【16話】フェイムスとお出かけ
その日。
王都の街にやって来たリーシャとフェイムスは、横並びになって舗装された道の上を歩いていた。
先日交わした約束の通り、二人でここへ出かけにきていたのだ。
リーシャの隣にいるフェイムスは、口周りにびっしりとした髭を生やしている。
でもそれは付けひげ。
初めて出会ったときと同じく、今日の彼はなぜか変装していた。
「どうして今日はヒゲを付けてきたのですか?」
「こうでもしないと民が騒ぐのでな」
「えっ……その割にはバレバレですけど……」
街ゆく人々はフェイムスに対し、「フェイムス様ー!」「国王様だ!」、と喜びの声を上げている。
これは彼の人気が高いことを証明すると同時に、変装の意味がまったくないことも表していた。
しかしフェイムスにはそれが不可解なようで、
「完璧なはずだが……どうしてバレているんだ?」
怪訝そうでいる。
本気で悩んでいた。
(フェイムス様って意外と天然なのかしらね? ちょっとかわいいかも)
優しくて頼りがいがあるフェイムスの、意外な一面。
新たな彼を知ることができたようで、なんだか嬉しい。
思わず笑顔になってしまう。
「どうしたリーシャ? なぜ笑っている?」
「いえ、なんでもありません。……それで、今はどこへ向かっているのですか?」
そういえばまだ目的地を聞いていなかった。
フェイムスの顔を見上げてみると、同時。
「着いたぞ。ここだ」
彼の足がちょうど止まった。
そこはアクセサリーのショップの前だった。
二人はアクセサリーショップへと入る。
ガラスケースの中には、宝石の指輪やペンダントがいくつも飾られていた。
(こういうところって初めて入るわね)
ローデス王国にいた時は、朝から晩まで毎日が仕事の日々。
自由な時間なんてないに等しかったため、こういうところに来る機会もなかった。
「なにか気に入ったものはあったか?」
「えーと……そうですね」
いきなりそう言われても、パッと答えが出てこない。
キョロキョロと顔を動かしていく。
そうしていくうちに、目にとまったものがあった。
「……きれい」
小さな吐息が漏れる。
魅入られたように、リーシャはそれを手に取った。
リーシャが手に取ったのは、イエローダイアモンドのペンダント。
淡い金色の輝きは、神秘的でいて美しい。
装飾の控えめな繊細な銀細工の鎖が、宝石の存在感をより際立たせている。
このペンダントを見たリーシャは、その瞬間、フェイムスの金色の瞳を思い浮かべた。
イエローダイアモンドの輝きは、彼の瞳にそっくり。
だからこそ数ある品物の中で、このペンダントが目に留まった。
「これが気に入ったのか?」
「……はい。とても」
気持ちをこめて口にしたリーシャは、フェイムスの金色の瞳を見つめた。
それは宝石とそっくりな輝きをしている。
やっぱり思った通りだ。
「これを君にプレゼントしよう」
「よろしいのですか? でも私、プレゼントを貰うようなことは何もしていませんけど」
「そんなことはない。君は治癒効果の高い緑ポーションを大量に作ってくれているだけでなく、疫病を根絶してくれた。君に救われた人間は何人もいる。感謝してもしきれない。だからどうか、これを受け取ってくれないだろうか?」
思わず涙してしまいそうになる。
ローデス王国ではいくら仕事をしても「神子なんだからやって当然」と言われ、誰にも感謝されることはなかった。
でも、今は違う。
リーシャの働きぶりを評価して、こうして大きく感謝してくれる人がいる。
それがどれだけ嬉しいことか。
励みになり、大きな力となる。
これからも一生懸命頑張ろう、と心からそう思える。
「ありがとうございます! 一生大事にしますね!」
気持ちを込めて、満面の笑みでお礼を言った。
そうすると、フェイムスはバッと顔を背けた。
「そ、それでは購入してくる!」
リーシャの手からペンダントを取ったフェイムスは、慌てて会計カウンターに向かっていく。
一瞬だけチラッと見えた顔は赤かったような気がしたが、どうだろう。気のせいかもしれない。