【14話】リーシャへ恩返しをしたい※フェイムス視点
王宮に帰って来たフェイムスは、リューンを私室に呼んだ。
「急に呼び出して、なんだよ?」
「お前に話しておきたいことがある」
フェイムスは帰りの馬車で聞いた話を、リューンに話した。
「……そうだったのか。リーシャちゃん、神子だったんだな」
「それとこれは他の者には絶対に口外するな。この話が広まればリーシャの言う通り、変な噂が立ってしまうかもしれない。俺とお前だけの秘密だ」
「分かってるさ。……しかし、神子か。話には聞いたことがあったけどよ、まさか実在していたなんてな。古びた伝承だとばかり思っていた。言っちゃ悪いが、唐突過ぎてあまりに現実味がないぜ」
リューンの気持ちも分かる。
リーシャに秘密を打ち明けられてから、まだ一日と経ってない。フェイムスも未だに驚いているくらいだ。
「そういえば神子って、そこにいるだけで国に恵みをもたしてくれるありがたい存在なんだよな?」
「あぁ。そう言われているな」
「近頃さ、農作物の収穫量が急激に増えたよな」
バスティン王国は農業には不向きな地で、これまで収穫量は少なかった。
しかしそれが三か月ほど前から、どうしてか急に増え始めた。
三か月ほど前――リーシャがこの国やって来た時期と重なる。
これは偶然とは思えない。
しかも、それだけではない。
「魔物による被害も激減しているな。これも近頃――三か月ほど前からだ」
「それってもしかして……」
「リーシャがここにいることで、神子の力がバスティン王国に恵みをもたららしている――と考えるのが妥当だな」
「緑ポーションだけでもありがたいのによ……まさにリーシャちゃん様様だぜ」
「まったくもってその通りだ。彼女には感謝してもしきれない」
「けどよ、ローデス王国の第一王子はなに考えてんだろうな?」
わざとらしくため息を吐いたリューンが肩をすくめた。
「リーシャちゃんを婚約破棄するなんてさ。あんなにかわいくていい子なのに、いったいどこが気に入らなかったんだよ? まったく理解に苦しむぜ。もし俺が婚約者だったら一生大事にするのに」
「――!? お、おい!!」
感情が昂るあまり裏返ってしまったフェイムスの声が、部屋いっぱいに響いた。
フェイムスの顔は真っ赤になって、眉をピクピクとさせている。
「お前まさか……まさかとは思うが、リーシャを狙っているのではあるまいな!?」
「……いや、冗談だけど。そんなに怖い顔するなって」
「……なんだ。それならいい」
外見内面ともに完璧なリューンは、女性から見ても魅力に溢れた男のはず。
そんな男がリーシャを狙っているのだとしたら、なんて考えて気が動転してしまったが……どうやら違ったみたいだ。
フェイムスは自分でもびっくりするくらい、ものすごくホッとしていた。
(いや、待て。どうして俺はホッとしているんだ?)
自分のことなのによく分からない。
こんなことは初めてだ。
「初々しいな」
リューンがニヤニヤしているも、謎を探求中のフェイムスは気付けないでいた。
「なにかリーシャちゃんにお返ししてやれよ」
「それはそうだ。リーシャには助けられてばかりだ。恩返しをしなければならん」
リューンの言葉はごもっとも。
しかし、
「なにかいい方法はあるだろうか」
女性との交友関係がないフェイムスには、その方法が分からないでいた。
「それならどこかへ連れていってやれよ。リーシャちゃん、ほとんど王宮から出てないだろ? 外へ連れていってあげたら気分転換になって、喜ぶんじゃないか」
筋道の通った提案が返ってきた。
こういうことをサッと思いつけるあたり、リューンという男はすごいヤツだと思う。
(俺ならどれだけ時間をかけても、こんなこと思い浮かばないだろうからな)
感謝半分悔しさ半分。
デキる幼なじみに相反する気持ちを抱きつつ、フェイムスは紙とペンを取り出した。
「そうと決まればプランを練らなければ」
「フェイって本当にまじめだよな。……ま、そこがお前の良いところなんだけどさ」
一生懸命にペンを走らせていくフェイムスに、リューンは小さく笑みを浮かべていた。




