【13話】正体を明かす
これでラントルの問題は無事に解決した。
「ラントルを救っていただき、誠にありがとうございました。このご恩、一生忘れません!」
大声でお礼を言うバドに見送られながら、リーシャとフェイムスは王宮へと帰る馬車に乗った。
馬車が動き出すなり、
「それにしても驚いた」
対面のフェイムスが声を上げる。
「疫病の原因を特定するだけでも驚いたが、まさかあの場で取り払ってしまうとは。君はとてつもない力を持っているのだな」
褒められたリーシャは喜ぶでも照れる訳でもなく。
バツが悪くて視線を逸らす。
(あそこまでやったら、ただの治癒術師じゃないってことバレちゃったわよね)
疫病の原因を特定して取り除くなんて、普通の治癒術師にはまずできない。
間近で見ていたフェイムスは、リーシャはただの治癒術師ではない、と感じたはずだ。
これ以上正体を隠すのは無理だろう。
ラントルに行きたい、と言った時点でこうなることは分かっていた。
でもいざそのときになると、やっぱり緊張してしまう。
(気が重いけど……正直に話すしかないわよね)
覚悟を決めたリーシャは、逸らしていた視線を正面へ。
「フェイムス様にお伝えしたいこと――いいえ、違いますね……。謝罪しなければならないことがあります」
首を横に振ったリーシャは、フェイムスの瞳をじっと見つめる。
「私は治癒術師ではありません。隣国、ローデス王国の聖女。しかも特別な力を持つ聖女――神子と呼ばれる者なのです」
「普通の治癒術師ではないとは思っていたが、いやまさか神子だったとはな……。しかし神子というのはそこにいるだけで、国を豊かにする力を持っているのだろう? ローデス王国からしてみれば、絶対に手放したくないはず。それなのにどうして君は、バスティン王国へ来た? もしかして、やむを得ない事情があって逃亡してきたのか?」
「いいえ、違います。国外追放されてしまったのです」
「神子を国外追放しただと……。ローデス王国はなぜそんなことを」
怪訝そうな顔をしているフェイムスに、リーシャは自嘲をこめた笑みを浮かべた。
「私、お払い箱なんだそうです」
婚約者である第一王子レイマンに、すこぶる嫌われていたこと。
リーシャの他に神子を名乗る者が新たに現れたので、お前はもう必要ない、と言われて国外追放を言い渡されたこと。
それらのことを、リーシャは細かく話していった。
「第一王子に追放された神子だと知られたら、訳アリ神子、なんて言われて変な風に噂されるかもしれない――それが怖くて身分を偽っていたのです。……自分勝手な理由ですよね。これまでずっと嘘をついていて、申し訳ございませんでした」
リーシャはフェイムスに――この国の国王に嘘をついていた。
いかなる理由があろうとも、これは到底許されないことだ。
今の仕事を辞めさせられるのはもちろんだろうが、それ以上の罰を受けることも覚悟しなければならない。
長期間の懲役、国外追放――もしかしたら、死刑になる可能性だってある。
目線を伏せたリーシャは、フェイムスの次の言葉を緊張しながら待つ。
でもフェイムスは責めるでも怒るでもなく、
「辛い思いをしたな。話してくれてありがとう」
ただ優しく笑って、リーシャの頭をそっと撫でた。
「――!?」
驚きとともにリーシャは顔を上げる。
「どうして……私は国王であるあなたに嘘をついていたのですよ……! 処罰を受けるのではないのですか?」
「処罰だって? そんなことするものか」
優しく笑ったフェイムスが、リーシャの手を取った。
「リーシャのおかげで多くの者が救われた。君はこの国にとって必要な人間だ。これからもその力を俺に貸してほしい」
その言葉は、まっすぐで強くて嘘偽りがない。
そこにあるのはただ一つ。リーシャを信じている、という揺るがない意志だ。
身分を偽っていたことを知ってもなお、フェイムスは強く信頼してくれた。
それがどんなに嬉しいことか。
温かさで胸がいっぱいになって、はちきれそうになる。
瞳から涙がこぼれる。
次から次へと溢れ出て止まらない。
「こんな素敵な人に仕えることができて、私は本当に幸せ者ですね……!」
ポロポロと涙を流しながら、リーシャは笑う。
今胸に感じている温かさを、少しでもフェイムスに伝えられたらいいのに。
その対面で、フェイムスは視線を逸らした。
顔は真っ赤になっている。照れているのかもしれない。
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