【18話】フェイムスの怒り
「いいか、よく考えてみろ! ぬくぬく育った王様が強い訳ねぇだろ! そんな噂はデタラメ、こいつはただの雑魚だ! 今から俺が証明してやるから見てるんだな!!」
地面を蹴ったリーダーが、フェイムスに突撃していく。
「死ねや!」
リーダーは素早い動きで、手に持ったナイフを突き出した。
しかしフェイムスは動じていなかった。
涼しい顔をしている。
スッと立ち上がったフェイムスは、ナイフを握っているリーダーの腕を強引に掴み上げた。
「……なぜだ。なぜよりにもよってこのタイミングで貴様たちは現れた……!」
涼しい顔をしているから冷静なのかと思ったが、それはリーシャの勘違いだった。
フェイムスは表情に出していないだけで、静かに、そしてめちゃくちゃ怒っている。
冷ややかな声には、ナイフのように鋭い怒りが宿っていた。
「ぐわあああああ!」
リーダーが悲鳴を上げる。
でもそれでもフェイムスは、腕を握る力をいっさい緩めようとはしない。
「俺は今すこぶる機嫌が悪い。こんな気分になったのは生まれて初めてだ……! 自分でも何をするか分からない」
「あああああ! いってえええええ! やめろ! これ以上は腕がちぎれちまう!」
「このまま黙って引き下がるというのなら見逃してやろう。だが言うことを聞かなければ……!」
フェイムスが握る力を強める。
ミシミシと骨が軋む音が聞こえてきた。
「分かった! 俺たちが悪かったよ! だからお願いだ! もうやめてくれよぉ!!」
フェイムスが腕を放す。
リーダーは大粒の涙を流しながら、一目散に逃げ去った。
他のメンバーたちも、その後を追うようにして慌てて逃げていった。
「……すまなかった」
バンダナ集団がいなくなったことで、二人きりの時間が戻る。
そうしてからまずフェイムスが口にしたのは、リーシャへの謝罪だった。
「フェイムス様は悪いことはしていません。それなのにどうして謝るのですか?」
「彼らのような輩がいるのは、国の統治が乱れているから。それは国王である俺の責任だ」
唇をきつく引き締め、拳を握ったフェイムス。
空を見上げ、「もっと良い国にしていかなければ」と呟いた。
責任感の強い彼らしい、力のこもった頼りがいのある言葉だ。
でもリーシャは悔しかった。
リーシャはここにいる。こうして今、フェイムスの隣にいる。
それなのに彼はリーシャを見ていない。
全部ひとりで背負い込もうとしているように思えた。
そのことが、頼ってもらえないことが悔しくて、悲しかった。
「私がいます」
立ち上がったリーシャは、固く握られたフェイムスの拳を両手で優しく包み込む。
「私じゃ頼りないかもしれません。でも、なんでもひとりで背負い込まないでください。フェイムス様の隣には私がいます。それを忘れないでください」
フェイムスの瞳からツーと涙がこぼれ落ちる。
きつく引き締められた唇が緩んでいき、やがて笑顔へと変わっていった。
「ありがとう。そんなことを言われたのは初めてだ」
混じりけのない笑み。
混じりけのない言葉。
隣にいるフェイムスはどこまでも汚れのない純真さで、そこに立っていた。
(なんて美しいのかしら……)
時を忘れて見惚れてしまう。
透き通るような美しさにリーシャの心は魅了され、心臓がトクンと波打った。
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