【15話】デートのお誘い……と思っていたけれど
夜の十時。
リーシャの私室に、フェイムスがやって来た。
「夜分にすまないな。少し話があるのだが、いいだろうか?」
「どうぞ。お入りになってください」
部屋に入ってきたフェイムスがソファーに座った。
リーシャはその対面のソファーに腰を下ろす。
今日のフェイムスはいつもより落ち着きがない。
緊張している風に見える。
(話って、もしかして……!)
ラントルでの一件のような、神子の力を使って解決してほしい問題がある、といった類の話ではないだろうか。
フェイムスのこの表情からして、かなりの危険が伴うような話なのかもしれない。
でもリーシャは、このあとにどんなことを言われたって首を縦に振るつもりでいた。
自分を全力で信頼してくれるフェイムスの気持ちに応えたい。
「一日だけでいいのだが……来週のどこかで時間を作れる日はあるか?」
「問題ありません。いつでも大丈夫です」
ポーション作りにはかなりの余裕がある。
一日くらい作業しなくても、ノルマはこなせるだろう。
「では、街へ出かけないか?」
「……街でなにかしらの問題が起こっているのですね。かしこまりました。バスティン王国のため、神子の力を使って穢れを払いましょう!」
身を乗り出したリーシャはやる気満々に宣言。
しかしフェイムスは、目を白黒させるだけだった。
「いや、そうではない。君の力を借りにきたんじゃないんだ」
「……では、いったい?」
「その……だな」
フェイムスは言いづらそうにしてもじもじしてから、
「単純に、君と一緒に出掛けたいんだ」
小さな声でポツリと漏らした。
「…………へ?」
まったく予期していなかったことを言われたものだから、気の抜けた声が出てしまう。
でも数秒後、リーシャはフェイムスの話を理解。
(ももももも、もしかしてこれって、デートのお誘いよね!?)
顔がりんごのように、バーッと真っ赤に色づいていく。
「行きたいです!!」
考えるよりも先に、言葉が口をついて出ていた。
フェイムスは素敵な男性だ。
そんな人とデートできるなんて最高のイベント。行かない理由なんてあるはずがない。
(でも、どうしよう! いきなりデートなんて心の準備が!)
あたふたあたふた。
体温が一気に上昇していく。頭がごちゃごちゃになってパンクしそうだ。
「良かった。君には数え切れないくらいの恩があるからな。ここに来てから、ほとんど外に出ていないだろう? だから日々の礼を兼ねて、羽を伸ばしてほしいと思ったんだ」
日々王宮に閉じこもってポーション作りに励んでいるリーシャを、フェイムスは気遣ってくれたのだろう。
なんて優しい人だろうか。
でもそれはつまり気にかけてくれたというだけで、決してデートのお誘いという訳ではなくて。
(なんだ……そういうことだったのね。早とちりしちゃったわ)
どうやら、心の準備は必要なかったみたいだ。
その事実に半分ホッと、もう半分はショックを受けていた。