【19話】器用な女※イリアス視点
「なんて素敵な考えだ! 君は天才だよイリア!」
レイマンの私室。
イリアスの隣にいるレイマンが歓喜の声を上げた。
「よし、さっそく行動に移すことにしよう! 君を婚約者に選んだ僕の目に狂いはなかった!」
「もったいなきお言葉、誠に感謝いたします」
「近頃は色々良くないことばかりだけど、これでローデス王国の力が強まることは間違いなしだ!」
魔物被害の拡大。
疫病の発生。
自然災害の頻発による農作物の不作。
近頃のローデス王国は、それらの不運に見舞われていた。
毎日のように死者が増え続けていて、国民の間では大きな不安が広まっている。
そうなっている原因はたぶん、リーシャがいなくなったから。
国を守っていた神子の力がなくなったせいだ。
(けど、心配はいらないわ。なんとかなるはずよ)
ローデス王国は世界有数の大国。
神子の力がなくたって、ここから盛り返すくらいの力は残っているはずだ。
「それにこの不運だって、きっといっときのことさ。すぐに良くなる。だってこの国には、神子がいるんだからね!」
国がこんな状況になってもなお、レイマンはイリアスが神子であることを信じて疑っていない。
(普通はちょっとくらい疑いそうなものだけど……頭のおめでたいヤツで助かったわ)
この様子なら、まだまだバレる心配はないはず。
これからもずっと、今の贅沢ざんまいな生活を続けられる。
(さて、今日もおねだりしましょうか)
紫の瞳をうるっとさせたイリアスは、レイマンの胸へ飛び込んだ。
両手を腰の後ろに回し、上目づかいに見上げる。
「おやおや。どうしたんだいイリア?」
「私今、欲しいドレスが十着ほどあるんです。でも国民の多くが苦しんでいるこの現状に、お優しいレイマン様は心をきっと痛めているはず……。だからお願いをしていいのか分からなくて……」
「なんだ、そんなことを気にしていたのかい? イリアは本当に優しくて気遣いできる子だね。ありがとう。でも、心配することはないよ。好きなだけ買うといいさ」
微笑んだレイマンは、イリアスの茶髪を優しく撫でた。
「正直言うと、国民がどれだけ死のうがどうでもいいんだ。僕や君と違って、あいつらには価値がないからね。家畜と同じだよ。僕が一番大事なのはね……イリア、君だけだ。君以外の人間がどうなろうと僕は構わない」
(うわ……コイツ最低のクズね。頭が悪くてその上性格も終わってるとか、救いようがないわ)
心の中でありったけの嘲笑を浮かべつつも、
「そんな風に言ってくださるなんて……! あぁ、嬉しすぎて死んでしまいそうです! 私、こんなに幸せでいいのでしょうか!」
顔には大感動の笑み。
ついでに嬉し涙も加えて、言葉に心打たれている感じをもっと強めていく。
(私って本当に器用な女よね)
イリアスは内と外で、完璧に気持ちを使い分けることができる。
魔法はまったく使えないが、その才能とセンスだけは誰よりもずば抜けて高かった。
「レイマン様……!」
そして最終仕上げ。
背伸びして、彼の唇にキスをしてあげる。
こうすればもう完璧だ。
レイマンは愛されていると信じて疑わないだろう。
だってこいつは、バカだから。