだ募集していますか?」

「しておるよ。ポーションを作れることが条件じゃが、問題ないかの?」

「はい」

「では確かめさせておくれ」


 店の奥に戻っていった老人は、フタのされている小瓶を手に持って再び顔を出した。

 小瓶の中には薄紫色の液体が入っている。

 

 薄紫色の液体は、ポーションの素――魔力水。

 魔力がこめられているこの魔力水に治癒魔法をかけることで、ポーションができあがる。

 

「ポーションを作ればいいんですね?」

「うむ」


 両手で包み込むようにして小瓶を握ったリーシャは、静かに瞳を閉じた。

 手の中にある小瓶へ、治癒魔法をかける。

 

「できました」


 小瓶を老人に手渡す。

 薄紫色の魔力水は、一瞬のうちに緑色の液体――ポーションへと変化した。

 

「まさかもう出来たというのか! しかも、み、緑じゃと!?」


 大きな驚きの声を上げた老人が、ポーションを手に取って顔に近づける。

 まじまじとそれを見つめ、信じられん、と呟いた。

 

「お嬢さん。失礼じゃが、これは本当にポーションかの?」

「……そのはずですけど」

「知っているかもしれんが、ポーションというのは青色をしているんじゃ。ほれ、そこを見てみなさい」


 老人がガラスケースを顎で指した。

 そこに並べられているのは瓶に入った青色の液体。商品名は『ポーション』となっていた。

 

(……この国のポーションは青色なのね。知らなかったわ)


 ローデス王国で毎日のようにリーシャが精製していたポーションは、老人が持っている瓶の中身と同じ――緑色だった。

 どうやら同じポーションでも、国によって違いがあるらしい。

 

「これがポーションだとはにわかには信じられん。しかしなんじゃ、とてつもない力を感じるわい……」


 ゴクリと生唾を飲んだ老人は、緊張しながらリーシャを見上げる。


「……お嬢さん、一口飲んでみてもよいか?」

「どうぞ」


 小瓶のフタを開けた老人は、緑色のポーションを口に入れた。

 喉が鳴ってそれを飲み込むと同時。

 

「ふおおおおお!!」

 

 雄叫びを上げた老人は、両目をカッと見開いた。

 

「な、なんじゃこれは!? 体の奥底から元気がみなぎってくるぞい! こんなポーションは初めてじゃ! すごい、すごすぎる……! なんという効力じゃ!!」

 

 ハイテンションで喋る老人はさらに、

 

「む……! 腰が、あれだけ痛かった腰が! 治った……痛みが完全になくなった!!」

「お役に立てたようで良かったです。……それであの、私は合格なのでしょうか?」


 歓喜している老人に、苦笑いで聞いてみる。

 老人の悩みが解消できたのはなによりだが、結局雇ってもらえるのだろうか。

 

 もし不採用というなら、早く次のところを探さなければならない。

 急かしているようで悪いが、とにかくリーシャは結果を聞きたかった。

 

「お嬢さん。名前はなんという?」

「リーシャです」

「ワシは店主のロッジじゃ。……リーシャちゃん、お主の腕は素晴らしい。最高の人材じゃ! ぜひともウチで働いてくれ!」


 結果、リーシャは無事に合格。

 しかもそれだけでなく、

 

「この通りじゃ!」

 

 頭を深々と下げられてしまう。

 

「ありがとうございます! 私の方こそよろしくお願いします!!」


 大きな笑みを浮かべたリーシャは、ロッジと同じようにして深く頭を下げた。

 

 バスティン王国にやって来て一時間もしないうちに、仕事を見つけるができた。

 なんて運が良いのだろう。

 

(採用してくれたロッジさんには感謝しかないわね。私を雇って良かったって、そう思ってもらえるようにこれから一生懸命頑張りましょう!!)


 頭を下げているリーシャの心は、メラメラと熱いやる気に満ちあふれていた。

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