【17話】フェイムスと外でランチ
正午過ぎ。
アクセサリーショップを出た二人は昼食を摂るため、路地裏にポツンと設けられているベンチに隣り合って座った。
先ほどまでいた大通りとは対照的に、人気がほとんどない。
どうしてここを選んだのかというと、人通りの多い場所だとどうしてもフェイムスが注目されてしまうからだ。
二人は、食事は落ち着いた場所で取りたい、と考えた。
そうして選ばれたのが、人気のないこの場所だった。
「今昼食をご用意しますね」
持ってきたバスケットを膝の上に乗せたリーシャは、フタを開けた。
中には入っているのは、いっぱいのサンドイッチだ。
「なんとうまそうだ……!」
隣からバスケットを覗いていたフェイムスが、感嘆の声を漏らした。
「これは全て君が作ってくれたんだよな?」
「はい。お口に合うといいのですけど……」
リーシャの趣味は料理。
時々王宮のキッチンを借りて食事を作ることもある。
今日はせっかくのお出かけということもあって、早起きしてサンドイッチを作ってきた。
「どれ、さっそくいただいてもいいだろうか?」
「どうぞ」
手を伸ばしてサンドイッチを取ったフェイムスは、そのままパクリと口に入れる。
瞬間、
「うまい……!」
瞳をカッと見開いて唸った。
「こんなにもうまい料理を食べたのは初めてだ!」
「お口に合ったみたいで良かったです。でも、ふふふ。それはあんまりにもオーバーな反応ですよ」
「いやいや、決してオーバーではないぞ! これならいくらでも食べられそうだ!」
夢中でサンドイッチを頬張っていくフェイムスは、まるで子供のよう。
リーシャは微笑みながら、それをじっくりと眺めていた。
そうしているだけで楽しい。幸せに溢れた穏やかな時間が流れていく。
(いつまでもこの時間が続けばいいのに)
なんて思っていたら、
「ひゅーひゅー! 真っ昼間からお熱いじゃないのお二人さん!」
背後から声が聞こえてきた。
大通りでフェイムスに声をかけていた人たちのような、温みに溢れた声ではない。
嘲笑交じりの冷やかし声は、たっぷりの悪意に満ちていた。
リーシャとフェイムスは、いっせいに後ろを振り向く。
そこには、下品な笑みを浮かべた数人の若者たちが立っていた。
青いバンダナを頭に巻き、手にはナイフを持っている。
ずっと続いてほしいと願った、フェイムスとの大切な時間。
それは、一瞬のうちに崩れ去ってしまった。
「金目のものを置いてきな! さもないと、どうなるか分かるよな?」
集団の先頭、体躯の大きい男が声を上げた。
この男だけバンダナにドクロの模様が入っている。
おそらく彼が、この集団を率いているリーダーなのだろう。
「こいつの顔どこかで……あ! ま、まずいですよアニキ!!」
リーダーの隣にいる男の顔が青ざめる。
プルプルと震えた指で、フェイムスをさした。
「こいつ、国王のフェイムスだ!」
その声がバンダナ集団にざわつきを与えた。
「フェイムスって王国最強なんだろ!?」「ひとりで何十体もの魔物を倒したっていう話を聞いたことがあるぜ」「そんな化け物にかないっこねぇ……! 早く逃げようぜ!」
彼らから上がる声は様々。しかしフェイムスを強く恐れていることは、どれも共通していた。
(フェイムス様って、そんなにお強い人だったのね)
ロッジから腕っぷしが強いとは聞いていたが、王国最強とまで言われているとは思わなかった。
フェイムスの名前が出たとたん、空気が一気に変わった。
すっかり怯えたバンダナ集団は、逃げだす気満々といった風だ――たった一人を除いてだが。
「黙れ! うろたえるんじゃねぇよ!!」
リーダーの男だけは違った。
フェイムスに怯えることなく、怒声を張り上げた。